第8話:審判の淵で交わす冷たい契約
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名頃の夜が突如として変貌した。静寂を保っていた霧が、鋭く異質な線香の香りに切り裂かれる。村の入り口に、金色の刺繍が施された白装束を纏う背の高い男が足を踏み入れた。その手には錫杖が握られ、木造家屋の静寂を打ち破るように激しく打ち鳴らされている。
「無月の腐臭と、忌まわしき呪いか」男は低く呟いた。彼の名は草薙新。光のクランに属するエリート陰陽師であり、江戸の存在を「汚れ」と見なす者だ。
屋敷の中、江戸は縁側に座り、雲に隠れた月を見つめていた。伽椰子はもう床を這ってはいなかった。彼女は江戸の背中に寄り添い、失うことを恐れるかのように、青白い腕を少年の首に固く巻き付けている。
「来たか」江戸は静かに言った。
伽椰子が震えた。外から放たれる鋭い聖なる気配を感じ取っていたのだ。その恐怖が彼女をより独占的にさせる。彼女は江戸の膝の上に上がり、切実な瞳で少年の銀色の瞳を見つめた。
「カ、ハ……(私を離さないで……)」
「この庭に足を踏み入れる者は、誰であろうと容赦はしない」江戸は冷たい声で答えながらも、伽椰子の黒髪を静かに撫でた。
突如、伽椰子が江戸を引き寄せ、その冷たい額を江戸の額に押し当てた。そして、冬の空気のように冷ややかな唇を重ねる。それは人間のような温もりを求めるものではなく、魂の繋がりを確認する儀式のようだった。
江戸の体内の血が共鳴し、その接触を通じて強大なエネルギーが伽椰子の霊体に流れ込む。伽椰子の身体は江戸の腕の中で密度を増し、より確かな実体となって現れた。
――ドォォンッ!
表門が木端微塵に砕け散った。草薙新がそこに立ち、彼の錫杖が眩い光を放っている。
「反吐が出る! 無月の者が、呪いと魂を分かち合うとは!」新は錫杖を高く掲げ、叫んだ。「その怨霊を放せ。さもなくば、共に焼き尽くしてやる!」
江戸はゆっくりと離れ、立ち上がった。左手は今や傍らに立つ伽椰子の手を強く握ったままだ。
「騒々しいな」江戸の瞳が濃厚な紫色のオーラを放ち、新の光を飲み込んでいく。「彼女との時間を邪魔した罪、高くつくぞ」
伽椰子が微笑んだ――美しくも恐ろしい微笑みだ。彼女は江戸の影の中へと消え、侵入者を排除する準備を整えた。




