第19話 公都ユスティニアナポリス
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「はい! それでは、第1回『公都建設検討委員会』を開催します! 皆様ご着席ください」
パチパチパチと俺が一人手を叩くと、会議室になんとも言えない微妙な空気が流れた。
「なんすか? 公都建設検討委員会ってのは、ルシウス様」
「なんだっていいんだよ、ルーク。名前があった方が雰囲気出るだろ?」
「何の雰囲気が出るって言うんだい。まったく……くそ忙しいのに、こっちはオスティアから来てるってんだよ?」
心底呆れたようにエレナがため息をつく。
彼女はここ数ヶ月、オルガ河の水運整備に文字通り不眠不休で尽力してくれた。その功績に加え、オルガ河上流一帯を根城にしていた傭兵団を根こそぎ力技で配下に収め、つい数日前、男爵から子爵へと陞爵したばかりだ。
同じく内政を支えるコルネリウスも子爵にしたことで、配下の魔法使いの数も一気に増えた。これで公都建設のスピードが跳ね上がることは間違いない。
「まあ怒るなって、エレナ。これを見れば疲れも吹き飛ぶさ。俺たちの公都──ユスティニアナポリスの都市計画図だ」
俺が図面を広げると、その場の全員が息を呑んだ。
「東西、南北ともに約5キロメートル、想定人口50万人の城郭都市だ。もちろん、将来的に人口が溢れたら城壁を拡張できるよう、設計には余裕を持たせてある」
「ご、50万人……!? 帝都以外でそんな大都市、聞いたことないっす!」
ルークがひっくり返った声を出すが無理もない。現在の大公国の規模を考えれば当然の反応だ。
「まず、公都の中心には一辺1キロメートルの内壁を設ける。この内側を『城内』として、大公国の政庁や宮殿なんかを建設する予定だ。そして、この内壁を中心として、東西南北に大通りを走らせる」
俺は図面の中心を指差した。
「車道は80メートル、左右には10メートルの歩道を設けて、大通りの幅員は100メートルになるよう設計する」
「ひゃ、100メートル!?」
今度はエレナがあきれた声を上げる。
「気でも狂ったのかい? ルシウス。帝国の軍団兵だってそんな幅とらないよ。巨人でも走らせる気かい?」
「まあまあ。都市にとって道路は血管だ。最初から広く造っておかないと、後から拡張するのは不可能に近いからね。さらに、この大通りも含めて、東西南北それぞれに9本の幹線道路を引いて、碁盤の目状に区画を整理しようと思う。大通り以外の幹線も、車道30メートル、歩道は左右に10メートルずつの幅員50メートルで統一だ」
俺のこだわりが詰まった道路網計画。前世で言うと、条坊制やローマ式都市計画なんて言ったりするが、結局のところ最も効率のいい都市計画というのはグリッド式になる。
「……なるほど。そうすると、内壁と外壁の間には『一辺500メートルの大街区』がちょうど12区画作られることになりますね」
「その通り。さすがコルネリウスだね。この大街区を行政の基本単位とする。そして、各街区の中心には広場、教会、それから『交番』を設置する」
「こうばん……? なんすか、それは」
ルークが首を傾げる。この世界には存在しない概念だ。
「治安維持の拠点だよ。街区ごとに小さな拠点を置いて警備兵を常駐させるイメージかな。住民が何か困ったときなんかも、すぐ駆け込める場所になる」
「なるほど……。網の目のように配置すれば警備効率も良さそうですね」
コルネリウスが感心したように顎を撫でた。
「次に、開発方針の共有だ」
俺は大通りで十字に区切られた4つのエリアを順に指差した。
「名称はシンプルに『北東区』『南東区』『南西区』『北西区』とする。将来的には文教地区や、夜の街なんかも整備する予定だが……当面は『南東区』を優先的に開発する」
「南東区……ですか。何か理由が?」
コルネリウスの問いに、俺は我が意を得たりと頷いた。
「我が大公国は、今後も帝国との交易によって成り立つ。よって、まずは南側の開発を行うのが最も合理的だ。現状、大公国経済の中心はオスティアにあるしね。そこで、オルガ河から運河を引っ張ってくることで、南東の堀を公都の河港として整備しようと思う」
「う、運河っすか!?」
「そうだよ、ルーク。オルガ河は盆地の北端、大山脈の大滝を水源として盆地を縦断している。将来、水運が物流の主軸になることは間違いない。運河の掘削は、俺のオリジナル魔法『水濠掘削』を使えば十分可能だと思う」
「つまり南東区は、水陸交通の要衝として、公都最大の物流拠点、商業区になるってわけね」
エレナが満足そうに口元を緩めた。水運のプロとしても納得のいく計画だったということだろう。
ちなみに、城門は東西南北に一か所ずつ設ける計画だけど、すべて『甕城』とセットで建設する予定だ。これは、前世で言うところの桝形や真田丸のような、門の外に築く出城のようなものだが、幅500メートル、奥行き300メートルという十分な広さを持たせ、そこへ市場や宿屋、検問所を集積させるつもりだ。
「さて、問題は道路建設の工法だ。一般の街路は、魔法で作れる幅員10メートルの道路でいくとして、大通りをはじめとする幹線道路をどうするか。俺の魔術でやっちゃえば早いんだけど、この際、一発で広範囲を舗装できるような新規魔法を開発するか、人海戦術でいくか、ちょっと迷ってるんだよね」
俺が腕を組んで唸っていると、エレナが呆れたようにため息を吐いた。
「まったく、悩みの規模がデカすぎて私にはちっともピンときやしないよ。どのみち私の仕事は水運関係だろ? さしあたっては運河の掘削と閘門の設置だね」
「うん、頼むよエレナ。よし、方針は決まった。これより、公都ユスティニアナポリスの建設を開始する! 総員、奮励努力せよ!」
俺は、誰にも通じないZ旗のネタをぶち込みながら、一人悦に浸ったのであった。
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