第7話:青白い傷痕の裏に隠された赤い糸
#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス
江戸の力が爆発した後、地下室は再び静寂に包まれた。鏡の中から現れた影は闇の破片となって砕け散ったが、伽椰子は湿った畳の上に座り込んだままだった。貫かれた彼女の胸からは黒い煙が立ち昇っている――それは自浄作用のない、超自然的な深い傷だった。
江戸はその女の前に膝をついた。伽椰子は震え、大きな瞳で虚ろに江戸を見つめている。今この瞬間に消滅させられても構わないという、諦めのような眼差しだった。
「馬鹿な真似はするなと言ったはずだ」江戸は淡々と告げた。だが、その手は伽椰子を突き放しはしなかった。
江戸は氷のように冷たい伽椰子の手を掴んだ。そして自分の親指を噛み切り、鮮紅の血を滲ませる。
――無月の血だ。
「飲め」江戸が命じた。
伽椰子は一瞬ためらったが、やがてゆっくりと江戸の指先から滴る血を舐めとった。刹那、怨霊の身体が跳ねる。江戸の血に含まれる生命力と呪力が伽椰子の内へと流れ込み、胸の穴を塞いでいく。黒い煙は消え去り、代わりに穏やかな薄紫色のオーラが彼女を包み込んだ。
だが、江戸はそこでは終わらなかった。
彼は部屋の隅に転がっていた、母(黒鉄)の古い裁縫箱を手に取った。中から銀の針と、微かに光を放つ「赤い糸」を取り出す。
「こっちへ来い」江戸が囁いた。
江戸は伽椰子をその腕の中に引き寄せた。初めて、痛みや反発を伴わずに二人の肌が触れ合う。江戸はその赤い糸を使い、伽椰子の青白い肌に残る傷跡を象徴的に「縫い」始めた。針が通るたび、伽椰子にとって未知の温もりが伝わっていく。
伽椰子が、微かな喉鳴りの音を漏らした。それはもはや呪いの響きではなく、安らぎを感じている猫のような声だった。彼女は江戸の首筋に顔を埋め、少年の香りを吸い込む。――線香と、名頃の森、そして強烈な血の匂いが混ざり合った香りを。
「お前はもう、この屋敷の単なる呪いではない」赤い糸の最後の結び目を伽椰子の手首に作りながら、江戸は言った。「お前は僕のものだ。お前に触れようとする者は、無月の血統が相手になる」
伽椰子が顔を上げた。先ほどまでの恐ろしい形相は次第に影を潜め、伝説に語られる孤独で美しい女のような姿へと変わっていく。言葉を発することはできなかったが、彼女は江戸の制服の襟を掴んで引き寄せ、息苦しいほどの沈黙の中で互いの額を合わせた。
屋敷の外では、それまで道の方を向いていた案山子たちが、一斉に背を向けた。彼らは首を垂れ、地下室の方を見つめている。あたかも、今この瞬間に「主」と永遠の契約を結んだ「女王」へ敬意を表しているかのように。
この関係は、普通の愛ではない。二つの闇が互いを補完し合う絆だ。
「これからは、僕の影の中にいろ」江戸が呟いた。
伽椰子の姿は薄れて消えたが、床に落ちた江戸の影は今や異常に長い髪を持ち、少年の足に愛おしげに絡みつく指先が見えていた。




