外伝第2話:「元・婚約者の転落」
外伝第2話をご覧いただきありがとうございます!
婚約破棄され、実家の没落とともに一気に底辺へと転落した元・令嬢、三月の現在を描きます。かつての傲慢さが生んだ因果応報と、取り返しのつかない後悔に苦しむ姿をお楽しみください!
都内の高級住宅街から少し離れた、古びた賃貸アパートの一室。湿った空気と狭い空間に閉じ込められたその部屋で、三月は膝を抱えて床に座り込んでいた。
かつて旧華族の令嬢として、高級ブランドのドレスを纏い、高級フレンチで優雅に紅茶を傾けていた彼女の面影はどこにもない。すっぴんの顔にはやつれた色が浮かび、乱れた髪はそのまま放置されていた。
実家である旧華族の不正と脱税が公になり、父の会社は倒産、すべての資産は国税局や債権者によって差し押さえられた。贅沢の限りを尽くしていた生活は一晩ですべて剥ぎ取られ、現在は細々とアルバイトを掛け持ちしながら、膨大な借金の利息を返すだけの底辺の生活へと転落していたのだ。
「どうして……どうして私がこんな目に……」
三月の唇から、乾いた声が漏れる。
すべてはあの時、西園寺治臣との婚約を失ったことから始まった。いや、正確には、治臣の本当の価値に気づかず、彼が差し伸べていたかもしれない庇護を自らの傲慢さですべて踏みにじったせいだった。
あの時、平社員の女に嫉妬し、見下すような言葉を投げつけなければ――。
もし、あの冷徹な瞳の奥にある本当の力に気づき、従順な妻を演じきっていれば、今頃は西園寺家の次期当主夫人として、何不自由ない栄華のなかに君臨していたはずだったのに。
ピコン、と古びたスマートフォンの画面が暗い部屋の中で光った。
画面に表示されたのは、アルバイトの給与明細と、クレジットカードの引き落とし不能を告げる冷酷な通知だった。
そしてそのニュースの隅には、西園寺グループが新たに立ち上げた出版事業「星月文庫」が順調に業績を伸ばし、若き御曹司・治臣の経営手腕が各界から絶賛されているという記事が小さく掲載されていた。
記事の写真には、満面の笑みを浮かべるあの「平社員の女」――英美里と、その傍らで穏やかでありながらも圧倒的な気高さを纏う治臣の姿が写っている。
「っ……! あんな女……! あんな平社員のどこが良いのよ……!」
三月はヒステリックに叫び、スマートフォンを床へと投げつけた。しかし、どれほど悔し涙を流そうとも、どれほど過去を呪おうとも、一度壊れた運命の歯車が元に戻ることは絶対にない。彼女が選んだ傲慢さと他者を見下す態度の代償は、あまりにも重く、そして冷酷だった。
窓の外では冷たい夜雨がアスファルトを叩き、栄華の夢から覚めた彼女の孤独な現実を、ただ静かに濡らし続けていた。
外伝第2話「元・婚約者の転落」をお読みいただき、ありがとうございます!
すべてを失い、狭いアパートでかつての栄光を夢見て泣き崩れる三月の哀れな末路が描かれました。因果応報とはまさにこのことですね。
次回、外伝第3話では、「星月文庫」で英美里が見出した一癖ある天才新人作家と、それを裏で操る治臣の知られざるエピソードが描かれます。お楽しみに!




