表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/28

第二十四話 美人はどんな時でも可愛いのです

 数日後にハンターギルドに行くと言ったが、あれは嘘だ。

 行こうと思ったんだが、とあるスペースオペラと呼ばれるアニメを見てたらとにかく面白くて今に至る。銀河を舞台に艦隊と艦隊が知略をぶつけ合う、あれだ。登場人物の名前もかっこいい。平民でも苗字があったりするのかな。それならば、レオナルド・メックリンゲルか、ロイエンダールを名乗ろう。明日には忘れてそうだけど。俺の決意の耐用日数は、実測でおよそ一日である。


 ハンターギルドに向かう。大量の兵士が待っていたら憂鬱だな。何せ前回、兵士の首を落として帰ってきたのだ。まぁ家に来られるよりはマシだな。あの家は聖域だ。


 ハンターギルドの前には多数の見物人がいて盛り上がっている。なんのイベントだ?


「アレス! 負けるな! 絶対に倒せ!」

「まだまだこれからだ! アレス頑張れ!」


 訓練場所でアレスが戦っているらしい。ってかアレスが応援されてるとかあるのか? いつもいじられているような気がするのだが。この店でアレスに声援が飛ぶのは、天変地異の前触れかもしれない。


 外からギャラリーと一緒に覗いてみる。なんかアレスがボコボコにされてるな。相手は……エルフだ! めちゃくちゃ美人!

 歳は二十代くらいに見える。腰まで届きそうな長い金髪に、セオリー通りピンと尖った長い耳。顔は作り物みたいに整っていて、ゲームの美形キャラをそのまま三次元に引きずり出したらこうなる、って感じだ。うん、文句なしの美人。

 ついに会えた。本物のエルフ。タント様に嘘だと言われ、隊列の二十人に爆笑された、あの俺の夢の種族。菜食で、平和主義で、森の賢者――のはずの生き物が、今、目の前でAランクハンターを殴り飛ばしている。……いや、まだだ。まだ結論を出すのは早い。


 美人にボコボコにされるアレス。お金払ってそういうサービスを受けているのかな。エルフの動きはキレッキレだな。アレスが大剣を振りかぶるとさがり、戻る前には詰める。アレスが柄で対応しようとすると、片手で抑えられる。あの大剣の間合いの内側に、涼しい顔で住み着いている。

 あー、完全に遊ばれているな。羨ましいぞ。美人に俺も遊ばれたい。まぁ見ててもしょうがないので、中に入りコーヒーを頼む。俺は今日、ノルマを受けに来たのだ。ぶれない男である。


 中でも熱狂の声がすごい。みんなアレスを応援している。ここまでアレスが応援されたことってあるのか? 人生最大のモテ期だな。対戦相手がエルフというだけで、店の全票がアレスに入る。エルフの被選挙権、この街では死んでいる。

 熱狂の渦の外に、二人の男がいた。これまた美形で背の高いエルフだ。まぁ残念ながら俺の方が上だな。戦わずとしてエルフに勝ってしまった。敗北が知りたい。管理者謹製の顔は、種族値の頂点をも超えていた。師匠、あんたの仕事は今日も完璧だ。

 タバコに火をつけるや否や、男エルフがこちらを見てヒソヒソしている。ごめん煙いの苦手なタイプかな。森の民に喫煙者は分が悪い。


 アレス達の戦いも決着がついたようだ。どんな負け方をしたか見逃してしまった。


「おいアレス! せめて一発くらい当てろ! へっぽこが」

「まだまだ青いなアレス」

「誰もお前に賭けないから成立しなかったじゃねえか!」


 お、ギャラリーは平常時のアレスの扱いに戻った。これじゃないと落ち着かないよね。声援の賞味期限、試合終了と同時。


「うるせー! 自分でやれ!」


 アレスが吠えながら戻ってきた。


「雑魚の癖に大きい口を叩いてこれか? 田舎のAランクなんてこんなものか。ツノウサギでももっと手応えがあるぞ」


 わー。お口が悪いねぇ。声まで綺麗なのが、また質が悪い。美人が言うと嫌味も可愛く見えちゃう。変な趣味に目覚めちゃいそうで怖いね。

 菜食(嘘)、平和主義(大嘘)、森の賢者(真逆)。俺の夢は予告通り粉砕された。されたのだが――顔がいい。顔がいいので、全部帳消しである。我ながらチョロい。


 エルフはアレスから興味を失ったように、店内をぐるりと見回した。


「はぁ、つまらん。王都のハンターギルドと聞いて期待した私が馬鹿だったな。これが最高戦力とは……人間はどこまでいっても人間、か。この中に、私と本気で殺り合える奴はいるのか? いないなら揃って認めろ。ここは雑魚の掃き溜めだとな」


 その一言で、さっきまでアレスをからかって笑っていた連中の顔から、潮が引くみたいに笑いが消えた。うわ、全方位に喧嘩を売りやがった。身内いじりは文化、余所者の悪口は宣戦布告。どこの世界も、酒場のルールは同じだ。あー、こいつ、やっちゃったなぁ。

 凍りついた空気の中、火に油を注がれたアレスが呻く。


「ぐぬぬ……」


 本当にぐぬぬって言う奴がいるのか! 腹いてぇ。文字でしか見たことのない呻き声の、初の実演を目撃してしまった。笑い殺す気かアレス。お前がナンバーワンだ!


「レオ! いたのか! 笑ってないで仇を打ってくれ!」


 おい、Aランク! 騒ぎに巻き込むな。俺は観客席で笑う係だぞ。でも美人ともお話ししたい。アレス、よくやったぞ! 俺の中の平穏派と面食い派が、醜い政争を始めている。


 他のエルフと合流した美人はアレスの言葉に反応しこちらを睨む。普通にかわいい。睨まれてかわいいは、たぶん感想として間違っているが、事実なので仕方ない。


「やだよ面倒くさい。もっと体と身体強化どちらも鍛えたほうがいいんじゃないの?」


 アーサーから聞いた話によると、どちらを鍛えても効果が上がるとのこと。なら両方鍛えれば最強じゃないか。やり方はわからないが。人の稽古には、口だけなら無限に出せる。


「そうだよな。最近は昔みたいに体を鍛えてなかったから衰えている面もあるな。よしレオ! 俺と真剣勝負しようぜ!」

「あのエルフの人に一発でも当てたら稽古してやるよ」


 ちゃんと人の言うこと聞いてた? 面倒くさいって伝えたよね? あの様子なら、百年経っても当たらないだろう。面倒ごと回避成功だ。アレスへの宿題という名の、実質的な永久凍結である。


「聞き捨てならないぞ! 私よりお前の方が強いと聞こえるぞ!」

「多分な。まぁ別にどっちでもいいし、そっちの方が強いでいいぞ。うわ、視線だけでやられたー。はい。お前の勝ち」


 しまった。凍結したはずの面倒が、より大きな面倒を起動した。うん、でもかわいい。最後のやつ余計だったかも。アレスとの会話のせいでそのままのノリで言ってしまった。俺の口は、機嫌が良いと性能が下がるとそろそろ学習しなくては。


「ふざけるな! 私と今すぐ戦え! それとも怖気付いたか腰抜けめ!」


 なんで美人って怒っても可愛いんだろう。眉を吊り上げても、頬を染めても、造形が良いから全部絵になる。美人をボコボコにするにも、されるにも性癖が目覚めそうで嫌。


「お前と戦って俺に何の得があるの? まずはそこから説明して?」

「ッツ! ここまで言われて戦わない奴がいるか? お前が勝ったらなんでも言うこと聞いてやろう! それで良いか?」


 え? メイドになってくれるの? 長年の夢だったエルフのメイド。……でも、うるさそうだし家には、いらないな。関係ないところで眺めるから良いのであって、近くにはいらない。動物園のライオンと同じだ。柵の外から見るから可愛い。


「信用できないな。俺が勝ったらアレスのうんこを食べろって言ったら本当に食べるのか?」


 絶句するエルフ。そして、ブチギレるアレス。


「なんで俺のなんだよ! むしろ俺の方がダメージがでかいまであるぞ!」


 確かに。想像するだけで身の毛もよだつ光景だ。例え話の人選を、俺は誤った。しかし、ギャラリーのテンションはマックスだ。


「アレスもリベンジできて完璧だな!」

「アレスよかったな! こんな体験二度とできないぞ! ギャハハ」


 爆笑しながら、エルフとアレスを煽る。君らは小学生かな。精神年齢の平均値が、この酒場では一桁で安定している。


 エルフの三人は何か話をしている。額を寄せて、真剣な顔で。まさか、食べるのか!? 会議するような議題じゃないだろ。


「条件を変えてくれ。負けるつもりはない。が、守れない約束はできない」


 ちょっとしょんぼりしてて可哀想。さっきまでの威勢はどこへやら、耳が少し垂れている気がする。元気を出させてあげよう。


「はっ! ほらみろ嘘つきめ。みなさん聞きましたが? なんでも言うことを聞くって言ってたエルフが守れないとか言いましたよ。もしかしてエルフって詐欺師なんですかね!?」

「そうだ! そうだ! 詐欺師め!」

「負けないなら問題ないだろ! エルフの力見せてみろよ!」

「アレスが準備ができているぞ! 怖気付いたか腰抜けめ! 誰か下剤もってこい!」


 最後の人、相手の言葉を引用して煽ってらっしゃる。天才か。しかも下剤の手配まで。この店の観客、質が高すぎる。

 もしかしてここまで煽られたことはないのかな。怒りが限界に達したのか、少し涙目だ。かわいい。俺の感想が、さっきから「かわいい」しか出力していない。


「俺がやる。負けたらちゃんと食べよう」


 エルフの男の一人が、頭のおかしい発言をする。地獄絵図だぞそれは。仲間を守る自己犠牲の方向が、根本から間違っている。


「いや駄目だね。今はそいつと話をしている。部外者は引っ込んどいてくれ」


 可愛い子ってつい虐めたくなっちゃう。許してくれ。名前も知らない勇者エルフの男性よ。君の覚悟は無駄になったが、その心意気だけは受け取った。そしてブーイングをするガヤ連中。一体感を感じるね。


 汚れ役を買って出た男エルフを押しのけ、追い詰められた美人が、絞り出すように言った。


「くっ、わかった。負けたら舌を噛み切って死のう。それでどうだ?」


 やっぱ頭おかしいなエルフは。うんこの回避策が自害。振り幅が極端すぎる。戦闘民族の名誉の基準は、俺には一生わからん。これ以上はいじめになってしまうからここで救いの手を差し伸べよう。


「んじゃ、最初のなんでも言うこと聞くってやつでいいや」


 美人はパッと顔を上げて笑顔を見せる。なんかDV被害者が加害者に依存するアレみたいになっている。俺が追い詰めて、俺が許して、俺に感謝される。健全さの欠片もない構図だが、笑顔がかわいいので良しとする。


「言ったな! 命を賭けて戦うぞ! 絶対に許してやらない!」


 あーはい。頑張ります。主にオートシールドが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ