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蒼空のルミナ遺跡  作者: ひろゆら


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空に浮かぶ影

飛空艇が安定飛行に入る頃には、学院の街はすっかり見えなくなっていた。


窓の外に広がるのは、一面の青空と白い雲。


船体は低い振動を響かせながら、北方空域へ向かって進み続けている。


「……すごい」


リゼは窓に張りつくように外を見ていた。


眼下には白い雲がゆっくり流れている。


「子供みたいにはしゃいでる」


後ろからミナが呆れた声をかける。


「だって初めて乗るんだよ?」


「私は酔いそう」


「えっ」


ミナはぐったりした様子で椅子へ腰を下ろした。


顔色が少し悪い。


ノクトが笑う。


「情けないなあ」


「うるさい……」


「ほら、水」


意外にも、差し出したのはガルドだった。


ミナは少し驚いた顔をする。


「……ありがと」


ガルドは短く頷くだけだった。


リゼは思わず小さく笑う。


なんだかんだで、みんな優しい。


そのとき、通路の向こうから研究員たちの声が聞こえてきた。


「北方空域の気流は安定しています」


「観測班からの連絡は?」


「今のところ異常なしです」


机の上には大量の資料が広げられていた。


遺跡のスケッチ。


空域地図。


魔力反応の記録。


どれも専門用語ばかりで難しそうだ。


リゼが興味深そうに眺めていると、後ろから声がした。


「気になるか?」


振り返ると、セレナが立っていた。


リゼは慌てて背筋を伸ばす。


「す、すみません」


「別に怒っていない」


セレナは机の資料へ視線を落とした。


「ルミナ遺跡は発見例そのものが少ない」


静かな声だった。


「しかも今回は、浮遊型だ」


「浮遊型?」


ミナが聞き返す。


「空域を移動する遺跡の総称だ。位置が一定ではない」


ノクトが眉を上げた。


「遺跡が動くのか?」


「ああ。古代文明の技術か、魔力現象かは不明だ」


リゼは思わず地図を見つめた。


空を漂う遺跡。


本で読んだだけだった存在が、本当にある。


胸の奥が少し高鳴る。


だが、セレナの表情は険しかった。


「浮遊型遺跡は、生還率が低い」


空気が少しだけ重くなる。


ミナが小さく息を呑んだ。


「そんなに危険なんですか」


「長い年月を空で漂っていた遺跡だ。崩落の危険もある」


セレナは淡々と続ける。


「さらに古代防衛機構が残っている可能性も高い」


「防衛機構?」


「自動兵器の類だ」


リゼたちは顔を見合わせた。


急に“本当に危険な場所へ行く”実感が湧いてくる。


そのときだった。


ゴォッ――と、飛空艇がわずかに揺れた。


リゼは思わず手すりを掴む。


「きゃっ」


警報音が短く鳴る。


研究員たちが一斉に窓の外を見た。


「気流が乱れています!」


「高度を維持しろ!」


船内が少し慌ただしくなる。


ノクトが窓の外を見て目を細めた。


「……なんか来るぞ」


白い雲の向こう。


巨大な影が横切った。


リゼは息を呑む。


次の瞬間。


飛空艇の横を、大きな生き物が通り過ぎた。


鳥より遥かに大きなその姿は、竜を思わせた。


「……竜?」


リゼが呟く。


セレナは冷静だった。


「空域に生息する魔物だ」


竜は一度だけこちらを見下ろすように旋回すると、そのまま空の彼方へ消えていった。


船内に安堵の空気が流れる。


「心臓に悪い……」


ミナが胸を押さえる。


ノクトは妙に楽しそうだった。


「いやー、冒険っぽくなってきたな」


「あなたは少し危機感を持って」


セレナが冷たく言う。


ノクトは肩をすくめた。


そのやり取りに、リゼは思わず笑ってしまう。


怖さはある。


でも、不思議と後悔はしていなかった。


やがて時間が過ぎ、空の色が少しずつ変わり始める。


夕暮れが近づいていた。


窓の外を赤い光が染めていく。


そのとき。


操縦室の方から、誰かの声が響いた。


「前方に反応!」


船内の空気が変わる。


研究員たちが一斉に動き出した。


セレナが鋭く振り返る。


「確認したのか?」


「はい! 観測記録と一致します!」


リゼたちも思わず窓へ駆け寄った。


雲の切れ間。


その向こうに、巨大な影が浮かんでいた。


崩れかけた白い塔。


空中へ伸びる石の回廊。


淡く青く輝く結晶群。


夕焼けの空に浮かぶその姿は、幻想的で――どこか不気味だった。


リゼは息を呑む。


本の中で何度も想像した景色。


けれど本物は、その何倍も圧倒的だった。


「……あれが」


誰かが小さく呟く。


ルミナ遺跡。


まだ誰も知らない、空の遺跡が。


今、彼女たちの目の前にあった。

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