第17話 雷光のマリー
雷光のマリーは黒髪です。これはハイエルフでは極めて珍しいことです。基本金髪なので。
「拝啓、マルクス兄さん。
帝都はもうすっかり春でしょうか。こちらも随分と暖かくなってきました。マルクス兄さんにおかれましては、いかがお過ごしでしょうか?俺は元気です。
開拓も二年目に入り、兄さんの送ってくれた作物も順調に育っています。ルパルクスも大活躍です。本当に感謝しています。
さて、単刀直入に言うと、ドラゴンが出ました。ぶっちゃけ何ともなりません。一般兵はおろか、俺のオリジナル魔法を駆使しても、まるで歯が立たず、一時撤退を余儀なくされました。どうやら、太古の昔に降ってきた巨大な魔石は、盆地の中心部ほど魔素が濃いらしく、公都建設予定地一帯は濃密な魔素でおおわれています。おそらく、高濃度かつ不安定な魔素に晒され続けた結果、ドラゴンは自我を失っているのだと思います。
こちらから近づかない限りは襲ってくることはないのですが、これでは公都の建設がままなりません。誠に申し訳ないのですが、魔法生物の専門家で、『飼育員』のギフトを持つ兄さんの力を貸してもらえないでしょうか?
帝都の雲行きも先が読めないこととは承知しておりますが、どうかお力添えのほどをお願いします。
ルシウスより
P.S.離宮の庭園は、今年も花でいっぱいでしょうか? 忙しいのに母さんが大切にしていた庭園を守ってくれてありがとう。」
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ルシウスからの手紙を読み終えたマルクスは、羊皮紙をそっと机に置き、ふっと笑みをこぼした。窓の外では、陽だまりの中でマリーが花壇の手入れをしている。
「……ドラゴンか。また、とんでもないものが出たね」
マルクスはいつもと変わらぬ優しげな笑みを浮かべたまま、手紙を読み返した。
「マリー、準備をしておくれ。北へ行くよ」
窓辺から振り返ったマリーが、きょとんとした表情で歩み寄る。マルクスは椅子から立ち上がり、手紙を懐にしまいながら、静かに、しかし迷いのない口調で告げた。
「さて……たまには真面目に働くとしましょうか」
帝国歴1324年、春。マルクス・ユリウス・アッピウスは、北へと向かった。
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「ご報告いたします! ただいま、ユリウス帝国第三皇子、マルクス・ユリウス・アッピウス公爵殿下がご到着されました!」
天幕に入ってきたマルクス兄さんは、相変わらず優しげな雰囲気をまとった爽やかイケメンだった。
「久しぶりだね、ルシウス。来る途中、街道を通ってきたけど、かなり立派だね」
「兄さん!来てくれたんだね!ありがとう、遠いところまで」
俺が駆け寄ると、マルクス兄さんは穏やかに微笑んだ。
「まあ、君が珍しく僕を頼ってくれたんだ。たまには兄らしいところも見せないとね」
「感謝するよ、兄さん。それに、マリーも久しぶりだね」
「お礼には及びませんわ、ルシウス様。マルクス様が行くところ、メイドたる私が付き従うのは当然のことですから!」
マリーが愛くるしく微笑むと、周囲にどよめきが沸き起こる。
ハイエルフには珍しい黒髪をショートボブにし、大きな瞳をたたえた少女。そのあどけなくも可憐な姿は、見る者すべてを魅了する愛らしさだ。
「……っ! かわいい……!それに胸もデカいっす!」
ルークが鼻の下を大きく伸ばしているのを見て、俺はため息をつく。
「おい、ルーク。やめておけ。マリーは兄さんにしか興味がない。何より……手に負えないくらい凶暴だ」
「ええっ? ルシウス様、冗談でしょう。あんなに可憐で愛らしい子が凶暴だなんて、嘘っすよ!」
ルークには悪いが、現実は残酷なものなのだよ。
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内壁の建設現場付近。
上空を飛び回るドラゴンは、禍々しい魔素をまき散らしながら荒れ狂っていた。本来、ドラゴンは知性の高い生物のはずだが、その面影はどこにもなかった。
兄さんはドラゴンを一瞥するなり、小さく溜息をついて肩をすくめた。
「やれやれ……。これは無理だね。完全に我を忘れている。これじゃあ僕のギフトでも対話は不可能だよ」
「やっぱりそうか……。お手上げだね」
「いや、正気に戻すことができれば話は別だ。マリー、あの子を落ち着かせてあげてくれるかな?」
兄さんはこともなげに言うと、マリーへ優しく微笑みかけた。
「はい、マルクス様!」
マリーがふわりと微笑んだ瞬間、周囲の空気が凍りついた。
彼女が右手を天に掲げると、雲ひとつなかったはずの空が漆黒に染まり、莫大な魔力が練り上げられていく。
「────『雷光』ッ!」
天地を震わせる閃光が走り、直後、盆地全体を揺るがすような轟音が響き渡った。
空中で暴れていたドラゴンは、マリーの放った極大魔法の直撃を受け、断末魔を上げる暇もなく地面へと叩きつけられる。
大地が大きく陥没し、凄まじい砂煙が巻き上がる。
「……これが帝国最強の魔法使い『雷光のマリー』だよ、ルーク」
俺は、驚きで固まっているルークに親切に教えてあげるのだった。
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