第25話 スラム再開発計画
毎日正午の更新です。
地名が増えてきたので地図を作って載せようか思案中です。
千年の都──帝都アウレリアの始まりは、オルガ河とレヌス河が合流する場所にある、やや小高い台地の上に築かれた小さな砦だった。
二つの大河が織りなす、まるで湖のような合流地点。そこに舌のように突き出した半島状の台地に、帝都は成り立っている。
そのうち最も高い丘に皇城がそびえ、一般の市街地はそこから北に向かってなだらかに伸びていた。一方、皇城の南側──大河の合流地点へと向かう斜面は、歴代皇族の離宮や神殿、元老院などの官庁街、そして大貴族の邸宅が立ち並ぶ高級住宅街となっている。
これらの街を囲む城壁のすぐ外側──高級住宅街の目の前で、台地を一段下りた沼地のような場所に、帝国最大のスラム街は広がっていた。
皇城や貴族街の目と鼻の先に、大陸最悪のスラムが存在する──治安的にも美観的にも大問題なはずだが、なぜか長年放置されてきた。それを俺に押し付け、一挙に解決させようという腹積もりなのだろう。
(立地だけで言えば、一等地もいいところなんだがな)
スラムのある土地は、大河の合流地点。台地が川へと突き出す、まさに「舌先」にあたる場所だ。広さは東西に約二キロ。南北の幅は、先端の広いところで一キロ、左右の狭いところでは三百メートルほどだ。
──俺は、『花の離宮』の一角を占領して、帝都の地図を凝視していた。
「まずは、何と言っても地盤の改良だね」
俺の呟きに、ルークが首を傾げる。
「地盤改良っすか?あそこは足元がドロドロの沼地っす。改良したところで焼け石に水っすよ?」
「そうだね、だからまずは排水機能を確保する必要がある。工兵隊に『水濠掘削』で運河を掘らせて、地下水位を強制的に下げると同時に、河川の浚渫で出た土砂を陸地にどんどん盛っていく」
俺は、図面にイメージ図を書き込みながら説明する。
「水気が抜けたら、残った土地に『地盤改良』の魔法を施す。そうすれば、十メートル四方の土地が地下十メートルまで一瞬で転圧される。高層建築を建ててもビクともしない地盤に早変わりさ」
「大公国軍はもはや建設会社っすね...。攻撃力の一切ない、こんなヘンテコな魔法を創造する皇子様なんか、ルシウス様だけっすよ。しかもこの魔法、範囲内に岩があろうが、多少の木や金属が混ざっていようが、まとめて強固な地盤の一部に変えちゃうんですから、魔法ってホント不思議っすよね」
「ちなみに、この際だから、帝都中のゴミや廃材をまとめて引き取ってきて、土地のかさ上げの材料として埋め立てて使おうかと思うんだ。ついでにスラムの解体で出る廃材も、そのまま現場で『地盤改良』の材料にしちゃえば、ゴミ処理と土地の強化が同時にできる。一石二鳥でしょ?」
再開発の手始めに、先行して一部の住人を船でオスティアに輸送し、空いたエリアから順次建物を取り壊して地盤改良を施していく。そして、綺麗になった土地に、低所得者向けのアパートを建てていくつもりだ。
ちなみにアパートに関しては、まだ定型化した建築魔法を創っていない。そのため、最初は俺が魔術を駆使して直接建てていくことになるが、住み替えの目途が立った時点で、残ったスラムの住民を雇って建設させる予定だ。技術を学ばせ、賃金を与え、家を建てさせる。完璧な自立支援プログラムである。
「よし、全体のゾーニングはこうだ」
俺は地図の「舌先」にあたる、川に最も突き出た中央のエリアを指差した。
「まず、埠頭を多数建設する。浚渫を行って、大公国からの大型船が直接接岸できるようにしよう。そして、その埠頭に隣接する地区には、硬化石製の倉庫群を建設して、物流拠点を構築する」
「おおう、それは見てみたいっす!」
硬化石は白い大理石のような見た目をしている。統一された規格の倉庫群は、見るものを圧倒すること間違いなしだ。
「次に、オルガ河に面した北西エリア。ここには『貯木場』を広く取る。大公国の大森林から切り出された木材をここで受け入れて、木材取引の拠点にする。さらに、その貯木場と倉庫群の間のエリアには、木材加工をはじめとする『職人街』を作る」
「物流と製造が直結するわけっすね」
「その通り。そして、皇城のある台地とのアクセスを考えて、北東エリア──レヌス河に面した、高級住宅街の台地へと繋がる傾斜地に、新たな『離宮』を建設する。帝都の城壁にも新しく門を作れば、官庁街とのアクセスの確保も容易になるだろう。……で、その離宮から埠頭エリアへと向かう途中に、『公設市場』を開設すれば、オルガ河とレヌス河、二つの大河からあらゆる物資が集まってくるだろうね」
「そしたら、帝都の流通が変わっちゃうかもしれないっすね」
「そうだね。新市場が帝都の台所になる日も遠くはないね。あと、それ以外の土地はすべてアパートの建築に充てよう。スラムの住人も多少は生活が改善するはずだ」
実際は、スラムの住人が再開発にどこまで適応できるかは不明だ。結局どこか別の場所にスラムが移転するだけの結果を生むかもしれない。でも、何もしないよりは随分ましだろう。
「再開発後の最終的な適正人口はおそらく現在の5分の1──2万人程度まで落とす必要がある。つまり、残りの8万人は段階的に大公国へ移住してもらうことになるね。彼らには大公国で土地を与えて農耕に従事させれば、十分に生計も成り立っていくはずだ。ただ、そのためには、エレナには悪いけど、急ピッチで受け入れ態勢を構築してもらう必要があるな」
再開発後も河港施設の生み出す雇用は結構あるだろう。ただし、将来的に、この地に残って仕事にありつけるのはごく一部だ。だからこそ、スラムの住人の選別も同時並行で進めていく必要がある。
俺は、再開発計画と同時に、スラム住人の教育プログラムに思いを巡らせながら、取り急ぎ必要になる2万人の受け入れをエレナにどうやって説明しようか頭を悩ませるのだった。
もし「続きが気になる!」「面白い」と思っていただけましたら、画面下部の「ブックマーク追加」や、評価の「☆☆☆☆☆」を★★★★★にしていただけると、執筆のモチベーションになります!
どうぞよろしくお願いいたします。




