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第10話:虚無の中の鼓動

#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス


江戸の身体から溢れ出した紫色の残光がゆっくりと消えゆき、庭には無残に破壊された屋敷の跡が残された。草薙新は門の隅で力なく横たわっていたが、江戸はもう彼を気に留めることはなかった。


突如、江戸の身体から力が抜けた。二つの血を同時に覚醒させた反動が、彼の体力を激しく消耗させたのだ。彼は膝をつき、肩で息を乱す。


「江戸くん……」

 囁きが聞こえた。それは以前よりもずっと澄んだ、人間に近い声だった。


江戸の影から伽椰子が現れた。彼女はもう、あのおぞましい這いずる姿ではなかった。神秘的なまでの優雅さを纏い、宙を滑るように近づくと、地面に崩れる直前の江戸を支えた。彼女は江戸を優しく抱き寄せ、冷たくも柔らかな胸元に彼の頭を預ける。


「うるさいな……心臓が爆発しそうだ」

 江戸は目を半分閉じ、力なく呟いた。


 伽椰子は言葉で答えなかった。彼女はゆっくりと自分の首を覆っていた布を解き、前の話で江戸が施した赤い糸の縫い跡を見せた。そして江戸の震える手を掴み、その傷跡の上にそっと置いた。


突如、伽椰子が江戸の瞼にそっと触れた。一つ、また一つ。それから、生と死の境界を越えた者だけが知る古の呪文を囁く。


 刹那、江戸の身体を襲っていた激痛は、安らぎに満ちた冷たい感覚へと変わっていった。伽椰子は再び顔を近づけ、二人の絆を深めるように痛みを分かち合う。江戸は、存在しないはずの伽椰子の脈動を感じた。どういうわけか、二人の魂は同じ周波数で共鳴していた。


「私のために、無理をしすぎましたね」

 伽椰子が囁く。彼女の瞳から透明な黒い涙がこぼれ、江戸の頬を濡らした。


 江戸は目を開け、雲間から差し込む月光の下で、驚くほど美しく見える伽椰子の顔を見つめた。「お前のためにやったんじゃない。お前が僕のものだからやったんだ。無月のものに触れることは、誰であっても許さない」


 伽椰子は悲しげに、だが深い執着を込めて微笑んだ。彼女は江戸を支え、屋敷の中の屋根裏部屋へと導く。月明かりだけが差し込む暗闇の中で、伽椰子は江戸を畳の上に横たえた。そして、広がる自らの長い黒髪で少年の身体を包み込み、温かくも親密な守護の結界を作り上げた。


「眠りなさい、私の主」

 伽椰子は青白い指で江戸の頬をなぞりながら囁いた。「今夜は、私があなたを悪夢から守ります。あなたが目を閉じたとき、心に映るのは私一人だけでいい……」


 江戸は伽椰子を引き寄せ、彼女を自分の腕の中に抱き込んだ。二人は沈黙の中で横たわる。虚無を背負う人間と、怨念を纏う怨霊が、今、名頃の村で最も純粋で、最も禁忌的な絆の中で一つになった。


 外では、血の涙を流していた数千の案山子たちがゆっくりとその目を閉じ始めた。まるで、木造屋敷の中にいる新しい主たちに、静かな時間を与えようとするかのように。

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