第三十一幕 真木柱
「話すと言いながらほとんど話していないな」
「あら、気づいちゃったのね。自分で真実にたどり着くというのも謎の探求の醍醐味だと思うのだけどね」
「いつか答え合わせをしてもらうからな」
「楽しみだわ」
空が白み始めていた。
アイリーンは連れ回すのは限界だと感じてルルーシェのいるところへ向かうことにした。
戻ることに危険があればロディがこっそりとアイリーンに知らせる手筈になっている。
それがないということは峠を越えたということだ。
「そろそろ戻りましょうか」
「問題ないのか?」
「確約はできないけれど大丈夫じゃないかしら?」
純粋な人がいないからアイリーンの言葉は仕方ないが不安を煽る言葉でもあった。
不安は残るがルルーシェが心配という気持ちの方が強い。
「どうかしら?」
「熱は下がったから問題ないだろう」
「それは良かったわ。さてと、カイル行くわよ」
「・・・そうか」
アイリーンの気まぐれは今に始まったことではない。
カイルは特に驚くこともなく答えた。
冷たいような対応だが長命であるがゆえに深く関わる者を選ぶ傾向が強い。
ロディも同じ気持ちであることと縄張り意識が強いからアイリーンとカイルがいなくなるのは賛成だった。
「もう行くのか?」
「えぇ依頼も完了しているしね。でも協力体制は解消していないから好きなように依頼は受けられるわよ」
「いやそれは心配していないけど」
「そうなの?まぁ縁があったらどこかで会いましょう」
森で会った時と変わらず唐突にいなくなった。
これが人ではない者との付き合い方なのかと納得することにした。
「助かった。ありがとう」
「どういたしまして」
「息災でな」
ベッドではルルーシェは眠ったままだが熱が下がったということで一安心だった。
別れるのもすぐなら寂しいという感情はないが一体何のために一緒にいたのか不思議だった。
「人でいうところの麻疹のようなもので心配することはないらしい」
「そうか」
「あとこの宿は支払いをしてあるから一週間くらいは泊まって良いとのことだ」
「そうか。なぁエルフの里がどこにあるか知ってるか?」
「エルフの里ならここより東とやや南に行ったところにあるぞ。惑わしの森の奥にある」
エルフの里の場所は知っていた。
案内を頼めば出来るだろう。
「キルシェよ」
「うん?」
「外で何があったのかは知っている。カイルに聞いたからな」
ルルーシェの伯父と名乗っていたハーフエルフがキルシェを殺そうとしたことも。
ルルーシェをエルフの里に連れて行こうとしたことも。
アイリーンの眷属であるカイルは手に取るように分かった。
それをロディに伝えただけだが話す手間が省けた。
「おそらく同族が迷惑をかけたとして迎え入れてくれるだろう」
「ロディ?」
「だがそれは賭けでもある。エルフに迎え入れられるということは理に触れると同義だ。よくよく考えよ」
「ルルと生きたいと思ってからは理に触れることを考えていた。考えるまでもなく答えは出ているさ」
ルルーシェの頭を優しく撫でる。
いつか老いて離れることになるのを何よりも恐れていた。
できることなら時を止めてしまいたいと願うほどに。
「仕方ないな。案内をしてやろう。これも定めよ」
「悪いな」
「昔からな。理に魅せられた者はいた。誰もが無謀だと分かっていても理に触れることを望んだ」
それで成功した者を見たことがなかったがキルシェなら成功するのではないかと思う。
ルルーシェと共に生きるなら種族の違いの寿命の差は埋められない。
アイリーンのように眷属にして同じ時を生きる術をルルーシェは持っていない。
可能性は理に触れることだけだ。
それも結果が分からない無謀な賭けだ。
「エルフの里に行くにしても体を休めておけ」
「そうだな」
「おそらくは次の満月を逃せば道に惑うことになる」
「次の満月というと明後日か。エルフの里はどれくらいで着くものだ?」
「人の足にて十日というくらいか」
「おい」
「何のために我が案内をすると思っている?」
ロディが本気で走れば間に合うかもしれないというくらいだ。
通常の旅では間に合わないのなら走ってもらうしかなかった。




