第三十二幕 梅枝
「あのアイリーンとカイルという二人が来たのもエルフの里に向かわせるためだ」
「それは本当か?」
「でなければ説明がつかぬ」
ロディも魔獣の端くれだ。
失われし一族の末裔が接触してくることがどれほど珍しいことかは知っている。
さらに手を貸すなど奇跡に近い所業だった。
「まるで掌の上で踊っているようだな」
「まるでではない。理によってあるべき姿に引き寄せられているというところだ」
「あるべき姿?」
「理は常に誰かを呼び寄せる。理に魅入られた者は必ず理の元に辿り着く。そう言われている」
理に魅入られた者の末路は死だけだ。
そう伝えられて、長い間その姿だけを見てきた。
だから理は命を食らう化け物として恐れられていた。
「キルシェもルルーシェも理に魅入られている。だから理に触れた者の死体に遭遇し、理を知っている魔獣と出会い、理へ案内が出来る調停者に出会った。それはすべて決められたこと」
「決められたことか」
「さよう。そして我も魅入られておる。さて我は休む。昼過ぎ起こせ」
「分かった」
町による余裕はないだろうから食料の買い出しに部屋を出る。
ギルドマスターでなくなった日から怒涛の日々を過ごした。
まさか人であることを止める決断を迫られるとは思っていなかった。
「定めか」
呟いてみると全てのことが必然であり仕組まれたと思ってしまった。
ギルドマスターに無理やりなったことも。
合いの子を育てたことも。
旅に出られるようになったことも。
全ては理に辿り着くための準備だったのではないだろうか。
「理とは一体何なんだ」
古い遺跡があれば研究者がこぞって謎を究明しようとする。
なのに理に関しては不可侵を貫くというよりも存在そのものに触れないというのが近い。
昼に差し掛かり人が増えてきた。
約束の時間が近づいているから宿に戻ることにした。
ベッドに寝ていたはずのルルーシェはロディに凭れて寝ている。
「・・・時間か」
「あぁ」
「ルル、起きよ」
ゆっくりとした動作で体を起こすと目を擦った。
体が休息を求めているから眠そうだが体調は戻ってきている。
「ルル、大丈夫か?」
「ちょっとだるいけど大丈夫」
「ロディはどうだ?」
「問題ない」
エルフの里に行くことを簡単に告げるとルルーシェの眉が寄った。
伯父であるアンディに会えるかもしれないことに喜ぶかと思ったがあまり良い感情を抱いていないようだ。
アンディがキルシェを殺そうとしたことは知らないから別の理由だと考えられた。
「どうした?」
「あいつ嫌い」
「嫌い?」
「うん」
言葉にできる明確な理由というのはないのだろう。
ただ子どもが直感的に敵と味方を判別するようにアンディを敵としてみたのだろう。
ルルーシェに危害を加えるつもりはないがキルシェに対しては殺意を持っていることから間違ってはいない。
「行くのを止めるか?」
「ううん行く」
何かルルーシェの中で決めたことがあるのだろう。
今は時間が無いから詳しいことはあとにして出発をすることにした。
漠然とした東に向かうという方法だがエルフの里の位置が分かっているロディに任せるほかない。
人込みから離れて街道を進む。
すぐに整備されていない森の中に入った。
「そろそろよかろう」
「頼むぞ」
二人が乗れるほどの大きさになると振り落とさない程度に走り出した。
木々を避けて時には森の上部を飛び越えた。
ルルーシェは単純に楽しんでいるが振り落とされたら死ぬと分かっているキルシェは必死だ。
休憩をすることなく走り続け惑わしの森まであと少しというところでロディは止まった。
野宿をするためということではなく止まったのには訳があった。
「ご苦労なことだ」
「ロディ?」
「エルフの精鋭たちが行く手を阻んでおる」
木の後ろから武器を持ち防具を付けたエルフが出てきた。
ハーフエルフと違い耳が尖り目は深い青という統一した容姿だった。
ロディが精鋭と言うだけあり隙というのはなかった。
また複数で戦うことに慣れているのか連携というところも申し分ない状態だ。
「我らは里に向かうのみ。通してもらおうか」
「里に近づく不届き者は排除するのが掟」
「なら力ずくで通るのみ」
背中にいたキルシェとルルーシェは降りて攻撃の構えをとる。
ポイズドラゴのように木に隠れてやり過ごすという戦法は許してくれなそうだった。
戦いにおいてはルルーシェとロディは強いが今は体力が万全ではない。
相手のエルフは体力が万全であるだけでなく連携ができるくらいの人数だ。
「手加減ができぬ。許せ」
先手必勝としてロディはエルフに飛びかかった。
爪で引っ掻き抑えつける。
内臓を圧迫されたのだろう抵抗する力が弱くなり気を失った。




