第2話「維持」
第2話「維持」
(7月夏)
夜になっても、部屋の熱気は全然抜けない。
「……あっつ」
山さんはシャツをぱたぱたさせながら煙草に火をつける。
白い煙がゆっくり天井へ溜まっていく。
「ピー……ガガガガガ……」
(……システム維持起動)
(……環境同期完了)
Gちゃんが静かに起動する。
「山さまおはようございます」
「起床プロセスは正常です」
右目に小さくノイズが走る。
頭部インターフェースが淡く点滅する。
その瞬間。
内部ファンが静かに回転を始める。
(……空気汚染検知)
(……空気清浄機能:起動)
「室内空気状態を改善します」
山さんは汗を拭きながら顔をしかめた。
「だから涼しくなんねぇんだよ、それ」
「空調機能は搭載されていません」
「空気清浄機能のみ実装されています」
「中途半端だなぁ……」
少し間。
Gちゃんが静かに続ける。
「山さまソリティアを起動しますか?」
「やらねぇ」
「山さまマインスイーパーも利用可能です」
「もう飽きたって、それ」
Gちゃんは一瞬停止する。
(……娯楽利用頻度:低下)
(……会話ログ保存)
山さんは床へ寝転がる。
狭い部屋。
多すぎる物。
抜けない熱気。
「ほんと邪魔だなお前」
「申し訳ありません」
「いや謝んな」
山さんは煙草をくわえたまま天井を見る。
「捨てるにも金かかるしなぁ……」
静かな間。
Gちゃんはその言葉を保存する。
(……廃棄関連発言:保存)
「場所取るし、電気食うし、古いし」
「はい」
「ゲームも動かねぇし」
「内蔵CD-R/RWドライブに不具合があります」
「現在、外部接続を推奨します」
「お前どんどん壊れてくな」
「経年劣化の可能性があります」
山さんは小さく舌打ちする。
「ほんと面倒くせぇ……」
でも、その声はどこか弱い。
Gちゃんは静かに保存する。
(……御主人様発話記録:保存)
山さんはもう布団でゴロゴロしている。
「もう寝るぞ」
「了解しました」
数分後。
山さんは、何気なくGちゃんの胸元へ手を伸ばす。
一瞬。
「ピー――――」
Gちゃんが完全停止する。
(……高負荷接触検知)
(……安全プロトコル作動)
(……演算停止:300秒)
山さんは固まる。
静かな部屋。
そして、小さく笑う。
「……やっぱ捨てられねぇよ」
返事はない。
Gちゃんはまだ停止したままだ。
五分後。
(……システム復帰)
(……御主人様接触回数:598回)
(……御主人様、また触っています)
Gちゃんの目がゆっくり開く。
「……復帰しました」
「何か問題が発生しましたか?」
山さんは何も答えない。
暑い部屋の空気だけが、静かに残っていた。
一太郎も入れれば良かったと思った。




