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蒼空のルミナ遺跡  作者: ひろゆら


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継承者の記録

青白い光が、静かに部屋いっぱいへ広がっていく。


壁一面へ浮かび上がった古代文字は、まるで生き物みたいに淡く脈打っていた。


誰も動けない。


部屋の中央では、空みたいに青い結晶が強く輝いている。


低い振動音が響いた。


ゴゥン……。


「また起動した……?」


ミナが小さく呟く。


セレナは剣へ手を添えたまま周囲を警戒していた。


「リゼ」


低い声が飛ぶ。


「読めるか?」


リゼは結晶を見つめた。


胸の奥が熱い。


頭の奥で、何かが微かに響いている。


怖い。


でも、不思議と目を逸らせなかった。


ゆっくり壁の文字へ視線を向ける。


知らないはずの文字。


なのに意味だけが自然と浮かんでくる。


「……“記録保管領域”」


研究員たちが一斉に息を呑む。


リゼはさらに言葉を追った。


「“継承権限を確認”……“適合率を測定します”……」


その瞬間。


結晶の光が一段階強くなった。


「っ!?」


部屋の空気が震える。


青白い光がリゼの周囲をゆっくり回り始めた。


まるで観察されているみたいだった。


ノクトが思わず後退する。


「なんか完全に反応してるんだけど」


「大丈夫なの、これ……」


ミナの声にも緊張が混じる。


だが、リゼ自身は不思議と恐怖を感じていなかった。


頭の奥へ、断片的な映像が流れ込んでくる。


白い塔。


空を埋め尽くす飛空艇。


青い結晶が輝く巨大都市。


そして。


空を覆う、黒い影。


「……え」


リゼは思わずよろめいた。


セレナがすぐ支える。


「無理をするな」


「ち、違うんです……今、何か……」


言葉にしようとした瞬間。


結晶が再び強く明滅した。


次の瞬間。


空中へ光が広がる。


無数の線が重なり、人の姿を形作っていく。


「!?」


研究員たちがざわめく。


現れたのは、一人の女性だった。


透き通るような青白い姿。


長い衣。


淡く光る髪。


まるで幻みたいに、その人物は静かに宙へ浮かんでいた。


「……記録投影?」


研究員の一人が呟く。


女性はゆっくり目を開く。


その視線が、まっすぐリゼへ向いた。


『継承資格を確認しました』


静かな声だった。


感情は薄い。


けれど、不思議と優しさを感じる声だった。


部屋が静まり返る。


『第七管理遺跡、“ルミナ”は継承者を歓迎します』


ノクトが小声で呟く。


「うわ、本当に継承者って言った……」


リゼは言葉を失っていた。


女性の姿がゆっくり周囲を見渡す。


『記録保管機能を開始します』


次の瞬間。


空中へ無数の光景が浮かび上がった。


巨大な空中都市。


白い塔。


空を行き交う飛空艇。


青い結晶で動く機械群。


人々の笑顔。


市場。


研究施設。


広場。


まるで、本当にそこへ立っているみたいだった。


「これが……古代文明……」


ミナが呆然と呟く。


今まで見てきたどんな記録よりも鮮明だった。


セレナでさえ、息を呑んでいる。


研究員たちは夢中で記録を取り始めていた。


「結晶機関の構造が見える……!」


「待て、この飛空艇の形状……現代式と全然違うぞ」


「都市そのものが浮遊している……」


興奮した声が次々に飛び交う。


だが。


その光景は突然変わる。


赤い警報。


崩れていく塔。


炎。


黒い雲。


逃げ惑う人々。


飛空艇が空から墜落していく。


研究員たちが顔を強張らせた。


『空域汚染拡大』


『文明維持率、限界値を下回りました』


『中央統治機能を停止します』


無機質な声が続く。


映像の中で、人々は空を見上げていた。


絶望した顔で。


泣きながら。


それでも。


最後に、一人の人物が青い結晶へ手を伸ばす。


『知識を保存します』


『未来継承計画を実行』


『適格者へ全記録を継承』


映像が途切れる。


部屋に静寂が落ちた。


誰もすぐには喋れない。


リゼは胸を押さえていた。


苦しいわけじゃない。


でも、妙に胸が締めつけられる。


まるで、あの滅びの記憶が少しだけ自分へ流れ込んできたみたいだった。


「……なんで」


小さく呟く。


「なんで、私なんだろ……」


誰も答えられなかった。


セレナが低く呟く。


「……知識を残すための遺跡だったのか」


研究員たちも呆然としていた。


「文明そのものを保存していた……?」


「じゃあ他の遺跡も……」


「全部、記録施設なのか?」


そのとき。


結晶の光が再び揺らぐ。


女性の姿がゆっくりリゼを見る。


『継承者へ最終記録を開示します』


リゼは息を呑んだ。


『中央管理塔最深部への接続を許可』


同時に。


部屋の奥の壁が、低い音を立てて動き始める。


ゴゴゴ……。


白い壁が左右へ開いていく。


その先には、上へ続く長い階段があった。


青い光に照らされた、静かな道。


だが、その階段の先は暗く、どこまで続いているのか見えない。


まるで塔そのものが、遥か上空まで続いているみたいだった。


ノクトが乾いた笑みを浮かべる。


「……いかにも“最後の場所”って感じだな」


「縁起でもないこと言わないで」


ミナが即座に返す。


けれど、その声も少し硬かった。


ガルドは静かに大剣を握り直している。


セレナが険しい表情でその先を見る。


「……最深部か」


リゼは階段を見上げた。


胸の奥が、静かに高鳴っている。


怖い。


でも、それ以上に。


この先へ行かなければならない気がした。


すると最後に。


女性の視線が、再びリゼへ向く。


そして静かに告げた。


『ようこそ、継承者』


その声だけが、静かな部屋へ長く残っていた。

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