中央管理塔へ
地図装置が停止したあとも、部屋の熱気はしばらく消えなかった。
研究員たちは記録した内容を何度も確認し合っている。
「未確認遺跡が十以上……」
「いや、もっとある」
「こんな発見、歴史が変わるぞ……」
興奮した声が飛び交う中、セレナだけは冷静だった。
「浮かれるな」
その一言で、部屋の空気が少し引き締まる。
セレナは空中地図が消えた台座を見つめた。
「重要なのは、まだ遺跡が完全起動していないことだ」
研究員たちが静かになる。
「中央管理塔へ到達できなければ、得られる情報は限定的だろう」
その言葉に、一人の研究員が頷いた。
「上位区画との接続……ですか」
「ああ」
セレナは振り返る。
「探索隊を再編成する」
その後、簡単な打ち合わせが行われた。
研究員たちは、
記録班
調査班
護衛班
へ分かれていく。
リゼたち四人は、セレナ直轄の探索班へ組み込まれた。
「学生なのに最前線だ」
ノクトが苦笑する。
「今さらじゃない?」
ミナは半分呆れていた。
ガルドは壁へ背を預けたまま短く言う。
「護衛役が必要なんだろ」
セレナは地図を広げながら説明を続けた。
「中央管理塔は遺跡中央部にある可能性が高い」
紙の上には、先ほど記録した簡易地図が描かれている。
「ただし、現在地から直接向かう通路は崩落している」
「つまり遠回りか」
ノクトが眉を上げる。
「ああ。外周通路を経由する」
セレナは淡々としていた。
だが、その目は鋭い。
「何が起きるかわからない。単独行動は禁止だ」
全員が頷く。
やがて探索隊は再び通路を進み始めた。
遺跡内部は相変わらず静かだった。
青い結晶の灯りだけが、白い石壁をぼんやり照らしている。
時折、低い機械音のようなものが遠くから響いていた。
まるで遺跡そのものが眠りながら呼吸しているみたいだった。
「……なんか慣れてきたかも」
リゼが小さく言う。
「それはそれで危ない気がする」
ミナが即座に返した。
ノクトは周囲を見回している。
「でも、ほんとに人がいたんだな」
壁際には古びた机のようなものが並び、砕けた器具も散乱していた。
長い年月を経ているはずなのに、不思議と朽ちきってはいない。
「古代文明、か……」
リゼは静かに呟く。
その先の部屋には、崩れた棚のようなものが並んでいた。
透明な筒状の容器。
割れた結晶板。
用途のわからない金属器具。
研究員たちは興味深そうに周囲を調べ始める。
「保存設備か……?」
「いや、研究施設かもしれない」
「こっちの結晶、まだ微弱反応があります!」
会話を聞きながら、リゼはゆっくり周囲を見回した。
ここには確かに“誰かの日常”があった。
ずっと昔。
今とはまったく違う時代に。
そう思うと、不思議な気持ちになる。
そのときだった。
前方を歩いていた研究員が声を上げる。
「止まってください!」
全員の動きが止まる。
通路の先。
床の一部が大きく崩れていた。
ぽっかり空いた穴の向こうには、遠い空が見えている。
「うわ……」
リゼは思わず息を呑んだ。
落ちれば、雲の下まで真っ逆さまだ。
風が下から吹き上げてくる。
ノクトが端へ近づく。
「飛び越えるには微妙だな」
「危険です!」
研究員が慌てて止める。
ガルドは崩れた床を見下ろしながら呟いた。
「……向こう側に通路は続いてる」
確かに、穴の先にも道が見える。
セレナは周囲を確認した。
「別ルートは?」
研究員たちが地図を調べる。
だが、一人が顔を曇らせた。
「近くに迂回路はありません」
空気が少し重くなる。
そのとき、リゼの視線が壁へ止まった。
崩落地点の近く。
そこに古代文字が刻まれている。
「……これ」
リゼはそっと近づく。
文字へ触れた瞬間。
壁の奥で、低い振動音が響いた。
ゴゥン……。
次の瞬間。
崩落していた空間へ、白い光が伸びる。
「!?」
研究員たちがざわめく。
光は橋のように空中へ広がり、向こう側の通路と繋がった。
半透明の、光の橋。
ミナが目を丸くする。
「え、なにこれ……」
ノクトは妙に楽しそうだった。
「めちゃくちゃ冒険っぽいな」
「落ちたら終わりだけどね」
セレナは慎重に橋へ足を乗せる。
数秒確認したあと、小さく頷いた。
「……安定している」
そしてリゼを見る。
「また君か」
呆れ半分、感心半分みたいな声だった。
リゼは困ったように笑う。
「私も何が起きたのかわからなくて……」
「それでも動かした」
セレナは短く言った。
「十分だ」
探索隊は慎重に光の橋を渡っていく。
足元では淡い光が静かに揺れていた。
真下には、果ての見えない空。
リゼは思わず息を止めながら橋を渡る。
その途中、ふと横を見る。
崩れた外壁の向こう。
夕暮れの空が広がっていた。
白い雲。
赤く染まる空域。
そして遠くには、飛空艇の小さな影も見える。
こんな高い場所に、本当に遺跡が存在している。
改めて考えると、不思議だった。
やがて全員が向こう側へ辿り着く。
その先の通路は、今までより広かった。
壁には青い結晶が規則的に並び、奥へ向かって一直線に続いている。
そして最奥。
巨大な扉が、静かに佇んでいた。
白い石で作られた門。
表面には、複雑な古代文字が刻まれている。
リゼは無意識に息を呑んだ。
今まで見てきた文字より、さらに密で複雑だった。
頭の奥が微かに熱を持つ。
そして、意味が流れ込んでくる。
「……管理者認証」
誰かが息を呑んだ。
リゼはゆっくり文字を見上げる。
「“管理者認証が必要です”……って書いてあります」
静寂が落ちた。
中央管理塔への入口は、まだ閉ざされたままだった。




