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追放皇子の辺境都市計画~『箱職人』は魔法×現代工学で異世界に物流革命を起こします~  作者: 不健康法師
第1章 追放されたので、まずは最強の港湾都市を造ります
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第3話 箱職人

(キィ……ィ)


帝都を離れ、街道の脇にある少し開けた林の中に馬車を止めると、静寂が周囲を包み込んだ。

ルークが御者台から飛び降り、馬の鼻先を撫でながら俺を振り返る。


「ルシウス様、このあたりなら誰も見てないっす。例の、やっちゃいますか?」


「ああ。二ヶ月もこのガタゴト馬車に座ってたら確実にケツが破壊されるからな。さっそく『箱職人』を起動する」


俺は馬車の荷台へ回り、木製の重い扉に手を当てた。


そもそも、この世界における『ギフト』とは、支配階級であるハイエルフたちが百歳を迎える頃、世界樹から授かる特殊能力のことだ。ルークのような一般のエルフには授けられることはない。


俺が百歳でもらったギフトが『箱職人』だったものだから、宮廷中は「世界樹の化身の息子が職人風情の能力か」と大いにズッコケたわけだが──彼らはシステムの本質をまるで理解していない。


「ルシウス様、これ。マジで高かったんすからね。大公国の初期予算でもらった金貨、半分以上が一瞬で吹き飛んだんですから」


ルークが恨めしそうな顔で、懐から拳大の淡く光る魔石を取り出した。


「仕方ないだろ。宮廷のハイエルフどもは『魔力のない平民の道具』って見下して、まともな魔石をストックすらしていなかったんだから。裏ルートでこれだけのサイズを買い付けられただけでも、お前のファインプレーさ」


「まあ、そうっすけど! でも、実験室の小箱サイズならともかく、この馬車クラスの空間拡張となると、この魔石でも家一軒分くらいが限界っすよ? 込める魔力量だけじゃなくて、触媒のサイズに引っ張られるの、地味に不便っすよねえ」


「贅沢言うな。理論上、国宝級のドデカい魔石さえあれば、この馬車の中に中核都市を丸ごと建てることだってできるんだ。要は、魔境でデカい魔獣を狩って魔石を調達すればいいだけさ」


俺はニヤリと笑い、魔力を指先へと集めていく。


「それに、このギフトの本当のヤバさはそこじゃない。ルーク、空間拡張された『箱』の特徴、覚えてるか?」


「忘れるわけないじゃないっすか。一緒に何度もテストしたんですから。まず、拡張された箱は『外部から絶対破壊不可能』になる。世界そのものに座標が固定されるから、外からの攻撃は一切通じない。つまり、このボロ馬車は今から無敵の移動要塞になるんす」


ルークは指を一本立て、楽しそうに笑う。


「で、もう一つが俺の一番のお気に入り。拡張した箱の中身は、他の箱と『魔石なしで空間を共有できる』。……ってことはこれ、現地にデっかいハブ倉庫を作ったら、世界中どこにいても、馬車の荷台を開くだけでその倉庫に直接繋がれるってことっすよね?マジで頭おかしい物流革命っすよ。」


「その通り。よく復習できてるな」


俺はルークの手から拳大の魔石を受け取り、馬車の木扉へと押し当てた。


「いくぞ。──空間拡張」


俺の膨大な魔力が魔石を包み込み、木扉へと吸い込まれていく。

キィィィン、と空間が固定される独特の硬質な音が響いた。


「よし、接続完了。ルーク、開けてみろ」


「うっす! 満を持して、いざ、実装……!」


ルークが緊張した面持ちで、ボロ馬車の安っぽい木扉をパカッと開け放つ。

外見は、どう見ても狭苦しい荷台。だが、開いた扉の向こうに広がっていたのは──壁も天井も床も、真っ白な石のような物質で構成された、文字通り「何もない四角い大空間」だった。


天井だけは外界の環境に応じて明るさが同期しており、窓がなくても外が昼か夜かが一目でわかる仕様になっている。


「おおう……実験通り、本当に真っ白っすね。床、ちょっとひんやりします」


「よし、馬車に積んできた荷物を全部ここに運び込むぞ。DIYの時間だ」


俺たちはさっそく、荷台にギチギチに押し込められていた旅の道具を、この白い大空間へと運び込んだ。

床に厚手の敷布を敷き、頑丈な簡易ベッドを組み立てる。支給された木箱を並べ、その上に地図を広げれば、立派な指令台の完成だ。何もない空間が一気に「機能的な移動事務所」へと変貌を遂げた。


何より、外がどれだけガタガタ揺れようとも、この内部空間は震度ゼロの完全な水平が保たれる。


「うおっ、すげえ! 馬車が動いても全然揺れない! 地面で野宿するのに比べたら天国っすよ!」


ルークは簡易ベッドに腰掛けて無邪気に笑った。


「宮廷の連中は、今頃俺たちが泥にまみれて泣いてると思ってますよ」


「ふっ、魔境に着いたら特大の魔石を手に入れて、この中に城でも街でも何でも建ててやるさ。そのためには、いずれ秘密を共有できる腕のいい大工や職人を囲い込まないとな」


「あー、俺たちのDIYじゃそのうち限界来そうですもんね。……よし、じゃあ俺、一眠りしたらまた御者代わります!」


俺は即席の木箱デスクに腰掛け、これからの二ヶ月の行程表を広げた。


「まずは最初の障壁、橋のない大河の攻略ルートを練るぞ。俺たちの公共事業の、これが記念すべき第一歩だ」


ボロ馬車は再び動き出す。

誰もが開拓不可能と嗤った魔境へと向かって、しかしその内部には、世界を一変させる物流革命の可能性を乗せたまま、俺たちの旅は始まった。

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