表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/21

第15話 弟からの手紙

投稿3日目で[日間]異世界転生/転移ファンタジーにてランキング入りできました!皆様のおかげです。☆とブックマークのほどをお願いします!

帝都の一角、午後の柔らかな光が差し込む離宮は、穏やかな空気に包まれていた。

机の上には積み上げられた手紙。その中の一枚を手に取り、眼鏡の奥の瞳を細めていたマルクス・ユリウス・アッピウスは、ふと視線を上げて対面に座る少女を呼んだ。


「マリー、見てごらん」


マルクスが手招きすると、マリーは嬉しげに椅子から飛び起き、背後から彼を覗き込むようにして身を寄せた。マリーの自称「男の子の夢を詰め込んだ身体」を背中で感じながらも、マルクスは表情を崩さず、さらりと受け流す。


「ルシウスからの報告だよ。大森林盆地……あの死の魔境の開拓が、予想を遥かに超える速度で進んでいる」

「へー、ルシウス様が? すごいじゃないですか」


マリーが興味なさげに呟く。帝国最強の魔法使い『雷光』の異名を持つ彼女だが、今はマルクスの傍らで甘い時間を過ごすことにしか興味がないようだ。

マルクスはルシウスの手紙を指でなぞりながら、マリーに分かるように語り始めた。


「拠点構築には成功したものの、やはり魔素の濃度は尋常ではないらしい。だが、驚くべきことに、彼が建設した一辺二キロメートルもの巨大な城郭都市は、その内側では魔物の発生を完全に抑制して、農耕を可能にしたというんだ。どうやら、彼のインフラ魔法には魔物を退ける効果があるようだね。これは単なる辺境の開拓ではない。帝国農業史を塗り替えるレベルの大発見だ」


彼は満足げに口元を綻ばせた。ルシウスが盆地まで街道を敷設したこと自体、前人未踏の偉業だ。さらには、量産体制に入ったサツマイモやジャガイモなどの救荒作物、寒冷地に強い小麦や菜種が青々と芽吹いている。実験段階とはいえ、砂糖の原料となる甜菜や綿花の栽培までもが視界に入っているのだ。


「この調子なら、近い将来、盆地は帝国随一の穀倉地帯になるだろうね。ルシウスは、私の想像を軽々と追い越していくよ」


ふと、マルクスは窓の外、帝都の街並みに目を向けた。その表情から、先ほどの緩やかな空気が消える。


「順調すぎる開拓は、嫉妬を呼ぶ。カシウスたちが、くだらないことを企んでくる可能性があるね。……マリー、君の『目』で、不穏な兆候があれば教えてくれないか」

「はいはい、マルクス様の頼みとあれば。でも、ルシウス様なら軽くあしらっちゃうんじゃないですか?」

「ああ、君の言う通りだ。あの子の実力からすれば、取るに足らない小細工に過ぎないだろう」


帝都の権力構造は複雑だ。元老院保守派、いわゆる『皇統派』は、正室の子であるギルバートを次代の皇帝とすべく固く結束している。彼らにとって、実母が異なり、なおかつ世界樹の加護を持つルシウスは、秩序を乱す存在に他ならない。

一方で、ルシウスを支持する『世界樹派』は、実利を重んじる勢力だ。盆地の豊かな資源と物流網が帝国にもたらす経済効果を予見し、彼らはルシウスの背中を押している。カシウスたちの嫉妬は、単なる兄弟喧嘩ではなく、この二大派閥の代理戦争としての側面が強いのだ。


ただ、マルクスが本当に警戒しているのは、その渦中にいる摂政、ギルバート兄上の動向だ。


「不気味なのは、ギルバート兄上だよ」


マルクスの声が低くなる。ギルバートはルシウスの開拓を妨害するどころか、むしろ協力的にさえ見える。オルガ河の水運整備への支援を検討し、極めつけは、河川の要衝であるテヴェレの領主に、ルシウスを推す世界樹派の者を送り込んだことだ。


「……一見、統治者としての公正かつ現実的な判断といえるだろう。だが、その裏に何があるのか。ギルバート兄上が、目先の利益だけで動くとは思えない。彼がルシウスの開拓を、単に帝国に富をもたらすものとして歓迎しているのか、あるいは別の意図があるのか。何とも言えない違和感を覚えるんだよね」


マルクスは眼鏡を拭き、思考の霧を晴らすように短く息を吐いた。

複雑な政局の裏側で、兄としての、そして一人の人間としての本音が漏れる。


「まあいい。私にできることは、母上とルシウス、そして私、三人の思い出が残るこの離宮を守ることだ。それ以上を望むのは贅沢というものだろう」


マルクスがふと微笑むと、マリーがまたしても彼に体重を預けてきた。


「もう、マルクス様は真面目すぎ! 今は私との時間を楽しんでくださいな」

「はは、そうだね。君の言う通りだ」


論理と感情、知性と弛緩。マルクスは、自身の居場所を守るための鋭い思考を心の奥底に封じ込め、愛らしいメイドとともに流れる、ささやかで穏やかな幸せを噛みしめるのだった。

もし「続きが気になる!」「面白い」と思っていただけましたら、画面下部の「ブックマーク追加」や、評価の「☆☆☆☆☆」を★★★★★にしていただけると、執筆のモチベーションになります!


どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ