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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第8話 初めての魔界

 裏山での修行を始め1ヶ月が経った頃。糸成は岩場で、雷蔵に言われた“刀芯を感じろ”と言う言葉に引っ掛かっていた。


「刀芯なんて、どうやって感じろっていうだよぉ」


 転がる小石を蹴りながら、ぶつぶつ言っていたとき、糸成が何かに気付く。


「ん? 待てよ? 感じろ? そういえばあのとき・・・・」


 糸成は、初めて1人で聖気操作を行った日のことを思い出した。


「あのとき、僕は身体全体で自然を感じた。じゃあ刀を、聖気を纏わせる“もの”ではなく、“身体の一部”にすれば・・・・」


 再び、糸成は居合の構えをとる。目を閉じ、深呼吸で息を整えると、糸成は脱力し感覚を研ぎ澄ませる。


「・・・・わかる。刀の輪郭、そしてこれが・・・・刀芯!」


 糸成の大量の聖気が、肉体強化のように刀の内側だけに圧縮された。糸成は一切の力み無く、刀を振り抜く。すると、直径2メートルはあろう岩がバターのように滑らかに切れた。


「よっしゃぁー!」


 糸成は雄叫びを上げ、両手でガッツポーズをする。この日、糸成は奇術の核心へ一歩近づいた。



 糸成、真矢、界斗の3名が共に訓練をするようになって2ヶ月が経った頃。

 3人へ任務が与えられた。任務内容は、門の『守護結界(しゅごけっかい)』構築の間、魔界にて門近辺への魔獣の接近を阻止することである。

 門は本来、聖界と魔界を自由に行き来することが可能である。つまり、常時開門された門は魔獣も通れてしまう。その為、『守護結界』を構築することで、任意での門の開閉を可能としている。結界は年々劣化する。よって、今回の任務のように定期的に結界の張替えを行う。


 鹿児島県霧島市、霧島神宮。


「僕、魔界初めてなんだ。なんか緊張する。2人は、何回か行ってるんだよね?」


 糸成が不安と緊張でそわそわしながら、2人へ尋ねる。


「あぁ、俺達は十回以上、今回のような任務に出てる。そんな心配すんなよ。落ち着いて対処すりゃあ、魔獣なんてただの獣だぜ?」


 現代忍び装束に革ブーツ、フード付きレザーコートに革ベルトを腰に巻いた戦闘服の界斗は、糸成の肩を叩きながら緊張をほぐそうとした。しかし、真矢は違った。


「初めて魔獣と戦闘した下級術師の生存率は、約7割って言われているわ。さて、あんたは今回生きて帰れるかしら?」


「おい真矢!」


 注意する界斗を無視し、真矢は足早に神宮内の集合場所へ向かってしまった。現代忍び装束に、お気に入りのシングルレザージャケットを着た戦闘服の真矢の背中は、自信で満ちていた。心配する糸成に、界斗が世間話で話を逸らしながら集合場所へと向かう。


 真矢には、7つ上の姉がいた。美しく、そして強かった姉は若くして上級術師となった。そんな良くできた姉に、真矢は一族の中で比べられ、幼い頃から出来損ない、出涸らしとまで言われ続ける。姉は、そんな真矢のことを気に掛けてくれていた。しかし、比べられる対象から受ける優しさが、真矢には辛かった。強くなければ、自分の存在すら認めてもらえない。優しくして貰えない。自分を認めない一族を、姉を超えることで認めさせる。幼かった真矢にとって、強さだけが正義となった。そんなとき、真矢の噂を聴きつけた雷蔵が、射場家の真矢への冷遇を見かねて弟子に取る。師である雷蔵と、同じ弟子で兄妹の様に共に育った界斗だけが、優しく接してくれた。その為、真矢は最近まで奇術の存在すら知らず、のうのうと生きてきた糸成のことが気に食わなかった。


 集合場所には、斎服を着た30代くらいの体格が良い男と、線の細い男が立っていた。体格が良い男が自己紹介を始める。


「初めまして。3人共、ようこそ霧島へ。私は高橋、こっちの細いのは細田。今回、門の結界を構築し直す中級術師だ。よろしくね」


 門の『守護結界』構築は、中級以上の結界術師2名以上で行われる。1人が聖界の御神体、もう1人が魔界の祠へ、それぞれ同時に術式を展開し長時間聖気を流し続けることで、術式を媒体へ馴染ませる。術式の馴染む時間は門の大きさによって異なり、長いものでは数日かけて馴染ませることもある。


「では、行こうか。細田、こっちは任せたよ」


 高橋は御神体に近づき、列の印を組む。


「開門」


 すると、御神体が光の鳥居へと姿を変える。糸成が改めて間近で見る鳥居に見入っていると、高橋を先頭に、真矢と界斗が続々と門を潜って行く。遅れて、糸成も門を潜った。その先には、赤茶色のひび割れ枯れた大地が、地平線の先まで続いていた。


「これが、魔界・・・・」


 糸成が呟いているのを界斗は笑いながら、真矢は蔑むような目で見ていた。


「閉門」


 再び列の印を組み、高橋が唱えると門は祠へと姿を変える。


「それじゃあ始めるから、護衛よろしくね?」


 すると、高橋は『守護結界』術式を展開した。

 きょろきょろと辺りを見渡していた糸成に、界斗が声を掛ける。


「いいか糸成? これから始める結界術の気配に反応して、魔獣がわんさかやって来る。だから俺たちは訓練どおり、お前を前衛、真矢を中衛、俺を後衛として、魔獣から高橋さんを護るんだ。ほら、早速来やがった。黒狼の群れだ」


 界斗が指差す先に、20匹程の魔獣の群れが見えた。


「オッケー!」


 元気よく刀を抜く糸成を、真矢が鼻で笑う。


「大丈夫。あんたなんかに、期待してないから」


刹火(せっか)の矢』


 真矢は黒狼の群れに向かって、同時に4本の矢を放つ。命中した矢は、以前糸成に見せたものよりも高威力で爆発し、群れを殲滅して見せた。

 糸成がチームに加わる迄、真矢と界斗は2人で幾つもの任務をこなしてきた。両名とも中遠距離攻撃主体だった為、敵の早期発見と高火力術式による早期殲滅の短期決戦が主な戦術だった。対奇術師戦も経験していたこともあり、その絶対的な自信から、真矢は糸成のことを認めていない。


「次! 2時方向青鬼(あおおに)3、そっちは糸成に任せる。真矢は9時方向の天狗(てんぐ)6体を頼む。俺は補助に回る!」


 結界術師の界斗は遠距離範囲攻撃、支援役である。その特性から、状況把握と指示出しを得意としており、真矢もその的確な指示に何度も命を救われたことで、界斗を信頼すると共にその実力を認めていた。

 魔獣にも奇術師と同様に、その脅威度によって階級が存在する。下から順に下級、中級、準上級、上級、準特級、特級である。これは魔獣単体での階級であり、群を成せば討伐難易度は上がる。

 そのうち、青鬼は下級魔獣に分類される。1体であれば、下級術師1人でもなんら問題のない相手である。しかし、3体同時の相手は対魔獣戦の経験がない下級術師にとって、少し酷な指示だ。本来であれば。界斗は真矢とは異なり、2ヶ月の訓練で糸成の基礎戦闘能力は、中級術師に匹敵すると考えていた。それを踏まえての指示であった。

 糸成は、指示どおりに青鬼3体の気を引きつける。3メートルはあろう青鬼に糸成は跳び、上段から斬り掛かった。青鬼がガードした両腕を容易く切り落とし、振り下ろした刀ですかさず首を刎ねる。青鬼の紫色の血が飛び散った。


「やったぁ!」


 初めて魔獣を討伐した嬉しさから、空中で一瞬糸成に隙が生まれた。そこへ、残りの2体の青鬼が雄叫びを上げながら、同時に殴り掛かる。回避出来ないと判断した糸成は、刀で受けようと身体を捻る。すると。


断隔(だんかく)


 糸成の目の前に、1枚の術式が浮かび上がった障壁が現れ、青鬼の攻撃を受け止めた。糸成が界斗のほうを見ると、前に突き出した右手の人差し指に嵌めた指輪が、淡く光を放っている。

 界斗の扱う結界術の術式は、指輪に刻まれている。界斗は左右に3つずつ指輪を嵌め、計6つの術式を操る。現在、界斗の『断隔』の射程距離は約50メートル。周囲の警戒をしつつ糸成と真矢との距離を常に把握し、何時でも術式を展開出来る様に立ち回っていた。


「ありがとう界斗!」


 大声で御礼を言うと、糸成は流れるように残りの2体を難なく討伐して見せた。


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