第19話:不滅の月食と、太陽の終焉
#名頃の村 #無月江戸 #伽椰子 #覚醒 #執着 #ダークロマンス
その死闘は、もはや人間の論理を超越していた。天照源治は聖剣を振るい、祖谷の谷を覆う雲をも切り裂く光の一撃を放つ。無月江戸は劣勢に立たされていた。影の鎧は砕け、肩からは鮮血が滴り落ちる。
「無月の継承者が、この程度か!」源治は咆哮し、とどめの一撃のために剣を高く掲げた。「その死肉を喰らう幽霊共々、塵に還るがいい!」
江戸は膝をついた。しかし、剣が振り下ろされる直前、伽椰子が江戸を正面から守るように現れた。その霊体を盾にして、江戸を庇ったのだ。
「江戸くんを……傷つけさせない……!」伽椰子の悲鳴が、次元を震わせた。
聖なる光に焼かれ、傷つく伽椰子の姿を見た瞬間、江戸の中で「死んでいた」何かが爆発した。父が遺した秘術の巻物の言葉が脳裏をよぎる。――『無月の血は単なる闇ではない。それは、すべてを飲み込む「無」そのものだ』
「――もう、十分だ」江戸が囁いた。その声は、もはや人間のものではなかった。
江戸は立ち上がり、伽椰子を引き寄せた。彼は伽椰子の手を握り、二人の力を合わせるように自らの胸へと集中させた。無月と黒鉄の力が混ざり合う、運命の交差点へと。
【切り札:終末の無月――終焉月食】
刹那、名頃の村全体が完全な暗闇に飲み込まれた。源治が放っていた擬似太陽の光は、風に吹かれた蝋燭のように虚しく消え失せる。江戸の背中からは、数千の赤い糸と伽椰子の黒髪で編み上げられた「虚無の翼」が広がった。
江戸が跳ぶ。その速度は光を超えていた。
――斬。
わずか一秒。聖剣を握っていた源治の右腕が、肩から消失した。源治が悲鳴を上げる暇もなく、伽椰子がその背後に現れ、江戸の虚無エネルギーを纏った指先で、クラン当主を制圧した。
「これは両親の分だ。そしてこれは……伽椰子の流した涙の分だ」江戸が冷たく告げる。
江戸は源治の胸に掌を叩きつけた。虚無のエネルギーが源治の体内へと流れ込み、その存在を消滅させていく。クランの象徴であった太陽は、夜風に吹かれる黒い灰へと変わり、崩れ去った。
天照源治、死亡。
名頃に再び静寂が訪れた。江戸は激しく肩で息を吐き、瞳の色は元に戻ったが、その身体は限界を迎えていた。伽椰子が優しく彼を受け止める。彼女は江戸を離さず、静まり返った戦場の中で、慈しむように彼を抱きしめた。
「私たちの勝ちですよ、江戸くん」伽椰子が囁く。その頬を、安堵の涙が伝った。
江戸は伽椰子の顔を見つめ、あふれ出す愛情とともに彼女と想いを分かち合った。戦場の残骸の中で、二人はまるで新しい世界が始まったかのように、固い絆を確かめ合う。
「世界なんていらない、伽椰子」江戸が愛おしそうに呟いた。「お前さえいれば、どんな場所でも楽園だ」
伽椰子は江戸の存在をその身に刻み込むかのように、強く抱きしめ返した。「決して離しません。永遠の先まで、あなたは私のものです」
周囲にいた数千の案山子たちは一斉に頭を垂れた。今、太陽を滅ぼした「闇の支配者」たちに、静かなる敬意を払うかのように。




