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第41話 大陸縦断街道

新章突入です!ついに大山脈の北側に進出を図ります!

ブクマ、☆をいただけると大変励みになります( ;∀;)何卒宜しくお願い致します。

帝国歴一三四〇年。

南蛮戦役の終結から、十年の歳月が流れていた。


なお、ハイエルフにとっての十年は、人間の感覚からすると実は一年くらいのものに過ぎない。ちなみに、この感覚のズレは俺だけのものではなく、世界樹の加護により叙爵を受けたことで、寿命が大幅に伸びている大公国の家臣たちにとっても同様だ。


この十年、自分で言うのもなんだけど、大公国の発展ぶりは半端ない。十万人におよぶラーディヤの民が移住したことで、大公国は本格的な成長期へと突入。広大な未開地は、怒涛の勢いで開墾されていった。


そんな折、俺はルーク、そしてコルネリウスの二人を伴い、とある現場の視察に訪れていた。


「――いやあ、ついに貫通したっすね。大トンネル」


感慨深げに見上げるルークの視線の先には、巨大なトンネルの入口が存在していた。

このトンネルは、大森林盆地から、大山脈の北側……いわゆる『北側諸国』へと抜けるための街道整備における最大の難所だった。


大陸を南北に分断する大山脈――その唯一の抜け道である大森林盆地は、長らく人類を拒み続けてきた。それは、盆地に満ちる濃密すぎる魔素と、それによって無数に生み出される凶暴な魔物たちが、古来より人々の往来を不可能にしていたからだ。


しかし、俺がこの地を開拓し、魔素を安定化させたことで、状況は一変した。

そして、ラーディヤの民の受け入れが軌道に乗った段階で、いよいよ北側諸国へ向けた街道整備のための地質・地形調査を開始させたのである。


同時に、かつて攻略したパドマ河デルタに大公国の領事館を設置。サラキア岬を回る海上貿易にも乗り出している。これは、単に交易による利益を求めているだけではなく、北側諸国の情報を集めるという意味もあった。


一方で、陸路――すなわち大公国から北側諸国へと至る街道の整備は、予想以上の難工事となっていた。


建国の当初、オスティアから大森林盆地へとつなぐオルガ街道を敷設した際は、基本的にオルガ河に沿って道路を建設すればよかったため、魔物の襲撃さえ対処できれば、地形そのものは比較的平坦であり、工事自体は難しくはなかった。


それに引き換え、今回のルートは大山脈の一部を物理的に「横断」しなければならない。


大公国が位置する大森林盆地は、遠い昔に大山脈へと落下した巨大隕石のクレーター跡だ。そのため、落下地点の北側外縁には、破壊を免れた山脈の一部が残っている。


盆地を取り囲む丘陵を超えると、その先にはそれなりに高い山々が立ちふさがっていた。そのため、山があればトンネルを掘り、谷があれば橋を架けるといった難工事を強いられたため、大公国軍が誇るインフラ魔法を駆使したとしても、一朝一夕に完成というわけにはいかなかったのだ。


そして今日。俺は街道建設における最大の難所であった『大トンネル』の貫通を受け、自らその出来栄えを確かめにやってきたというわけだった。


「ふう……なかなか感慨深いね。これでようやく、大山脈の北へと道が繋がる」


俺はミ○リ安全のデザインをパクったかのようなヘルメットをかぶり、掘削の完了したトンネルの内部を見上げた。幅員十メートル、大型の馬車が十分すれ違える広さがある。


「ホントっすねえ。建国から十五年……南蛮戦役から数えても十年になるっすけど、結構時間がかかったすね」

ルークが感慨深そうに頷き、背後の山道を振り返る。


「まあね。まあ、その間に大公国も随分と発展したから良しということで」


俺が気安く笑うと、横に控えていたコルネリウスが我が意を得たりと続く。


「ええ、まさに殿下のおっしゃる通りです。一昨年には、我が国の総人口はついに百万人を突破いたしました。これには、恒常的な移民の受け入れが大きく寄与しております」


「そうだね、うちに来れば食うには困らないって評判らしいからね」


「はい。特に公都ユスティニアナポリスの伸びは顕著でして、最終的な計画人口である五十万人には届かないものの、まもなく十万人の大台に乗る勢いです。とりわけ南東区は、いまや帝都と比べても遜色のない繁栄ぶりです」


「ホントそれっすよね。南東区の活気とかマジでヤバいっすよ。いつ行っても祭りみたいな人出っすからね」

ルークが感心したように合いの手を入れる。


「公都が順調なのは確かだけどさ、やっぱりみんなの頑張りがあってこそだよ」

実際のところ、この十年で侯爵へと陞爵を果たしたルークやエレナをはじめ、領地貴族の奮闘ぶりによって大公国の発展が支えられていることは間違いない。


「お言葉ですが殿下、大公国領の潜在的な農業生産力から言えば、まだまだ十分とは言えません。我が国は本来二千万人以上の人口扶養力を持ちます。引き続きの開拓と移民の受け入れを推し進めなければなりません」


「まあ、確かに大公国の地形は真っ平っすからね。耕せばどんだけでも畑を増やせるっすから、まだまだ人口は増えるっすね」


これはルークの言う通りで、大公国が位置する大森林盆地は直径二百キロメートルに及ぶクレーター盆地で、その全域が可耕地である。


「しかし、各地方の開拓も進んで、ずいぶんと特色が出てきたよね」


「おっしゃる通りですね。私の『ルプス侯爵領』を中心とする北西キルキウス地方では、四歩輪作による小麦と甜菜の栽培が極めて順調です。また、大公国における羊毛の最大供給地となっております」


「帝都ではいまだに砂糖は高級品っすからね!」


「はい。羊毛も含めて大公国の輸出作物の多くが北西キルキウス地方で生産されていると言っても過言ではありません。一方、ナディア殿の『ラーディヤ侯爵領』を中心とした北東アキィロ地方ですが、こちら発展も著しいものがあります。ラーディヤの民が持ち込んだ『水田稲作』が爆発的な人口増加を支えていると言えるでしょう」


「連作障害がないってのは、やっぱりチートだよね。生産性が段違いだもん。しかも、本来は北東アキィロ地方は寒いはずだろ? ナディアが精霊に頼んで温暖な気候にしているらしいけど、あいつは反則だよね」


「いずれにせよ、主食の選択肢が増えたことは喜ばしいことです。……まあ、いまだに殿下の妻を自称しているのには困ったものですが」


「ホントだよ! っていうか、あいつ会ったときは子どもなのかと思ったら、成人しててあの見た目ってのがな。完全に詐欺だよ」


俺が溜め息をつくと、コルネリウスは苦笑しつつ報告を続けた。


「ちなみに、北東アキィロ地方は魔蚕による質の高い生糸の生産も盛んとなっております」


「うぐっ……! 俺、あの芋虫を食べる食文化だけは受け入れられないっす……!」

突如としてルークが青い顔をして腹を押さえた。


「ああ、蚕のさなぎを食べるアレね。あれ、美味いって地元じゃ評判らしいぞ? ルークも一口くらい食ってみればいいのに」


「無理っす! いくら美味いと言われても、見た目がもう絶対無理っすからね!?」


悲鳴を上げるルークを冷やかすと、コルネリウスが咳払いをして話を戻す。


「コホン。……それから、エレナ殿の『リーゼ侯爵領』がある南東エウルス地方は、比較的温暖な気候を活かした標準的な農業を行いつつ、帝国との近さとオスティアの管理権を活かした流通・商業の一大エリアとして機能しておりますね」


「エレナも手堅くやってくれてるからね。で、最後はルークのところか」


「はい。ルーク殿の『ファビウス侯爵領』がある南西アルタヌス地方は、四歩輪作による標準的な農業地帯ですが……何より重要なのは、今回建設している北側諸国へ繋がる街道の入り口が盆地の西端に位置している点です」


「そうっすね! うちは将来的に、帝国から北側諸国へと繋がる『大陸縦断ルート』の超重要拠点になるわけっすからね!」


先ほどまでの青い顔を一変させ、ルークが胸を張ってドヤ顔を決めた。


ちなみに、北側諸国へとつながる街道の入り口が「西端」にあるのは地形上の問題だ。大陸を南北に分断する大山脈を穿つように大森林盆地は存在するのだが、山脈を北に抜けていくためには、盆地から西に直進するのが最短になるため、「西端」が北への入り口ということになっている。


「さて、やっとこさ、このトンネルが開通したわけだけど、これで山越えの難所は大方解消されたことになるね」


「はい。あとは現在進めております街道の敷設と、中継拠点となる宿場の整備が済めば、兵站に不安はありません。計画通り、来春には北側諸国に向けて先遣隊の派遣を実行に移すことが可能となります」


街道が開通すれば、いよいよ『北側諸国』との接触が始まる。

平和な交易を望む俺の想いとは裏腹に、新たな動乱の足音が、山脈の吹き抜ける風に乗って静かに近づいていた。

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