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第三十一話 アレス探検隊その二

 結論から言おう。五階は、ヤバい。

 こんな語彙力のない感想、リーダーとして情けない限りだが、他に言いようがないんだからしかたない。とにかく、ヤバいんだ。


 俺たちは、本日もダンジョンに潜っている。メンバーは前回同様、斥候のダレン、エルフのリーシュ、その兄のクロイ、友人のイーサ、そして俺アレスだ。人族二人にエルフ三人。王都でいちばん胃に穴が空きそうなパーティは今日も健在である。


 目的も変わらない。一階の赤い扉を開け、リーシュ達の弟を救う手立てを見つけること。鍵は前回、四階のボス――ミノタウロスから一つ手に入れた。残りの鍵は二つ。この階かはわからないが、ボスが守っているはずだ。


 ちなみに今日は、レオがギルドに顔を出す日でもある。昨日、本人がそう言っていた。あいつが受付でドイルに絡まれている頃、俺は地面の下で命を削っているわけだ。同じ日の、同じ王都で。……いや、比べるのはよそう。虚しくなるだけだからな!


 五階へ続く階段を降り切った瞬間、本能が「戻れ」と言った。

 まず、光だ。四階よりも壁の青白さが濃い。松明がいらないどころか、互いの顔色まで死人みたいに照らしてくる。一階から一段ずつ明るくなってきたということは、下へ行くほど光が強くなる仕組みなんだろう。次に、空気。生暖かくて、湿っている。人族には鬱陶しいだけだが、鱗のある連中には、さぞ居心地のいい寝床に違いない。そして広さだ。天井は俺の背丈の三倍、横幅は通路というより広場だった。ここまで持て余す造りだということは、それを持て余さない図体が歩き回っているということでもある。

 この土壌が、強敵を育てているのではないか。そう推測してしまうくらいには、根拠が揃いすぎている。


 光る壁に手を当ててみる。これは砕いても光り続けるのだろうか。苔が生えており、触ると同時に光が弱まる。ひやりと湿った感触が、墓石を撫でているようで、触ったことを後悔した。縁起でもない!


「止まってください」


 ダレンの声が、いつもより硬い。羽根ペンを走らせる手も止まっている。


「……足元、罠です。床の罠がやたら多いです。それにモンスターの気配を複数感じますが、音が高い。ミノタウロスくらいの大きさかもしれないです」


 嫌な報告だ。命懸けで倒した四階のボスが、このフロアでは雑魚として出てくるとしたら、撤退しか選択はない。

 角の向こうから、複数の足音がする。足音のたびに、僅かに床が震えて、爪先まで伝わってくる。かなり大きい。

 現れたのは、おそらくリザードマンだ。リザードネックを二倍に大きくしたような巨体で、ボロボロの剣と盾を装備している。数は五匹。横並びに広がりながら、ジリジリと間合いを詰めてくる。武器を持ち、隊列を組むだと。チッ! 知性があるのか!


「数でくるぞ! 固まれ! ダレンは下がっていろ!」


 俺は足に魔力を集中させ飛び出した。前回教わったやり方だ。一匹目の首を狙って剣を振り下ろすが、盾で弾かれる。盾ごと切り裂く予定だったが、相手が上手い。だが構わず、手に魔力を溜めて二度三度と叩きつける。金属が悲鳴を上げて、ようやく盾が砕けた。そのまま止めで首を切り落とす。

 一匹倒すだけで、もう剣が重い。腕が重いんじゃない。剣そのものが太ったみたいに感じる。

 不意に、気配。一匹が横っ飛びに飛びかかってきていた。速い! 避けきれ――ないと思った瞬間、風が横を抜けた。リーシュの銀色に輝く剣が、相手の喉を的確に裂いている。相変わらず、化け物みたいに速いな。

 遅れて、左の脇腹が熱くなった。見れば革鎧が三本、まっすぐ裂けている。爪の先だけが、届いていたらしい。血は滲む程度で済んだが、リーシュがあと半呼吸遅ければ、今ごろ俺の腸は床に出ていた。四階までなら、雑魚にここまで踏み込ませることなんてなかったんだがな!


 結局、群れを片付ける頃には、俺の息はぼろぼろだった。血の匂いより先に、自分の呼吸の音がうるさい。それに引き換え、エルフの連中は涼しい顔だ。クロイなんか、剣についた汚れを払いながら欠伸をしている。


 リーシュが呆れ顔をしながら言う。


「五匹程度で音を上げるな! ひ弱め」

「うるせえ! ……いや、正直、今のはキツかった。ここ、本当に格が違うぞ」


 軽口を叩き返す元気も、半分しか出ない。冗談抜きで、四階までとは別の世界だ。魔力の在庫が心配になる。ふと気づく。


「なぁ、言われた通り寝る前に魔力を空っぽにしたんだが、全快まで回復してないような気がするんだが……」

「当たり前だ。全快でしか戦えないやつはすぐ死ぬ」


 クロイが、何言ってるんだこいつ、みたいな顔で言ってくる。眉ひとつ動かさない。凄く当たり前のことを聞いただけなのにね! ごめんねひ弱で!



      * * *



 それから何度、リザードマン共とやり合ったか。俺の魔力は、もう半分を切っているだろう。部位集中は威力が跳ね上がる分、燃費が最悪だ。いつになれば、目や脳にリソースを割り振れることか。エルフ達の底なしの体力に頼り切りで進む。


 途中、宝箱を見つけたが、中は宝石だった。これはこれで高値で売れるのだが、目的が空回りしたことによる疲れが襲う。しばしここで休憩だ。


 短い休憩のさなか、ダレンとイーサが何か話をして笑っている。レオも、ダレンも、エルフとすっかり打ち解けている。……あれ? 俺だけ馴染んでない事実に衝撃を受ける。だってこいつらすぐ切れるんだ。腫れ物のように扱ってしまうだろ!


 しかし、リーダーとしてこれはいけない。円滑なコミュニケーションがパーティの状況、ひいては戦闘の成果に繋がるのだ。共通の話題がないことだけが問題だが……。


「今日はレオがギルドに来るって言ってたな。さっさとボスを倒して会いに行くか!」

「やる気が出てきた! クロイはもっと前に出て戦え。サボるな」


 リーシュが俄然やる気を出す。腰を浮かせる勢いで立ち上がり、その勢いのまま矛先が飛んだ。煽りを受けたのはクロイ。すまんな!


「アレスの成長のために手を出してないだけだ。今の所七点だな」

「十点満点でだよね!? ごめんね気を使わせて!」


 クロイは何も答えない。百点中七点かよ! かなり頑張ったと思ったが、エルフ流では何もしていないのと同義らしい。そういえば、すぐに命を捨てろとか言うなこいつら。安全圏を確保して戦うのがハンターとしての理想だと思っていたが、根本が違うらしい。よし! ここはエルフ流に、もっとギリギリまで攻めてみよう!



      * * *



「アレスさん。……あれを見てください」


 ダレンの声に、また硬さが戻っていた。岩を指差したまま固まっている。岩を覗き込み、俺は息を呑む。

 岩だと思っていた物は、先ほど何度も戦ったリザードマンの石像だった。それも一つや二つじゃない。何個もある。鱗の一枚一枚、剣の刃こぼれ、開いた口の中の牙まで石だ。誰かが彫ったにしては細かすぎるし、こんな場所に飾る理由もない。これは本当にただの石像なのか? あまりにリアルではないか?


「ダレン、これはただの石像だと思うか……?」

「罠ではないと思います。何かと戦おうとしている様子ですね……」


 背筋がすっと冷えた。俺には一つ心当たりがあった。石化。本で読んだことがある。ダンジョンで魔眼を持つ化け物が、目を合わせた相手を石に変える。物語ではなく、信頼できるギルドの記録だ。読んだ当時は、ダンジョンなんて身近にないから与太話だと思っていた。だが今、目の前にその証拠が立っている。剣を構えたまま、二度と動けなくなったモンスターが。


「おそらくボスはバジリスクだ。目を合わせたらこいつらの仲間入りだ。石化から復帰できた話は聞いたことがない」

「厄介だな。話は聞いたことがある。恐ろしさだけ聞かされていて、対策については聞いていない」


 イーサが眉を顰めながら答える。


「目を潰せば魔眼の効果はなくなるとギルドの記録には書かれていた。石化範囲などは書かれていない。そして真実かどうかまではわからないが……」


 ここは撤退すべきか。もしギルドの記録に嘘があれば簡単に全滅だ。確実に安全な策が取れない限り、進むことは許可できない。石像の一つが、剣を突き出した恰好のまま俺を見ている。こいつも、直前まで勝つ気でいたんだろうよ。


「目を瞑って戦えばいいのか? それなら出来そうではあるが、地形を確実に覚えないと厳しい」

「出来るのかよ……。地形を覚えている時に石化になる可能性もあるからダメだな」


 クロイがエルフにしか出来無さそうな案を出してくれたが、リスクがでかい。


「そもそも目を瞑ってどうやって敵の位置を確認するんだ?」

「……魔力と音ですかね? 斥候も似た様なことをやっています」


 ダレンが答える。それを聞いたイーサが、笑みを浮かべながら言う。


「その通りだ。やはりダレンは優秀だ。アレスも見習え」

「目を瞑ったら見えねーよ! 一つ作戦を思いついたのだが、聞いてくれるか?」


 バジリスク討伐の準備が始まる。



      * * *



 リーシュ達の協力により準備は出来た。鍵となるのはコイツ、足と腕の腱を切り無効化したリザードマンだ。猿轡を噛まされ、床に転がされて、恨めしそうな目でこっちを睨んでいる。やはりエルフは凄いな。道具も無しで生け捕りなんて想像もつかない。


「始めるか」


 開始の合図と共に、ダレンが扉を開く。失敗したら確実に死ぬ。ミノタウロスの時なんて比べ物にならないくらい緊張する。手が汗で滑るので、柄を握り直した。リザードマンを盾にしながら、クロイが目を閉じたまま進む。


「こちらにゆっくり向かってきている。距離はまだある」

「リザードマンはまだ石化していません。範囲外です」


 クロイの報告に対して、ダレンが扉の影からリザードマンの状況を伝える。俺の出番だ! リーダーとして勇気を振り絞る。


 クロイの後ろから目標を目視で確認する。頼むから範囲外であってくれ。中はさらに広く、天井も高い。床は至る所に突起があり、目を瞑ったままでは難しかっただろう。その突起の隙間を縫って、ゆったりとこちらに向かってくるやつがいる。

 でかい。見た目はトカゲだが、凶悪な棘が背中を覆っており、足の数も多い。尻尾は蛇の様な姿でこちらを威嚇している。そして、その両目が、爛々と黄色く光っていた。

 ――心臓が止まると思うほど怖いな。だが、それ以上に斬りたくて仕方ねぇ! 確実に仕留めてやる!


「目標と目があったがこの距離なら問題ない!」

「わかった。任せろ」


 俺の報告を聞くや否や、イーサが風の刃を放つ。横一線の風がバジリスクにぶつかり、巨体から唸り声が聞こえる。


「両目にあたったこと確認しました!」

「今だ! 投げろ!」


 クロイとリーシュが、怪力でリザードマンをバジリスクの側まで投げ飛ばす。地面に叩きつけられたリザードマンが、真正面からバジリスクを見つめる。


 一秒、二秒と心の中でカウントする。まだ回復してくれるなよ! バジリスクは、リザードマンに噛みつこうと牙を向けるが、距離感がおかしい。空を噛んでいる。


「石化してない! 今だ飛び出せ!」


 俺の合図で、ダレンを除き一斉に飛び出した。一番先に着いたのはリーシュ。剣を高速で突き出し、右目を貫く。目玉を潰す音は、思っていたよりずっと湿っていた。痛みでのけぞるバジリスクの左目を、追いついたクロイが根元まで抉る。俺は背後に周り、威嚇してくる蛇の尻尾を切り落とす。丸太を断ったような手応えのあと、断面から生温かいものが噴き上がって、俺の顔の右半分をべったり濡らした。落ちた蛇をイーサが焼き殺す。肉の焦げる臭いが、湿った空気に居座って抜けない。


 ここまでは作戦通りだ。全部が噛み合っている。噛み合いすぎていて、逆に足の裏がざわついた。うまく行っている時ほど、この仕事は人が死ぬ。試験官を長くやっていれば、嫌でも身につく勘だ。


 バジリスクが痛みで暴れ回る。不運にもリザードマンが踏み潰される。適当に振り回した足に巻き込まれるだけで致命傷になりかねない。


 近づけない。しかし、あの太い首を切り落とすためには俺の大剣が必要だ。飛び込みたいが、不規則に動くバジリスク相手にタイミングがつかめない。

 目の前に、生涯で一番斬りたい獲物がいる。届く距離にいる。なのに、踏み込めば死ぬ。柄を握る手が、勝手に汗を掻いていた。斬りたくてたまらないのに、斬りに行けない。こんな生殺しがあるか!


「首を切り落としたい! 動きを止めることはできないか!?」

「俺に任せろ」


 クロイが答え、予備武器である手斧に持ち替える。何をするつもりだ? 集中しろ! タイミングを見逃すな!


 クロイはあろうことか、バジリスクの上に飛び乗る。そして、手斧で背中の棘を切り落とし続ける。棘を毟られる痛みに、バジリスクがクロイを振り落とそうと大きくそり返った。

 細い体が宙を飛ぶ。壁まで一直線だ。岩肌に叩きつけられる鈍い音がして、クロイが膝から崩れた。おい! ――だが、そり返った巨体は今、喉から下を丸ごと晒している。

 あいつ、これを狙って落ちやがったのか。


 今だ! 魔力を使い切っても構わない! この一撃に全てを賭ける。


 全力で剣を切り上げる。首筋に当たる瞬間、さらに魔力を込める。体が悲鳴を上げるが、そんなもの無視だ!


「うおおおおおお!」


 剣はバジリスクを通り抜け、そのまま体勢を崩して転ぶ。どうなった!? 感触がなかったぞ!


 振り返ると、遅れてバジリスクの首が地面に落ちる。土煙が上がり、それきり、部屋が静かになった。


「……勝った、のか?」

「勝ちました。全員、生きています」


 ダレンの静かな一言に、俺は膝から力が抜けて、その場に尻餅をついた。生きています、か。無傷とは、一言も言っていない。


「六十点だな。悪くない」


 声のした方を見て、俺は口を開けたまま固まった。クロイだ。左の脇腹を押さえ、呼吸のたびに肩が引きつっている。あの音を立てて肋が無事なわけがない。それでいて当たり前みたいに歩いてきて、俺に手を差し伸べてくる。口の端から垂れた血を、拭いもしない。

 辛口だが素直に嬉しい。……いや、待て。さっきは百点中七点だったよな? いきなり六十点かよ! 命を賭けたら評価が九倍か。エルフ流の採点基準、わかりやすすぎるだろ!

 引き起こされながら、手当てをすると言いかけて、やめた。この一族に「休め」は通じない。休めと言った瞬間、じゃあ次はお前が前に出ろ、という話になるのが目に見えている。


「ああ、ありがとな! ダレン宝箱を探してくれ」

「二つ見つけてます。あと……階段もありました……」

「マジか……。これから下に行くたびにバジリスクと戦わないといけないのか……」

「下の階のボスは二回目以降に弱体化されていたと報告を受けています。それに期待ですかね……」


 後のことは後で考えよう。今は勝利の喜びと宝に期待だ! ダレンに宝箱を開けるように指示を出す。


 ダレンが罠を確かめて宝箱を開ける。中から転がり出たのは、見覚えのある緑に光るマークだ。上下に短い横棒が走り、そこから中央へ向かって稲妻のように鋭く突き出す模様だった。


「これ……赤扉の鍵だ!」

「二つ目ですね。あと一つです」


 やったぞ! 命懸けの甲斐はあった。蹄鉄と合わせて握りしめる。掌の中で、二つの緑がじんわり温かい。また一歩近づいた。エルフの弟の薬に繋がるかはわからない。それでも進むしかないんだ。


「もう一つはロザリオです。また教会関係ですね……」

「メルキオールのところか、この前通行許可を貰ったから売るのは楽でいいな!」


 リーシュが嬉しそうに言う。またあそこに行くのか。正直胃が痛い。レオも連れていきたいが、多分来てくれないような気がする。ふいにリーシュが真面目な顔で聞いてくる。


「レオならばどうやって攻略したと思う?」

「あいつなら、扉を開けて魔法を打って終わりだ。その代わり宝箱も焼けて消え去り、階段も天井が崩れて埋まるかもしれない」


 大袈裟なようだが、過小評価なくらいだ。天を焼ける人間が苦戦する姿が思い浮かばない。


「やっぱりレオ凄いな! 今度は一緒に連れてこようよ!」

「あいつは一階の蜘蛛が気持ち悪いから絶対に嫌だって言ってたぞ」

「なら、目隠しして来れば問題ないんだな! 楽しみだ!」


 どうしてその発想になるのか。レオに怒られてる姿はすぐに想像できてしまう。リーシュのために常識を教えてあげないといけないのか……。胃が痛いが、受けた恩は返さないとな!


「六階を覗いて見るか。次に向けての作戦を立てたい」


 俺の提案にみなが頷く。バジリスクのコアを取り、階段へ向かう。



      * * *



 階段を降りはじめたが、全然先が見えない。そこそこ急いで降りているのに、青白い段差がひたすら下へ続いているだけだ。またここを登ることを考えると気が重くなる。


 十五分ほど降りたところに、出口はあった。通り抜けると、そこは外の世界だった。いや、厳密にはダンジョンの中だろう。空があり、雲が見えるが、太陽はない。ないのに明るい。とにかく広い。


 草原があり、疎らに木が生えている。遠くには山のようなものまで見える。食べられるものもあるかもしれない。ダンジョンについて調べ直さないといけないな。


 一同、あまりに変わった様子に言葉を失っている。爽やかな風を頬に受け、開放感すらある。さっきまで墓場みたいな穴を這っていたのが嘘みたいだ。……嘘みたいな話には、大抵裏があるんだよな。


「……ダレン、何か気づいたことはあるか」

「定かではないのですが、あの小さな点はモンスターだと思います」


 ダレンの指した方向に目を向けると、空を飛ぶ何かが見える。コウモリか何かか? 少しずつ大きくなってくる。


「あれはまずいぞ。すぐにでも階段に戻る準備をしておけ!」


 イーサが声をあげる。どういうことだ? 言葉に従い、階段ギリギリまで戻り再び空を見る。コウモリは既に人くらいの大きさになっている。


「あれは……ワイバーンです! 見つかっています!」

「念の為、階段に戻れ! 中から様子を見るぞ!」


 階段から外を見ると、既にワイバーンはミノタウロスより大きくなり、俺たちの方を目掛けて降下を始めていた。入口はあいつらより小さいが、崩れない保証はない。


「出直しだ! 戻るぞ!」


 俺の号令で撤退が始まった。階段を登りはじめてすぐに、背後からワイバーンの不愉快な鳴き声が響き渡る。石の壁の中で反響して、どこまでも追ってくる。耳を塞ぎながら、ひたすら階段を登る。肋を折っているはずのクロイが、俺より速い。あいつら本当に同じ生き物か!


 二分ほど登ったところで静かになり、やっと息が吸えた。生きた心地がしなかった。


「俺達には攻撃手段がイーサしかない。弓を用意するなり、パーティを増やすなり、作戦が必要だ」

「風魔法で撃ち落とすことは可能かもしれない。問題はあれがボスではなく雑魚ということだ」


 イーサの言う通り、ワイバーンが雑魚モンスターとなると、ボスはどれほど強い存在なのか。俺達では、立ち向かうことは出来ないのではないか。


 沈黙が一同を覆う。誰も、階段の下を振り返ろうとしない。いや、弱気になるな! お宝は今回も入手できたんだ。対策は必ずある!


「一先ず、このロザリオを売ってくる。そのお金で各自装備を強化し、空飛ぶモンスター対策を考えてくれ! 俺はギルドに相談して資料を調べる!」


 そう、諦めなければなんとかなるものだ。俺には考えつかなくても、相談相手は無数にいるんだ! そう考えると重苦しい心が晴れてくる。


「レオが待ってるし、今日の話もしないとね!」


 リーシュの言葉で思い出す。そういえばレオを出汁に発破をかけたんだった。レオはギルドにいない……よな。また心が重くなり、胃が痛くなってきた。いつになったら心は晴れるかな。


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