第4話:綿の沈黙に満ちた教室
#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス
山の斜面に佇む名頃高校の分校は、何年も前に閉鎖されるべきだった古びた木造校舎だ。しかし、この学校は忌まわしい方法で「生きて」いた。
江戸は1年A組の教室に足を踏み入れた。青白い日差しの中で、朽ちた木の香りと埃が舞っている。
教室には三十の机があった。しかし、呼吸している人間はわずか三人。残りは? 古い制服を着た等身大の案山子が二十七体、机の上に手を重ねて端然と座っていた。ボタンの瞳が、黒板を虚ろに見つめている。
三人の人間の生徒たち――青ざめた顔の男子一人と、沈んだ表情の女子二人――は、江戸が入ってきた瞬間に凍り付いた。
「だれ……お前?」男子生徒が震える声で尋ねた。
江戸は答えなかった。彼は最後列の空席に向かって歩いた。案山子の列の脇を通り過ぎたとき、あり得ないことが起きた。
――ギギッ……ギギギ……。
一体、また一体と、案山子たちの首が百八十度回転し、江戸の動きを追った。布の首が捻じれる音が静まり返った教室に響く。案山子たちは、自分たちの縄張りに侵入してきた頂点捕食者に道を譲るかのように、わずかに身を引いた。
江戸は席に着いた。静かな教室に、カバンを置く音が雷鳴のように低く響く。
「無月江戸だ」短く告げた。
刹那、教室内の温度が急激に下がった。江戸の足元の影から、薄暗い黒いオーラが滲み出す――それは空虚なる無月の血の具現だった。オーラは床を這い回り、周囲の案山子たちの影を長く伸ばし、恐怖に震えさせた。
いつもは教室の天井に潜んでいる伽椰子ですら、今回は破れたカーテンの陰から覗き見るのが精一杯だった。彼女は近づこうとはしなかった。
教師が入ってきた――死体のような顔をした老人だ。彼は案山子たちが動いているのを見ても驚きもしなかった。しかし、江戸と目が合った瞬間、教師は出席簿を床に落とした。
「む、無月……? 『黒き末裔』……なのか?」教師は唇を青くして囁いた。
江戸はただ黒板を見つめていた。右腕の脈動を感じる――闘争を渇望する黒鉄の血だ。この学校のように呪いの濃度が高い場所にいると、彼の力は解き放たれるのを待てずに暴れそうになる。
「授業を続けてくれ」江戸は淡々と言った。
授業中、声を出す者は一人もいなかった。他の生徒たちは、呼吸の音を立てることさえ恐れていた。まるで、いつ爆発するか分からない原子爆弾の隣に座っているような気分だった。
最前列の席で、一体の女子生徒の案山子が突如として真っ黒な涙を流した。その案山子は江戸を振り返ろうとしたが、彼の顔を見る前に、頭部が突然外れて床に落ちた。――ドサリ。
江戸は微動だにしなかった。彼は知っていた。自分の存在が、この村の危うい均衡を壊し始めていることを。
彼の身体に流れる二つの血は、単なる遺産ではない。それは、彼を阻もうとする生者と死者のすべてに対する「審判」なのだ。




