第9話:黒き月の下、血の饗宴
#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス
木造屋敷の庭が、凄まじい重圧によって爆発した。草薙新は息を呑んだ。先ほどまで眩く輝いていた彼の錫杖が、まるで目覚めつつある「闇」に怯えるかのように、その光を失っていく。
「馬鹿な……なんだ、このプレッシャーは……!?」新は叫び、必死に防御結界を唱えようとした。
エネルギーの嵐の中心に、無月江戸が立っていた。彼の黒髪はゆっくりと伸び、額には皆既日食を模した無月の封印紋が浮かび上がる。同時に、江戸の右腕からは黒鉄の血による鋭い銀色の輝きが放たれた。
伽椰子の姿はもう隣にはなかった。彼女は溶け込むように江戸の身体へと同化したのだ。伽椰子の黒髪は江戸の左腕を生きる鎧のように包み込み、江戸の左目は垂直の瞳孔を持つ真紅の「呪いの眼」へと変貌を遂げた。
【無月江戸:覚醒――霊魂一体の陣】
「草薙新……」江戸の声は、冷徹なバリトンと伽椰子の掠れた囁きが重なり、二重に響いた。「お前は、太陽を忘れた場所に光を持ち込みすぎた」
新が攻撃を仕掛ける。「死ね、化け物が!」彼は錫杖を振り回し、数千の霊をも焼き尽くす白炎の波を放った。
江戸は避けない。ただ、伽椰子の髪に包まれた左手を掲げた。
――シュッ!
音速で伸びた髪が、江戸に触れる前に白炎を微塵に切り裂いた。それだけではない。新の足元の影から突如として数千の青白い手が溢れ出し、陰陽師の足を掴んでその脛をバキバキと砕いた。
「ぎ、ぎあああああぁぁぁ!」新が悲鳴を上げる。
江戸が一歩踏み出すたびに、名頃の地が震えた。彼は黒鉄の血を通わせた右手で、新の首を掴み上げる。江戸の爪は今や剃刀よりも鋭く、新の皮膚を切り裂き、聖なる血が地面へと滴り落ちる。
「お前の光は、無月家の罪を照らすにはあまりに弱すぎる」江戸は新の耳元で静かに囁いた。
突如、江戸の肩越しに伽椰子の顔が浮かび上がり、新に向けておぞましい微笑を浮かべた。そして江戸の接触を通じて、男の魂を強制的に引きずり出し始める。新は激しく震えた。肉体的な苦痛だけでなく、江戸の愛によって純化された伽椰子の憎悪に、魂を貪られる感覚に襲われたのだ。
江戸は新の身体を高く掲げた。「吐け……最深の地獄へ送る前にな。誰に送り込まれた? 誰が無月の継承者が名頃に戻ったと草薙クランに伝えた?」
新は血を吐き、恐怖に目を見開いた。「お前は……何も知らない……。お前の父親は……惨劇で死んだんじゃない……あいつは……」
新が言葉を終える前に、庭の隅にいた古い案山子が突如として爆発した。中から口封じのための黒い針が飛び出し、新の心臓を狙う。
江戸は一振りでその針を叩き落としたが、新は精神的衝撃で気を失ってしまった。江戸は崩れ落ちた敵の身体を無感情に見つめる。再び実体化した伽椰子が背後から江戸の首を抱き、少年の頬に残った返り血を舐めとった。
「父さんの過去は、思ったより腐っているようだな」江戸が呟いた。
遠くで、名頃中の案山子たちが一斉に血の涙を流し始めた。無月家の巨大な秘密が剥がれ落ちようとしている。新の来襲は、これから始まる真の嵐の序章に過ぎなかった。




