管理者認証
巨大な扉の前には、重い静寂が流れていた。
白い石で作られた門。
表面を埋め尽くすように刻まれた古代文字。
その圧倒的な存在感に、研究員たちも息を潜めている。
セレナは扉へ手を触れた。
だが、何も起きない。
「反応なしです」
研究員の一人が装置を確認しながら言う。
別の研究員が魔力測定器を向ける。
「内部から微弱な反応があります。ただ、完全に遮断されています」
「強制解放は?」
「不可能です。外壁と同じ材質なら、通常兵装では傷もつきません」
ノクトが小さく口笛を吹いた。
「頑丈すぎるだろ……」
ガルドは腕を組んだまま扉を見上げている。
「壊せないなら、開けるしかないな」
セレナは静かに頷いた。
そして、リゼを見る。
「読めるか?」
リゼは少し緊張しながら扉へ近づいた。
古代文字を見つめる。
複雑に絡み合う線。
頭の奥が、じわりと熱を持った。
「……えっと」
意味が、少しずつ浮かび上がってくる。
「“管理区画”……“接続制限”……」
研究員たちが一斉に記録を始める。
リゼはさらに文字を追った。
だが、途中から急に読みづらくなる。
霞がかかったみたいに、意味が遠い。
「……“権限不足”」
セレナの眉がわずかに動いた。
「不足?」
「はい……たぶん、完全な認証じゃないんだと思います」
リゼは自分でも不思議だった。
読める。
でも全部じゃない。
まるで遺跡そのものに、拒まれているみたいだった。
そのとき。
扉の表面が淡く青く光った。
「!?」
研究員たちがざわめく。
低い振動音が通路へ響いた。
ゴゥン……。
青い光が文字の上を流れていく。
そして突然。
通路の結晶が、一斉に赤く変わった。
警告灯みたいに、赤い光が点滅する。
「警戒!」
セレナが鋭く叫ぶ。
次の瞬間。
壁の一部が開いた。
そこから、球体状の機械がゆっくり浮かび上がる。
白い金属。
中央には赤い光。
人の頭ほどの大きさのそれは、静かに宙へ浮いていた。
「なにあれ……」
ミナが息を呑む。
研究員の一人が青ざめる。
「古代防衛機構……!」
球体が低い音を響かせる。
赤い光が探索隊を順番に照らした。
そして。
突然、細い光線が放たれる。
「伏せろ!」
ガルドが前へ飛び出した。
光線が石壁を焼く。
轟音。
砕けた石片が飛び散った。
「うわっ!?」
ノクトがリゼの腕を引く。
ミナは研究員たちを後方へ下がらせていた。
「下がってください!」
球体は一体だけではなかった。
次々と壁が開き、赤い光が浮かび上がる。
セレナが剣を抜いた。
「迎撃する!」
鋭い一閃。
一体の球体が火花を散らして落下する。
だが、別の機体がすぐに動いた。
「数が多い!」
研究員たちが悲鳴混じりに叫ぶ。
赤い光線が次々と通路を走る。
石壁が焼け、床が砕ける。
狭い通路の中で、探索隊は必死に身を伏せた。
「右から来る!」
ノクトが叫ぶ。
ガルドが即座に前へ出た。
大剣で光線を受け流す。
激しい火花。
重い衝撃音が通路へ響いた。
「ちっ……!」
さすがのガルドも表情を険しくする。
光線の威力が想像以上に強い。
その隙に、別の球体が研究員たちへ狙いを定めた。
「危ない!」
ミナがとっさに研究員を突き飛ばす。
直後、光線が床を抉った。
轟音と共に石片が飛び散る。
研究員たちは青ざめながら後退した。
セレナは冷静だった。
「隊列を下げろ! 狭所に誘導する!」
護衛兵たちが盾を構えながら前進する。
球体機械は一定距離を保ちながら浮遊していた。
まるで侵入者を排除するためだけに動いているみたいだった。
「これ、どうすれば止まるんだよ!?」
ノクトが叫ぶ。
そのとき。
リゼの視線が扉へ向く。
古代文字が、まだ淡く光っている。
頭の奥へ、断片的な言葉が流れ込んできた。
――補助認証を確認。
――限定接続を開始。
「……っ」
リゼは無意識に扉へ近づいた。
「リゼ!?」
ミナが驚く。
だが、リゼは止まれなかった。
今なら、わかる気がした。
扉に触れた瞬間。
青い光が一気に広がる。
ゴゴゴ……。
巨大な門が、低い音を響かせながら動き始めた。
「扉が!?」
研究員たちが驚愕する。
防衛機構の動きが、一瞬だけ止まる。
赤い光が揺らいだ。
「今だ!」
セレナが鋭く叫ぶ。
護衛兵たちが一斉に反撃する。
火花。
衝撃音。
一体、また一体と球体が落下していく。
だが、扉は完全には開かなかった。
開いたのは、ほんのわずか。
人が一人通れるかどうか程度の隙間。
けれど、その奥からは強い青白い光が漏れていた。
リゼは思わず息を呑む。
遥か上へ伸びる巨大空間。
無数の結晶。
幾重にも重なる白い回廊。
そして、その中心。
空中へ伸びる巨大な白い塔。
「あれが……中央管理塔……?」
誰かが呟く。
研究員たちも言葉を失っていた。
今まで見てきた遺跡とは、規模そのものが違う。
まるで都市だった。
セレナは険しい表情のまま、その光景を見つめている。
「まだ先があるのか……」
低く漏れた声には、わずかな驚きが混じっていた。
そのとき。
防衛機構の赤い光が、ゆっくり消えていく。
通路に静寂が戻った。
ただ、扉の向こうから吹き込む風だけが静かに流れている。
リゼは呆然と立ち尽くしていた。
胸の奥が妙にざわつく。
そして。
頭の奥へ、言葉が静かに浮かび上がる。
――継承資格。
ただ、その言葉だけが頭へ浮かんだ。




