第33話 作戦会議
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「みんな、よく集まってくれたね。カシウス総司令官のご命令により、俺たちはラーディヤの民相手に殲滅戦を敢行しなくてはならなくなった。ぶっちゃけ乗り気はしないが、命令とあらばやらざるを得ない。すまないが力を貸してほしい」
急遽、南蛮征討軍の前線司令官に祭り上げられた俺は、主だった将官を天幕に集めて軍議を開くことにした。カシウス兄上のせいで、征討軍の戦力は激減。実質的には大公国軍と帝国近衛騎士団の共同作戦の様相を呈している。
「さて、トラクス少将。悪いけど、現状の説明をお願いできるかい?」
「はっ。現在、我が方はパドゥムを中心に、周辺の中州を複数占拠しております。……が、正直に申し上げて、状況は芳しくありません」
少将が地図を指しながら説明する。
「最大の問題は、兵員や物資の揚陸時を狙った襲撃です。ラーディヤの民は小舟を用いた水上戦闘に長けている上、精霊の加護を受けた独自の魔術を用いて攻撃してきます。一般兵では損害が大きすぎるため、対応は近衛騎士団に頼らざるを得ない状況です」
「精霊の魔術、ね。どんなものなの?」
これに、水上戦闘のプロであるエレナが食いつく。
「水球を飛ばして攻撃したり、霧を発生させて視界を奪うといった、小規模なものですな。本来なら脅威にはなり得ないのですが……敵の首領がかなりの使い手らしく、魔術で翻弄された挙句、補給線を絶たれて潰走に至ったのが、先の敗戦の原因でした」
「しかし、それだけで多数の魔法使いを要する帝国軍が後れを取るとは、にわかに信じがたいっすね」
「確かに、ルークの言う通りだね。他にも何かあるの?少将」
「はい、ご指摘の通りです。このパドゥムはデルタの上流部にあるにもかかわらず、毎晩のように水上からの夜襲を受けております。おかげで兵たちの疲弊は限界に達しており、士気も著しく低下しております」
「なるほどね。こっちから攻めるのは容易じゃないのに、向こうさんはやりたい放題ってことだね。よし、こっちからの報告はどう?コルネリウス」
俺が話を振ると、コルネリウスが一歩前に出た。
「はっ。まず、帝都からここパドゥムに至る『パドゥム街道』ですが、突貫工事にて先日完成いたしました」
「おお!もう繋げたのか!?」
トラクス少将をはじめ、帝国の将官たちが一斉に驚愕の声を漏らす。通常なら数年はかかる工事だ。
「ええ。今回は瑞獣ルパルクスを大量投入しましたからね。彼らはまさに『走りながら魔法を行使』して地面を舗装することが可能です。これで帝都からの物資輸送は盤石です。長期戦にも十分に耐えられます」
「素晴らしいね。ところで、負傷兵の移送はどうなってる?」
「はい。順次、後方へと搬送しております。……ただ、総司令官であられるカシウス殿下は、このパドゥムに居座る構えです」
……まじかよ。帰れよ。なんでこんな時だけ根性発揮するんだよ。
左足を失ってベッドの上でのたうち回っているくせに、変なプライドだけは残っているらしい。
「よし、現状は理解した。では、俺から新たな戦略を提示する」
帝国の将たちの視線が、俺の手元に注がれる。
「まず、戦線を縮小する。あちこちに散らばっている占領地は一旦すべて放棄しよう。戦力をこのパドゥムに集中させるんだ。その上で、うちの工兵隊をフル活用して、ここを強固な『港湾要塞』に魔改造する」
「ま、魔改造……?」
「そう、魔改造。パドゥム周辺の中州と連携できるよう、港湾そのものを巨大な城壁でぐるりと囲む。ラーディヤの民が小舟で忍び寄る隙を一切与えず、安全に物資を揚陸できるようにする。合わせて、兵舎と病院、そして公衆浴場を建設しようと思う」
「……公衆浴場、ですか?」
トラクス少将が目を瞬かせる。
「うん。温かいお湯に浸かれば、兵の士気も回復するでしょ?で、港湾と要塞が完成したら、順次、近隣の中州を要塞化していく」
俺はペンを取り、地図上の主要な中州に次々と丸をつけていった。
「中州は制圧完了後、速やかに港湾部を城壁で囲んで、対岸との輸送ルートを確保する。強固な拠点を築いては次へ、また築いては次へ。これを繰り返して、ラーディヤの民の本拠地に向けて確実に進軍していく。――いわゆる『堡塁戦術』だね」
「……実に見事な、そして恐ろしく堅実な用兵ですな」
トラクス少将が、あごひげをなでながら実に満足そうに深く頷いた。
「これならば、ゲリラ戦を得意とするラーディヤの民であっても、付け入る隙はありますまい。物量を以て相手を制す。帝国の兵法に則った、まさに王道と言えますな」
「理解が早くて助かるよ、トラクス少将。役割分担としては、大公国軍が拠点構築と兵站を主に担う。そして、中州の制圧を実戦経験豊かな帝国近衛騎士団にお願いしたい。どうかな?」
「喜んで、我が近衛騎士団が承りましょう、ルシウス殿下。いや――司令官殿」
トラクス少将は、目を細めてうなずく。なんか知らんが、この老将の信頼を勝ち得たようで何よりだ。ついでに、戦闘についてはちゃっかり帝国騎士団に押し付けるのに成功してしまった。頼もしそうに俺のことを眺めるトラクス少将を前に、俺は戦わなくてよくなったことに内心ほくそ笑むのであった。
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