第39話 御前会議
感想を執筆して初めていただきました!読んでいただけるということは、本当に嬉しいものですね!何よりの励みになります!
ご意見、ご感想、ブクマ、☆をお待ちしております!
なお、次で第4章は最後です。第40話は閑話的な扱いなので、実質今回が4章の最後ですね。
帝都の一角、近衛騎士団司令部。
帝国軍の幕僚が顔を揃える会議室は、静謐な空気に満ちていた。
上座に座すのは、摂政ティベリウス。
その傍らには、帝国元老院に籍を置く領地貴族であり、軍部にも強い影響力を持つ重鎮――ナルセス将軍の姿があった。
そして今、机に広げられた地図を前に報告を行っているのは、近衛貴族であり、ナルセス将軍子飼いの武将である、トラクス少将だ。今回の南蛮征討戦において帝国近衛騎士団の司令官に抜擢されたのも、ナルセス将軍の強い推薦によるものであった。
「――これより、南蛮征討戦における戦況推移の概略について、摂政殿下御臨席のもと、戦訓研究のための図上演習を開始いたします」
トラクス少将は帝国式の礼をとると、指示棒を取り、パドマ河デルタ地帯が描かれた地図を指し示した。
「まず、帝国歴一三二九年秋。パドゥムに集結した帝国軍二万三千は、ユスティニア大公国軍の到着を待つことなく進軍を開始。我が軍は瞬く間にパドゥム周辺の主要な中州を制圧。デルタ上流のパドゥムを起点として、三方向に分かれて勢力を拡大いたしました」
トラクス少将は一度言葉を切り、表情を若干曇らせる。
「当時、我が近衛騎士団は『大公国軍の到着を待つべきであり、まずは占領地の安定を優先すべきである』と進言いたしましたが……聞き入れられず、後方支援へと回されました。そして、騎士団がパドゥムまで下がったのを見計らったかのように、敵――ラーディヤの民が動き出します」
指示棒が、地図上の小さな中州を叩く。
「前線とパドゥムの中間点にある小規模な中州を敵に奪取され、我が軍の補給線は完全に寸断。同時に、パドゥムに対して水上からの大規模な攻勢がかけられ、帝国軍本体は三方に分断されました。退路を断たれた公爵軍および諸侯軍は、『泥人形』を先頭とした敵の奇襲攻撃を受け、各個撃破の憂き目にあうこととなったのです」
「ふむ。近衛騎士団の救援は間に合わなかったのか?」
ナルセス将軍の問いに、トラクス少将は無念そうに首を振った。
「パドゥムに殺到する敵を蹴散らした後、ただちにカシウス総司令官の救援に向かうべく船を出しましたが、敵の精霊魔法による濃霧に阻まれ、進軍が大幅に遅れました。結果、戦線は完全に崩壊。諸侯軍の大半が壊滅し、潰走に至りました」
会議室に重苦しい溜め息が漏れる。まさに完敗の構図であった。
「こうした状況を受け、我々が撤退を進言していた、まさにその時、パドゥム街道を急行してきた大公国軍が到着いたしました。……これに対し、足を負傷し、怒りに狂うカシウス総司令官は、大公国軍および近衛騎士団に対し、ラーディヤの民の『殲滅』を厳命します」
ここで、トラクス少将の目が、どこか感嘆の色を帯び始める。
「寡兵を以て敵に臨むこととなったルシウス大公は、臨時の前線指揮官として、即座に戦線の縮小を断行されました。戦力をパドゥムに集中させると同時に、『城壁生成』や『水濠掘削』といった大公国軍独自のインフラ魔法を駆使。瞬く間に強固な港湾要塞を構築してみせたのです」
「……話には聞いておったが、殿下の魔法は相変わらずデタラメじゃな」
ナルセス将軍が苦笑交じりに呟く。
「まさにその通りです。完成したパドゥム街道を通じて運ばれてくる潤沢な物資を駆使して、ルシウス殿下は陣地戦を展開されました。ご本人は『堡塁戦術』とおっしゃっておりましたが、要するに占領した中州を片っ端から拠点化し、圧倒的な物量によって制圧していく戦術です」
指示棒が、パドマ河を下るように動いていく。
「強固な陣地に守られた大公国軍に対し、敵は散発的な攻撃を繰り返すものの、じわじわと削られ、後退を余儀なくされました。懸念された敵の最終兵器『泥人形』につきましても、水を用いた罠によっていとも簡単に無力化。敵本拠地がある最大の中州へと追い詰めることに成功します」
「……罠、か。合理的な奴らしい戦法ではあるな」
ティベリウスが興味深そうに顎を撫でる。
「はい。最後は、徐々に城壁による包囲の幅を狭めながら河口へと追い詰めていく徹底した塹壕戦を展開し……総司令官の指示通り、ラーディヤの民を『殲滅』するに至りました。以上が、本戦役における戦況推移の概要であります」
トラクス少将が報告を締めくくり、静かに一礼した。
「――ご苦労であった、トラクス少将」
摂政ティベリウスが、ゆっくりと口を開いた。
その口元には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいる。
「……ところで。ルシウスは『精霊の巫女』を持ち帰ったそうだな?」
「っ!?」
トラクス少将の背筋に、冷たい汗が吹き出した。
(まさか……お気づきだったとは……!)
息を飲むトラクス少将に対し、ティベリウスは涼し気に笑った。
「そう身構えるな。当の『精霊の巫女』本人がな……なんと我が皇城に忍び込んできて、堂々と白状していったのだよ」
「こ、皇城に侵入……!?」
会議室の将官たちが一斉にざわめいた。皇城の警備をあっさり突破された事実と、衝撃的すぎる内容に誰もが耳を疑う。
「ふふ、なに、ナディアとかいうその少女がな、『ルシウスを婿にする』と宣言していくものだからね。……兄として、ちゃんと許可を出しておいたよ」
「きょ、許可をお出しになった!? しかし、一体どうやって皇城に侵入したというのですか。いくら精霊魔法の使い手と言っても厳重な警備網を掻い潜ることなど不可能です」
「ははは、当然の疑問だな、トラクス少将。なに、簡単なことだ、そこのナルセス将軍が連れてきたのだよ」
「つ、連れてきた!? 将軍、どういうことですか?」
「……はっはっはっは! いやなに、この老いぼれ、かわいいお嬢さんに頼まれては断れなくてな。ついつい甘やかしてしまったわい」
静まり返る会議室で、ナルセス将軍だけが腹を抱えて大爆笑していた。
「殿下、では……ラーディヤの民の件は……」
恐る恐る尋ねるトラクス少将に、ティベリウスはふっと笑って目を細める。
「無論、他言無用だ。……ラーディヤの民はパドマ河の露と消えた。そういうことにしておく。皆もよいな?」
「はっ! 承知いたしました!」
将官たちが一斉に頭を下げる。ティベリウスは満足そうに頷くと、窓の外――ルシウスのいる遠い北方の空を見つめた。
「しかし、あのラーディヤの民を引き入れたとなると……ユスティニア大公国は、近い将来、帝国をも凌ぐ勢いで成長するかもしれんな」
「大公国が……でございますか?」
「そうだ。ふふ、どうせルシウスのことだ。パドゥム街道の整備と港湾の構築が終わった今、次は間違いなく『北側諸国』に向けた交易路の開発に乗り出すだろう」
ティベリウスの瞳に、優し気な光が宿る。
「そうなれば、大陸全体の物流網は根底から覆る。……我々は今、あいつが巻き起こす『物流革命』の始まりを目撃しているのかもしれんよ」
ティベリウスの言葉には、ルシウスを「名誉ある追放」へと追いやった冷徹な為政者とは違う、別の何かが宿っているかのようだった。
もし「続きが気になる!」「面白い」と思っていただけましたら、画面下部の「ブックマーク追加」や、評価の「☆☆☆☆☆」を★★★★★にしていただけると、執筆のモチベーションになります!
どうぞよろしくお願いいたします。




