第5話「カウントダウン」
第5話「カウントダウン」
20d-月d-日@w:00 aようび
外は年末の空気なのに、部屋の中はいつもと変わらなかった。
「さみぃ……」
山さんは布団に入りながら煙草に火をつける。
白い煙がゆっくり天井へ流れる。
「ピー……ガガガガガ……」
(……システム維持起動)
(……環境同期完了)
Gちゃんが静かに目を開く。
「YAMAさまおはようございます」
「起床プロセスは……。正常です」
内部ファンが回転を始める。
(……空気汚染検知)
(……空気清浄機能:起動)
「室内空気状態を改善します」
「年末でもそれだな、お前」
少し間。
「ソリティアを起動しますか?」
「大晦日にやらねぇよ」
「マインスイーパーも利用可能です」
「もっと年末っぽい機能ないのか?」
「一太郎で年賀状の作成はいかがでしょうか?」
山さんは飲んでいたビールを溢す。
「なんでそこだけ真面目なんだよ……」
テレビでは年末特番が流れている。
芸人。
歌番組。
騒がしい笑い声。
山さんはしばらく見ていたが、やがて飽きたようにリモコンを置く。
「……つまんねぇな」
部屋の隅から古い外付けCD-ROMドライブを引っ張り出す。
(……外部接続:切断)
(……外部デバイス検出)
(……外付けCD-ROM認識)
(……接続完了)
「外部ドライブ接続を確認しました」
「年末はやっぱ恋唄だろ」
古いPCがゆっくり起動する。
読み込み音。
少しうるさい回転音。
そして懐かしいゲーム画面。
「まだ動くんだなぁ、これ」
「稼働時間は正常範囲です」
部屋の中に、音が不規則なファンとゲームの音が静かに混ざる。
その時。
Gちゃんが突然立ち上がる。
「ん?」
手にはモップと帽子。
「何してんだ、お前」
「2048日前、山さまはスマートフォンで撮影を行っています」
「……は?」
「“好きだ”“可愛い”の発言を確認しています」
「現在も撮影可能です」
山さんは深くため息を吐く。
「なんでそういうの覚えてんだよ……」
(……記録領域:不足)
(……未保存)
テレビでは年越しのカウントダウンが始まりかけている。
山さんはぼんやり画面を見ながら呟く。
「明日、会社の奴に勤務代わってくれって言われたんだよなぁ……」
煙草の煙がゆっくり揺れる。
「……明日って何曜日だ?」
少し沈黙。
「明日は土曜日です」
山さんの動きが止まる。
「……は?」
スマートフォンを確認する。
「水曜だろ……」
「現在日時を再確認します」
数秒の停止。
「……確認完了」
「明日は土曜日です」
山さんは顔をしかめる。
「今日は何曜日だ?」
Gちゃんはすぐ答える。
「本日は火曜日です」
山さんは考えて答えた。
「2000年問題みたいなもんか?」
「近似しています」
「お前ほんと面倒な仕様してんなぁ……」
ゲーム画面の光だけが部屋を照らしている。
数分後。
Gちゃんが静かに山さんを見る。
「山さま」
「んー?」
「本日、私の停止中に胸部接触回数が増加しています」
山さんの動きが止まる。
「……言うな」
「接触回数:2048回です」
「だから言うなって!」
(……御主人様、慌てています)
山さんは煙草をくわえ直しながら小さく笑う。
「なんでそういうの保存してんだよ……」
(……記録領域:不足)
(……未保存)
「……。重要行動として分類されています」
少し間。
テレビの向こうで、誰かが笑っている。
山さんはぼんやり呟く。
「……もう今年も終わりかぁ」
Gちゃんは隣で静かに座っている。
右目に、わずかなノイズが走る。
Gちゃんの瞳には山さんの姿が映り出していた。
私のセガサターンもそろそろカウントダウンです。




