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第三十六話 準備は大切です。

 今日は朝からアレスと各方面に回らなければいけない。で、早速回っていく。



 アーサーの家に行った話。


「バリスタ貸してください」

「お前、いきなり言ってもダメだろ! 物事には順番があるんだぞ!」

「ああ、いいよ。話を通しておくよ」

「何でこれで借りられるんだよ!」



 傭兵クラン道標に行った話。


「ダンジョン潜りたいので、護衛してください。バリスタかつげる人と、打てる人が必要です」

「はい。我々もダンジョンに入りたかったのでありがたい話です」

「なんで詳細聞かずに話が通るんだよ!」



 魔術師ギルドに行った話。


「ダンジョンでバリスタを魔法で固定して欲しい」

「いいわね。それができれば、城を壊す方法が根底から変えられるかも?」

「相手はワイバーンだからね!? 国に不満はないからね?」



 教会本部に行った話。


「お願いがあって」

「引き受けましょう」

「こえーよ! ちゃんと内容確認しよ?」



 こんな感じでサクサク回れた。お願いよりも雑談の方が長くて大変だった。最後にハンターギルドだ。なんか久しぶりな感じがする。ノルマがなくなり行かなくて良いとなると、行きたくなるのは不思議だ。


 ハンターギルドの中に入る。相変わらず騒がしい。まだ夕方前なのに酒盛りしている。こいつらはちゃんと働いてるのか? この言葉は俺に刺さる。考えるのはやめておこう。

 中で何人かと目が合う。珍しいものでも見るような顔をした後、ジョッキ片手に近づいてくる。


「S級がきたぞ!」

「なんでいつも通りのフードなんだよ! 俺も見たかったぞ帝国装備!」

「S級! また奢ってくれ」


 なんとまぁこの時間から酔いつぶれてるじゃないか。流石にだらけすぎじゃないか?


「なんでこんな早い時間から飲んでるんだよ。ダンジョンはどうした?」

「ダンジョン帰りだ! 低い階混むから、深夜に入るんだよ!」

「今日もついに俺達も宝石が出たぞ! 祝いの酒だ! レオも飲め!」


 ああ、なるほど。地上と違いダンジョンは昼夜がない。となると人がいない夜の方が実入りはいいのか。飲みのお誘いは丁重にお断りして、ハゲのところに向かう。


「ドイル。久しぶり」

「ああ、ギルドに顔を出すとは依頼をなにか受けるか? 今S級向けの依頼はないんだが……」


 受付台の向こうでドイルが書類の束を横に退けた。相変わらず腕が太い。


「今日は付き添いだ。ほら、アレス」

「お、おう。六階に挑むため、タント達の力を借りたい」

「ふむ、噂のワイバーンの攻略は考えたのか?」


 アレスが俺の方を一度見て、頷く。脳内フレンドに説教されて、リーダーの自覚が芽生えたのかもしれない。覚えてないかもしれないが、怒られそうで聞けない。


「バリスタを借りる手配ができた。あれにロープをつけ地面にたたき落とす」

「……待て。あれは城門の備品だろう。誰が首を縦に振った」

「レオの隣人だ。元近衛騎士団長のな」

「あれは数打って当てる兵器だ。素人には扱いが難しいと思うぞ」

「クラン道標に依頼を出した。運び、撃つのは任せられる」

「傭兵ギルドはダンジョンに入れん。国に申請が必要だ。時間がかかるぞ」


 アレスはニヤリと笑い話を続ける。


「男爵相当の俺の護衛だ。これでも貴族の身分なんでな」

「……」

「ここに子爵相当もいるぞ。頭が高い」

「お前は黙っとけ!」


 ハゲに怒られた。ハゲは口を閉じて、頭を抑えて考え込む。


「……書類上では通る」

「やはりいけるか!」

「いけてしまう。悪いことばかり頭を使いやがって……成果を出した後の後始末はこっちくるぞ」

「そこは仕事だ任せたぞ!」


 ドイルの嫌がる顔を見て、笑顔を見せるアレス。わかるわー。美味しいところだけ食べて、片付けは人任せだから楽しいんだよな。そして、それはアレスにも言える。全部アレスが報告したことにより、俺は関係のない善意の第三者だ。問題が起きても知らぬ存ぜぬを通せる。素晴らしい。


「バリスタを持ったまま撃つことはできるのか……?」

「そこは魔術師ギルドに依頼を出した。ついでに、教会にもお願いした」

「……そいつらもお前の護衛か?」

「魔術師ギルドは、謎解きのアドバイザーで、教会は俺の腰が痛いからかかりつけのヒーラーだ」


 ドイルは更に頭を抱え、遠い目をし始める。かかりつけのヒーラーが大神官だと知ったら、この目はどこまで遠くなるんだろう。教えてやる義理はないので黙っておく。


「例えば地質調査など、ハンターの活動を支援する調査については、外部の者の立ち入りが認められている。拡大解釈をすれば、全て通る。ただ問題が起きた時、全て降り掛かってくるぞ。主に俺とギルマスに!」

「つまり大丈夫ってことだな! 相談してよかったよ! タントはどこにいるか知ってるか?」

「二階にいる! 絶対に問題起こすなよ!」


 頭に青筋を浮かべて怒るドイル。ハゲだとすぐ怒ってるのがわかって便利だなと思ったけど、余計なことを言ってはいけない。許しを受けたら撤回される前に逃げるのだ。


「ありがとな!」


 アレスと颯爽と階段を登る。アレスは三段飛ばしだ。昨日は瀕死状態だったのが嘘のようだ。そういえば二階は初めてだな。何があるのかな。


 アレスがドアをノックし、返事も待たずに開ける。中は会議室のようだ。タントと前見た人達がいる。金髪の人は名前を聞いた気がする。ル……なんだかって、ルから始まる名前だったはずだ。ダメだ思い出せない。


「レオ。S級おめでとう。祝いに行けなくてすまんな」

「レオ覚えてるか? トーリだ。久しぶり」


 金髪が名乗る。全然違った。名乗ってくれて助かった。そしてタントはいつも通り礼儀正しい。ドワーフがちゃんとしているという概念はもうすっかり頭に定着した。


「久しぶり。S級とか言われても何も変わらないよ。それより、会議室で何の相談してたんだ?」

「パーティ内で作戦会議をするのに使っている。今はダンジョン攻略に向けてだな」

「ちょうど良かった! タントの旦那のパーティに話があって、大規模パーティを組んで六階を攻略したい。手伝ってくれ」


 アレスが前置き無しで誘う。流石アレス。絶対に断られるだろうな。タントが露骨に嫌な顔をする。


「エルフとは相性が合わない。やめておくよ」

「あいつら話をすればいい奴らだぞ! 頭が戦闘のことしかないけど。今回はエルフなしだ。いつ帰ってくるかわからない」

「話は聞いたがエルフなしで六階を突破するのも厳しいと思うがな。レオも参加するのか?」


 無言で首を振る。一階全ての虫を駆逐してから誘ってくれ。


「今回は傭兵ギルドと魔術師ギルド、教会から人を出してもらって大人数で攻略予定だ。ハンターが足りない。是非参加してくれ」

「ふむ。俺達も五階に手間取っていていい機会かもしれんな。人数が増えりゃ取り分は減るが、減った取り分と五階で足踏みを続けるのと、どっちが損かは考えるまでもない。話だけでも聞かせてくれ」


 長くなりそうだから、一言言って俺は下の階でタバコとコーヒータイムだ。コーヒーを飲みながら周りを見渡す。知らない人が増えてる気がする。ダンジョン効果か? 偉そうにしてるやつがいるが、また絡んで来ないか少し心配だ。これフラグじゃないからな。

 周りの会話を盗み聞きすると、軍邦なんちゃらのパーティだとか言ってる。そんな感じの国があったな。国名は覚えてないけど、軍邦って言葉は聞き慣れていないから覚えていた。思えばリーシュ達も他国から来ている。エルフってことで嫌われていたからその辺のこと気にしていなかった。

 これからますます他国の人が増えると面倒なことも増えそうだ。やはり家に引きこもるに限るね。でも、誰か他人同士が喧嘩を始めたら、俺も賭ける側の人間に初めてなれるのか。それはそれで面白そうだな。軍邦の人、頑張って喧嘩を売るんだ。アレス辺りがお勧めだ。

 そんなことを考えていると、ギルドに駆け込む人がいた。泥まみれの汚い格好だが、凛とした顔つきであちこちを探している。よく見ると服には血が固まっていて、髪には小枝が刺さっている。金髪が揺れて特徴的な長い耳が見える。リーシュだ。弟のことが気になるので放置せず手を挙げて場所を知らせる。険しいリーシュの顔に満面の笑みが浮かび、そしてこちらに突撃してくる。


「レオ! 会いたかった!」

「ぐえっ」


 リーシュに抱きつかれ変な声が出る。オートシールド仕事しろ。そのままリーシュが頬っぺたに何度もキスをしてくる。抱きつかれたところまでは有りだ。久々に見たら可愛かったし。ただ汗臭い。獣臭い。そしてこれは決してキスではない。唇を使った攻撃だ。普通に痛い。周りの目も気になるし、軍邦の人など目を丸くして驚いている。


「とりあえず落ち着け」

「レオに会いたかった! 弟は峠を越えたよ!」


 そいつは良い知らせだ。だけど、時と場所を考えてくれ。エルフと同じ変人の仲間だと思われたら大変だ。


「……良かったな。おかえり」

「うん! ただいま! レオに会いたくて走って帰ってきた」

「他の人達は里に残ったのか?」

「……里? クロイとイーサは馬車でむかってきている。イーサはダレンに会いたいって」


 こいつだけ走ってきたのか。エルフの中にもまともな常識があるやつがいたことに驚くべきか、リーシュの非常識に頭を痛めるべきか判断が難しい。


「レオの家に行ったらいなかった。塀を越えて家を一周したけど気配を感じなかったからこっちにきた」

「おい、不法侵入するな」


 なんて奴だ。インターホンを無視したらドアを壊して入ってくる可能性まである。一度きちんと常識について語り合いたいが多分話を聞かないだろう。これは諦めるべきだな。アーニャがいる日じゃなくて良かった。悪名高きエルフが不法侵入してきたら、一生物のトラウマになること間違いなしだ。


 一旦離れたリーシュがまた俺の腕を掴んで、なにか言おうとしている。物凄く嫌な予感がする。


「レオ! 私とクロイは、決めた!」

「……何をだ?」

「レオに恩を返す。一族総出でだ!」

「いらないからやめてくれ」

「必ず返すぞ! まずは身近なお世話からだ。クロイは執事になるって言ってたぞ!」

「頼むからやめてくれ……」


 有能なメイドがストレスで退職してポンコツが残ってしまう。そして兄の方が執事とかなんの冗談だ。何一つ得しない、むしろ迷惑な恩返しである。気になるのは一族総出のくだりだ。三匹ですら迷惑なのにさらに増えたりしないよな? 頼むぞエルフの偉い人。馬鹿な判断をするなよ?


「レオはモテるな! 羨ましいな!」

「我が目を疑う光景だな。本当によく懐いている」


 他人事のアレスが参上である。あとタントも。二人揃って降りてきたということは、上の話はついたらしい。タントが渋い顔のまま付いてきているあたり、納得したというより押し切られたんだろう。


「リーシュ。俺に恩を返したいなら、アレスとタントのダンジョン攻略を手伝ってやってくれ。俺も頼まれたけど、面倒くさいから代わりに頼む」

「うーん。レオのために料理を覚えたかったけど、レオがそういうならわかった!」


 危ないところだった。料理を覚えたいという奴は信用してはならない。覚えてから言うべきだろ。いつも通り面倒事はアレスガードを使って華麗に回避できたようだ。


「最強のメンバーが揃ったな。タントも構わないだろ?」

「うーむ。この態度が続いてくれるならな」


 タントはまだ疑っている。俺の平穏のために折れてくれタント。


「ちゃんと二人の言うこと聞くんだぞ」

「わかった。任せろ!」


 素直なエルフを見て、驚愕の顔をするタント。今まで会ってきたエルフがどんだけ酷かったか垣間見える。まぁうちのエルフも変わらないけど黙っておこう。


「それよりリーシュちょっと臭いぞ。今すぐ風呂に入れ」

「わかった! レオの家で入る!」

「ダメっ」

「わかった! 宿で入る!」


 言えばわかってくれるんだよ。表面上はだけど。その返事を信用しないで家のセキュリティのレベルを上げる方法を考えないとな。電験の資格をとる計画もまだ何もしてない。考えても実現する方法がないことに気づき絶望する。


「このメンバーならレオも来るよな!」

「行かない」


 アレスがなし崩し作戦を使ってきた。残念ながらそれは俺には通じない。行くメリットの一つでも上げてくれれば考えなくもないが、それはアレスには無理だと思う。アーニャにコスプレさせるとか、毒キノコを超える料理を作ってくれるとか、だ。

 この数日間、俺の家はとても静かだった。アレスは死にかけたことは置いといて。この静けさに終わりがきたことは間違いない。

 まぁ人の命が一つ助かったんだ。多少の五月蝿さは目を瞑ろう。多少だからな。ダンジョンが六階で終わらず、もっと下の階まであることを切に願おう。


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