遺跡の内部
ゴゴゴ……という重い音を響かせながら、巨大な門がゆっくり開いていく。
長い年月閉ざされていたはずの入口から、冷たい空気が流れ出した。
誰も言葉を発しない。
研究員たちも緊張した表情で門の奥を見つめている。
やがて門が完全に開いた。
その先に広がっていたのは、薄暗い石造りの通路だった。
壁には青い結晶が埋め込まれている。
淡い光が静かに周囲を照らしていた。
「……光ってる」
ミナが小さく呟く。
「誰もいないのに?」
ノクトも不思議そうに眉を上げた。
セレナが警戒した様子で前へ出る。
「先行班、周囲を確認」
護衛の兵士たちが武器を構えながら内部へ入っていく。
しばらくして、一人が振り返った。
「安全です!」
その声で、研究員たちも慎重に動き始めた。
リゼたちも後に続く。
遺跡の中は、不思議な静けさに包まれていた。
足音だけがやけに大きく響く。
白い石壁には細かな傷が走り、所々に崩れた跡も残っている。
だが、完全には崩壊していなかった。
長い年月を経ているとは思えないほど、原形が残っている。
「すごい……」
リゼは思わず周囲を見回した。
本でしか知らなかった古代遺跡。
今、自分はその中を歩いている。
壁際には、壊れた彫像のようなものも並んでいた。
人に似ているが、どこか形が違う。
翼のような装飾が背中に刻まれている。
「なんか不気味だな」
ノクトが小声で言う。
「静かすぎるんだよ……」
ミナも落ち着かない様子だった。
通路を進むにつれ、空気が少しずつ冷たくなっていく。
どこからか、低い機械音のようなものまで聞こえていた。
生きている。
ふと、リゼはそんな感覚を覚える。
この遺跡は、ただの廃墟じゃない。
まだ完全には眠っていない。
そのとき。
一人の研究員が壁を指差した。
「文字があります!」
リゼは反射的にそちらを見る。
白い壁に刻まれていたのは、見覚えのある古代文字だった。
複雑に絡み合った線。
読めるはずのない文字。
なのに、意味だけが自然と頭へ浮かんでくる。
「……第七保管区」
周囲が静まり返った。
研究員たちが一斉にリゼを見る。
「今、なんて?」
セレナが低い声で聞いた。
リゼは少し戸惑いながら壁を見る。
「えっと……“第七保管区”って」
研究員たちがざわめいた。
一人が慌てて記録を書き始める。
「本当に読めるのか……」
セレナが小さく呟く。
その声は、最初とは少し違っていた。
疑いより、驚きに近い。
リゼ自身も混乱していた。
どうして読めるのかわからない。
考えようとすると、逆に頭の奥がぼんやりする。
「他には?」
研究員の一人が尋ねる。
リゼはさらに文字を追った。
「……管理区画」
「管理区画?」
「たぶん……。でも、その先が読めません」
途中から文字が滲むように曖昧になる。
無理に理解しようとすると、頭の奥が熱を持った。
リゼは小さく額を押さえる。
「……っ」
セレナがすぐに気づいた。
「無理に読むな」
「でも……」
「君はまだ、自分の力を理解していない」
その言葉は、不思議と優しかった。
リゼは少しだけ肩の力を抜く。
そのときだった。
通路の奥で、青い光が一瞬だけ明滅した。
研究員たちが顔を上げる。
「今のは?」
低い振動音が足元から伝わってきた。
ゴゥン……。
まるで遺跡そのものが動いたような音だった。
壁に埋め込まれた青い結晶が、次々と淡く光り始める。
暗かった通路が、ゆっくり照らされていく。
「遺跡が起動してるのか……?」
研究員の一人が呟く。
その声には興奮が混じっていた。
やがて別の研究員が叫ぶ。
「奥に部屋があります!」
通路の先。
半開きになった石扉の向こうに、小さな空間が見えていた。
セレナは護衛たちへ目配せする。
「先に確認を」
兵士たちが慎重に中へ入っていく。
短い沈黙。
やがて声が返ってきた。
「安全です!」
リゼたちも部屋の中へ足を踏み入れた。
そこは円形の空間だった。
中央には、白い石で作られた台座がある。
表面には古代文字が幾重にも刻まれていた。
周囲には砕けた結晶片が散らばっている。
「これ、装置か?」
ノクトが近づこうとした瞬間。
台座が淡く青く光り始めた。
「!?」
研究員たちが一斉に後退する。
だが、光はリゼへ反応するように強くなっていく。
空気が震えた。
次の瞬間。
台座の上に、青白い光が広がる。
無数の線が空中へ浮かび上がり、複雑に絡み合っていく。
誰かが息を呑んだ。
それは地図だった。
巨大な空域地図。
山脈。
空路。
無数の島々。
そして、各地に散らばる光点。
「これって……」
ミナが呆然と呟く。
研究員たちも言葉を失っていた。
セレナだけが鋭い視線で地図を見つめている。
「まさか……」
その中には、今いるルミナ遺跡を示す光もあった。
だが、それだけじゃない。
遥か遠く。
未確認空域と思われる場所にも、いくつもの光点が浮かんでいる。
まだ誰も知らない遺跡。
まだ発見されていない場所。
リゼは思わず、その光景へ見入った。
胸が高鳴る。
まるで世界そのものが、突然広がったみたいだった。




