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第18話 国土基本計画

明日は1日3回の更新を予定しています!基本は毎日お昼の12時です!

巨大な雷光に撃ち抜かれ、大地に沈んだドラゴンは、もはや荒れ狂う力さえ残っていなかった。マルクスは静かにその巨体へと歩み寄ると、柔らかな笑みを浮かべたまま、その角にそっと触れた。


彼がギフト『飼育員』の権能を行使した瞬間、ドラゴンの瞳に宿っていた濁った光が、不思議と澄んでいく。マルクスが囁くような言葉を投げかけると、ドラゴンは穏やかに首を垂れ、あるじを認めるかのように低く咆哮した。


馴致は完了した。

ドラゴンは、まるで重荷を下ろしたかのように翼を広げ、ゆっくりと大山脈の峰へと帰っていった。


────


ポルタ・アウストラに戻ると、俺は、酒を飲まないマルクス兄さんに紅茶を淹れていた。ふと天幕の外に目をやれば、急速に開拓が進む盆地の灯りが並んでいる。


「兄さんのおかげで、助かったよ。俺も、まさかドラゴンが出てくるとは思わなくてさ。今回ばかりは、さすがに詰んだかと思ったね」


「いいんだよ。君が珍しく弱音を吐くからね。どんな化け物かと楽しみにしていたけれど、こうして君のつくった街を見て、僕も少しだけ考えが変わったよ。ところで、国号はどうするんだい? いつまでも名無しの大公国というわけにもいかないだろ?」


「そうなんだ! 実は考えてあるんだよ。国号は『ユスティニア』。ユスティニア大公国ってのはどうだろうか?」


「ユスティニアか。君の家門名から取ったわけだね。古い言葉で『法と正義』を意味する。……実に君らしい、いい名前じゃないか」


マルクス兄さんは紅茶を口に含むと、デスクに広げられた大森林盆地の地図に目を止めた。そこには、魔法と工学が調和した、国土基本計画ともいうべきものが描かれていた。


「公都を中心とした八本の放射道路。そして、それを繋ぐ三本の環状道路。公都は政治、経済、文化の中枢となる。要所には直轄領を置くことで、盆地全体をコントロールすると……。実に合理的な計画じゃないか」


兄さんは、俺の計画図を見て瞬時にその本質を見抜いた。


盆地の直径は200kmに及ぶ。これは関東平野の1.8倍、九州よりもやや小さいくらいの大きさだ。俺は、この盆地に公都を中心として放射状に領地貴族を配置していこうと考えている。


具体的には、中央の直轄領を囲むように、侯爵領を四方に置き、さらにその周りを伯爵や子爵たちが固める形だ。こうすることで、爵位と軍の一体的運用も可能となるだろう。


「物流についてはどう考えているんだい?」

兄さんが楽しそうに俺に聞いてくる。


「うん、俺も物流は大公国の生命線だと思ってるよ。現状では盆地への入り口は南端のポルタ・アウストラにしか存在しないけど、ここはオルガ河が盆地から出る場所に当たる。将来的には閘門こうもんを設けて、大型船舶が通行できるようにするつもりだよ。それに、西端の峠を越えれば、その先には北側諸国が広がっている。もし大山脈を越えるバイパスを建設できれば、世界の物流は一変する。大公国は大山脈を越えた物流のハブとしての地位を確立することになるんだ」


兄さんは満足そうに頷く。


「大陸の物流を握る国か。となれば、これからこの盆地には凄まじい数の人間が流れ込んでくることになるね。──そうなると、一番の問題はどうやって移民を受け入れるかだ。国家の発展という意味では、移民は歓迎すべきものだけど、一歩間違えるとマイナスになりかねない。ルシウスはどう考えているんだい?」


「うん、その通りだね。無秩序な流入は混乱を招く。だから、希望者はまずオスティア周辺で開拓に従事してもらって、適性が認められれば街道沿いの開拓地へ、さらには盆地内の領地へと割り振るつもりだよ。それに、オルガ河を利用した官営紡績工場の建設を進めているから、当面は街道沿いの宿場町が人口を吸収してくれると思う」


「面白いね。本当に面白い。……いっそ、もう少しだけ残って、君の領地経営を詳しく見学していこうか。僕も久々に興味がわいたよ」


マルクスが微笑みながら呟いたときだった。


「だーめですよ、マルクス様!」


天幕へ駆け込んできたマリーが、ぷくっと頬を膨らませて立ちはだかる。


「せっかくの二人旅なのに、お仕事なんてお断りです! 今のマルクス様には、私という癒やしが必要なんです!」


「はは、少しだけなんだが……」


「ダメです。もう帰りますよ! 早くしないと帝都のお花が散っちゃいますよ!」


マリーはマルクスの腕にぎゅっとしがみつき、譲らない。俺もマルクス兄さんも、帝国最強の魔法使いに異を唱えるような愚は犯さない。


マルクス兄さんは、そのまま帝都に強制送還となった。

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