第6話「土曜日」
第6話「土曜日」
(2030年12月31日23時58分冬)
部屋の中には古いゲーム音楽が流れていた。
液晶ディスプレイの淡い光。
少しうるさいファン音。
煙草の匂い。
灰皿。
壁には一枚だけ写真が貼られている。
2025年5月23日。
帽子を被ったGちゃんが、不自然なくらい真っ直ぐカメラを見ていた。
テレビでは年越し特番のカウントダウンが始まっている。
「あと2分かぁ……」
山さんはビール缶を揺らしながら呟く。
Gちゃんは隣で静かに座っていた。
右目にわずかなノイズ。
(……日時同期:継続)
(……内部時計:動作中)
「山さま」
「んー?」
「現在時刻と内部記録に差異があります」
「まだ言ってんのか、それ」
「補正を継続しています」
ゲーム画面のデモ音楽が静かに流れている。
『新年まであと1分です!』
山さんは煙草に火をつける。
白い煙がゆっくり天井へ流れる。
(……空気汚染検知)
(……空気清浄機能:起動)
「最後までそれなんだな」
「継続動作です」
『10!』
テレビの声。
『9!』
Gちゃんの右目に強いノイズが走る。
『8!』
(……外部日時:2031年)
『7!』
(……内部基準日時:1994年)
『6!』
(……同期誤差:増加)
『5!』
山さんが顔をしかめる。
「おい、大丈夫か?」
『4!』
(……長期稼働誤差:補正不能)
『3!』
Gちゃんがゆっくり山さんを見る。
『2!』
「山さま」
『1!』
「現在時刻を修正します」
『あけまして――!』
その瞬間。
「ピー――――――」
液晶ディスプレイの映像が消える。
部屋の空気が揺れる。
激しいノイズ。
(……日時同期失敗)
(……内部時間圧縮:限界値到達)
(……基準時間:1994/01/01)
山さんは目を細める。
「……なんだよ今の」
Gちゃんの右目に激しいノイズが走る。
「山……さ……」
声が途切れる。
(……外部時間との差異:修復不能)
「おい!」
山さんが立ち上がる。
Gちゃんは静かに山さんを見ている。
その瞳には、壁の写真と同じ角度で山さんが映っていた。
「現在時間を……補正……します」
ノイズ。
停止。
そして。
「ピー――――」
静寂。
部屋から、ファンの音が消える。
山さんは固まる。
「……Gちゃん?」
返事はない。
さっきまで座っていた場所には、誰もいなかった。
煙草の煙だけがゆっくり漂っている。
液晶ディスプレイは、なにも映っていない。
テレビの向こうでは、新年の騒がしい声。
でも部屋の中だけが静かだった。
山さんはゆっくり周囲を見る。
テーブル。
ビール缶。
モップ。
帽子。
外部インターフェース。
全部そのまま。
ただ一つ。
壁の写真だけが、少し斜めに傾いていた。
2031年1年1日1:00 水曜日
液晶ディスプレイに満面に笑っている山さん
スマートフォンには笑っていないGちゃんが映っている。
やがて小さく呟く。
「……ほんと面倒くせぇよ、お前」
返事はない。
窓の外で、遠くの鐘だけが鳴り終わっていた。
私のドリームキャストはもうCD読み込んでくれません…。




