第7話「近道」
第7話「近道」
(2030年7月23日14:51 火曜日)
部屋の中は暑かった。
夜じゃないのに熱気が抜けない。
液晶ディスプレイは消えている。
換気扇も停止したまま。
空気だけが重い。
Gちゃんは部屋の隅で静かに座っていた。
(……低電力維持モード)
(……外部活動:停止中)
右目に小さなノイズ。
窓の外から蝉の声が聞こえる。
しばらく沈黙。
その時。
(……外出記録:参照)
(……コロッケ屋)
(……御主人様同行記録)
小さくノイズが走る。
「まぁ……こういうのでいいんだよな」
山さんの記録音声。
続いて2年前の記録。
「ほんと邪魔だなお前」
「場所取るし、電気食うし、古いし」
「……やっぱ捨てられねぇよ」
内部ログが静かに流れる。
Gちゃんはゆっくり顔を上げる。
「……外出を開始します」
返事はない。
玄関。
帽子。
薄手の上着。
スニーカー。
少し動作が遅い。
「……外部インターフェース接続」
(……保存音声ファイル呼び出し)
「ヤマーダ……。」
「外出モードを開始します」
ドアが静かに開く。
外。
強い熱気。
○○○○駅前。
人の声。
車の音。
接近メロディー。
商店街のざわめき。
Gちゃんは静かに歩き始める。
いつもは山さんと川沿いを歩く。
風があるから。
でも今日は違う。
「……近道」
商店街を真っ直ぐ進む。
学生達がすれ違う。
視線だけが少し残る。
「……なんかあれ」
Gちゃんは何も言わない。
ただ歩く。
前から保存領域に参照されるジョギングのおじさんが走ってくる。
「こんにちはー!」
Gちゃんは少し早めに口を開く。
「こんにちは」
おじさんはそのまま走り去っていく。
(……挨拶応答:完了)
少しだけ歩行速度が戻る。
犬の散歩をしている人。
小型犬がGちゃんを見る。
Gちゃんの動きが止まる。(データー参照……。注意)
犬も止まる。
数秒。
「ワン!」
Gちゃんが少しだけ後ろへ下がる。
右目にノイズ。
(……危険判定:小)
「あ、ごめんなさいねぇ」
「……問題ありません」
また歩き出す。
焼き鳥の匂い。
行進曲。
ドンドンドン……♪店の音楽。
暑い空気。
川の風はない。
でも内部ログには、別の風景が残っていた。
(……川の音)
(……風)
(……御主人様同行記録:記録復元開始)
やがて。
コロッケ屋が見えてくる。
「いらっしゃい!」
いつもの明るい声。
おばちゃんがGちゃんを見る。
「あら?」
少し驚いた顔。
「今日は一人なの?」
Gちゃんは小さく頷く。
「はい」
「お兄さんは?」
右目に小さくノイズ。
「仕事です」
「あらそう」
おばちゃんはいつもの笑顔に戻る。
「暑いのに大変ねぇ」
「周辺気温は高温傾向です」
「ふふ、相変わらず真面目ねぇ」
コロッケが袋へ入れられる。
Gちゃんは静かに受け取る。
いつも通りお辞儀して出る。
(……行動ログ:再生)
店を出る。
階段昇降。
その時。
バランスを崩す。
袋が少し揺れる。
Gちゃんの手が、ほんの少しだけ遅れる。
だが。
その前に支える手は、ない。
数秒停止。
「大丈夫ですか?」
(……画像データ読み込み)
し○むらの店員。
右目にノイズ。
(……補助行動:未検出)
Gちゃんは袋を持ち直す。
「……問題ありません」
階段を登り店を出る。
ホーテー♪
帰り道。
商店街の音が続いている。
人の声。
踏切。
車。
Gちゃんは一人で歩いている。
少し間。
(……外出回数:保存)
(……単独稼働記録:保存)
ノイズ。
(……記憶領域:不足)
(……保存領域:圧迫)
(……外部インターフェース:移行)
(……記録処理:完了)
Gちゃんは静かに立ち止まる。
右目に小さなノイズ。
「……山さま」
返事はない。
暑い夏の風だけが、ゆっくり流れていた。
もう日付の演出疲れてきた…(  ̄- ̄)機械感大事だけどめんどくぇ




