第9話「起動」
第9話「起動」
2025年5月9日19:00金曜日
狭い部屋。
古い換気扇。
煙草の匂い。
積まれたゲーム機。
雑然とした部屋。
山さんは床へ座り込み、 拾ってきた少女型のガラクタを見ている。
「……ほんとなんなんだこれ」
右目には小さなノイズ。
頭部には『G』と書かれた白いインターフェース。
山さんは少し迷う。
数秒。
そして。
唇へ触れる。
柔らかい。
人間みたいな感触。
山さんが顔をゆるめる。
にゅる……にゅぷっ
少しだけ照れたように手を離す。
「いや確認だからな……」
沈黙。
頭部インターフェースへ視線を向ける。
古い文字列。
設定画面。
所有者登録。
呼称設定。
「……ご主人様?」
山さんが吹き出しかける。
「マジでっ……!」
少し悩む。
でも。
なんとなく。
「まぁいいか」
カチ。
(……所有者登録:開始)
(……識別名:山)
(……登録完了)
その瞬間。
「ピー……ガガガガガ……」
山さんが飛び上がる。
「うおっ!?」
少女型アンドロイドの右目にノイズ。
(……システム維持起動)
(……環境同期完了)
ゆっくり目が開く。
山さんは固まっている。
身なりを整える。
「……マジかよ」
アンドロイドの視線が動く。
山さんを見る。
(……対象:山)
(……優先権限:認証)
数秒。
「御主人様おはようございます」
山さんの動きが止まる。
「……は?」
「起床プロセスは正常です」
沈黙。
換気扇だけが回っている。
山さんは顔をしかめる。
でも少し赤い。
「いやいやいや……」
右目にノイズ。
(……接触記録:確認)
「御主人様、先程接触回数を記録しました」
山さんが固まる。
「……なに?」
「接触回数:1回です」
沈黙。
山さんは勢いよく顔を逸らす。
「言うなよそういうの!」
(……御主人様音量:上昇)
(……発言記録:保存)
「保存すんな!」
アンドロイドは静かに山さんを見ている。
煙草の煙が流れる。
その瞬間。
(……空気汚染検知)
内部ファンが静かに回転する。
「室内空気状態を改善します」
山さんの動きが止まる。
「……空気清浄機ついてんのかお前」
「空気清浄機能、実装されています」
「そこだけ無駄に便利だな……」
少し間。
山さんは疲れたように座り直す。
机の上には缶ビール。
コンビニ弁当。
古いキーボード。
「……で、お前何できんの?」
数秒停止。
「ソリティアを起動しますか?」
山さんが吹き出す。
「は?」
「マインスイーパーも利用可能です」
「古っ!」
「メール送信機能も搭載しています」
「電話線ねぇよこの部屋!」
(……通信設備:未検出)
「確認しました」
山さんは笑いながら頭を抱える。
「なんなんだよお前……」
数秒。
山さんは頭部の『G』を見る。インターフェース。
ノイズの走る右目。
変なガラクタ。
でも。
もうただの物には見えなかった。
「……Gか」
アンドロイドが静かに反応する。
「識別名を確認しました」
山さんは少し笑う。
「Gちゃんでいいや」
数秒停止。
(……識別名称:更新)
(……Gちゃん)
「登録しました」
今日から私は"Gちゃん"になった。
見せて貰おうか鍵っ子の妄想の性能とやらを
「うまく書けませぇん!」
「坊やだからさ」




