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第10話:「広報部の新しい風と、焦燥の婚約者」

第10話をご覧いただきありがとうございます!


英美里が西園寺グループの広報部で働き始め、治臣との間に穏やかな絆が育まれていくエピソードです。その一方で、二人の親密な雰囲気を目撃した婚約者・三月の心に激しい嫉妬と焦りが芽生え始めます。物語が大きく動き出す予感をお楽しみください!

西園寺グループの本社ビル、その広報部の一角に英美里の姿があった。


最初は「こんな大企業の、しかも自分が場違いではないか」と恐縮しきりだった彼女だが、いざ業務が始まると、そのプロとしての手腕と誠実さが周囲の信頼を急速に集めていった。


かつて小さな出版社で培った編集眼と、本に対する妥協のない情熱は、巨大企業の堅苦しい広報戦略に新鮮な息吹をもたらしていた。


「英美里さん、先ほどのプレスリリースの校正、非常に的確でしたよ」

「あ、治臣さん……! ありがとうございます。おかげさまで、うまくまとまりました」


治臣がフロアに足を運ぶたび、英美里はパッと花が咲いたような笑顔を見せた。

彼女にとって治臣は「大企業の御曹司」というより、あの雨の日に自分を救い、新しい居場所を与えてくれた恩人であり、何でも気さくに対話できる唯一無二の存在だった。


そして治臣にとっても、計算や利害関係なしに自分の言葉を真っ直ぐ受け止めてくれる英美里と過ごす時間は、冷え切った日常における唯一の安らぎとなっていた。


二人が自然に言葉を交わし、穏やかな空気を共有する姿。その光景は、広報部の窓から密かにフロアを観察していた一人の女性の視線に、鋭く突き刺さっていた。


三月だった。


治臣の婚約者である彼女は、定期的な連絡なしに本社を訪れた際、偶然その光景を目撃してしまったのだ。いつも自分に対しては冷徹で、形式的な会話しか交わさない治臣が、あんなにも柔らかく、温かな眼差しを「ただの平社員の女」に向けている。


(あの女は一体……? なぜ、治臣さまがあんな顔を……!)


三月の胸の内で、激しい動揺と黒い嫉妬の炎が渦巻いた。

彼女にとって治臣は、将来「西園寺の財産」のすべてを手に入れるための絶対的なパートナーでなければならない。そこに、自分以外の、しかも金目当てですらない泥臭い女が入り込む余地など、本来はあってはならないはずだった。


「ただの気まぐれよ……。あんな身分の低い女が、私に勝てるわけがないわ」


三月は唇を噛みしめ、バッグの持ち手をきつく握りしめた。しかし、一度芽生えた不安と焦燥は、日を追うごとに彼女の心を蝕んでいく。治臣の心が自分から離れつつあるという現実から目を背けられないまま、彼女は歪んだ対抗心を募らせていった。


一方、そんな三月の焦りなど露知らず、治臣は英美里との穏やかな日々の中で、自分の内面の変化を静かに噛り締めていた。


お金や権力では買えない、心からの信頼と温もり。それを失いたくないという感情が、彼の冷徹な胸の奥底で、確かな熱を持ち始めていたのだった。

第10話「広報部の新しい風と、焦燥の婚約者」をお読みいただき、ありがとうございます!


利害関係のない英美里との時間が治臣にとってどれほどかけがえのないものになっているか、そしてそれを知った三月の歪むプライドが描かれました。平穏な日常の裏で、着実に破局へのカウントダウンが始まっています。

次回、第11話では、英美里にさらなる試練が訪れ、それが治臣の決意を決定的なものにする展開が描かれます。どうぞお楽しみに!

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