第7話 出会い
蛇殲滅作戦任務から数日後。
「今日は、会わせたい奴らが居るんだ」
雷蔵はそう言うと、糸成を隠れ里の中央にある“千樹桜の丘”へと連れて行く。そこには綺麗な黄緑色の原っぱの丘の頂上に、1本だけ樹齢千年を超える立派な枝垂れ桜の木が力強く根を張っている。糸成は、遠目に木の影に人影が2つあるのが見えた。木の傍まで来ると、身長約170センチで細身のモデル体型。レザージャケットにスリムジーンズで大人びたファッション、長いポニーテールに整った顔立ちの目力が強い女。もう1人は、身長180センチ程の細い身体に、ワックスで髪をナチュラルに整えた色白イケメン。チェーンネックレスやピアス、ブレスレット、両手に6つ指輪を付けたロック系ファッションの男が立っていた。
「遅れてごめんな〜。紹介する! 前にも少し話したけど、お前達の3人目の仲間。大狼糸成だ! 2人とも、仲良くするんだぞぉ〜? そんでもって糸成、目つきが悪いほうが射場真矢。こっちのチャラいのが結野界斗。2人共、糸成と同い年で俺の弟子だ」
いきなりのことに糸成は驚き、少し間が空いたが自己紹介する。
「大狼糸成です。よろしくお願いします!」
糸成が頭を下げると、真矢が不満そうに言った。
「つまり、私らの弟弟子ってことね?」
「そうなるな。糸成は既に最終試験を突破して、下級任務を1件1人でこなしてる。実力は確かだ」
雷蔵の話を聞いて、真矢が腕を組み品定めするように糸成を見る。
「俺のことは界斗でいいぜ! 得意なのは結界術。よろしくな!」
笑顔で元気溌剌に言うと、界斗は右手を差し出してきた。糸成は、それに応えて握手をする。すると、界斗が気付く。
「糸成、オッドアイなんだな! 右目が緋色だ」
界斗は物珍しそうに、糸成の右目を覗き込む。
「そうなんだ。突然変異みたいで・・・・気色悪いでしょ?」
糸成は目を逸らした。しかし。
「そんなことねぇ! カッケェ!」
満面の笑みで親指を立てると、界斗は言った。今まで、オッドアイをコンプレックスだと思っていた糸成は、褒められて照れながらも嬉しそうな表情を見せる。
「ほら、真矢も握手しろよ」
界斗の促しで、糸成は真矢へ手を差し出す。
「よろしくね?」
しかし、真矢は手を出さずそっぽを向く。差し出した手を引っ込めてそのまま頭を掻くと、糸成は苦笑いした。
「そう言えばおじさん、僕以外にも弟子居たんだね。知らなかった」
「あぁ。こいつらは・・・・・・」
雷蔵が答えようとしたのを遮る形で、黙っていた真矢が口を開いた。
「はぁ⁈ あんた先生のこと“おじさん”、なんて呼んでんの? この人がどんな人なのか分かって言ってんの⁈」
真矢の勢いに、糸成は圧倒される。
「い、いや、僕にとっては小っちゃい頃から知ってるおじさんで、奇術の師匠ってだけなんだけど?」
ため息を吐きながら、真矢は強い口調で言い始めた。
「良い? これでもこの人はねぇ、伝説の忍者、服部半蔵の子孫にして服部家20代目当主。そして、国から三種の神器の1つである“草薙神剣”を与えられた、日本でたった4人しかいない特権術師の1人。日本最強の術師なのよ!」
特権術師。通常、奇術師の階級は下から下級、中級、上級である。しかし、各国は上級術師の中でも単独で国の存亡を左右させる程の能力を持つ奇術師に、平時では各省の大臣と同等の発言権、戦場に於いては総理大臣や大統領と同等の権限を与えた。文字どおりの“特権”を与えられた奇術師のことである。
衝撃の事実に、目が飛び出しそうになる糸成は、雷蔵のほうを見た。すると。
「いや〜日本最強は言い過ぎかなぁ〜。っておい! “これでも”って何だよ! “これでも”って!」
雷蔵は照れ笑いしながら後頭部をポリポリ掻いた後、真矢に鋭くツッコミを入れていた。普段からおちゃらけた雷蔵しか見たことのない糸成は、自分の知らない一面を知り、雷蔵を見て目を丸くし口を開けたまま少しの間フリーズする。
顔合わせの帰り道。糸成が、下を向きながら雷蔵に尋ねる。
「僕も、“先生”って呼んだほうがいい?」
少しテンションが低い糸成を、雷蔵は笑った。
「ハッハッハッ! そんなこと気にしてんのか? これまでどおりで良いって!」
そう言って、自分の背中を叩く今までどおりの雷蔵を見て、糸成は安心して小さく頷いた。
翌日から、真矢と界斗、糸成の3人での訓練が始まることとなる。
3人での訓練初日。自分の得意技の話になった。
「僕さぁ、おじさんに渡された刀を何となく使い続けてるんだ。でも、術式とか付いてなくて・・・・。界斗は、結界術師って言ってたよね? 射場さんは、何か得意な技とか術式あるの?」
自分に得意が無いと感じていた糸成が、悩みながら聞いてみる。
「ん? 私? 私の武器はこれよ」
そう言って、真矢は木と竹を使って造られた短弓を持って来ると、岩へ向かって矢を射る。矢が命中すると途端に爆発し、岩は砕け散った。
「す、凄い! あれ術式?」
「えぇ。矢尻に術式を刻印しておくことで、様々な術式効果を得るのよ」
真矢は得意げに話す。
「僕も昔、狩で弓矢使ってたんだよね。弓矢に戻ろうかなぁ」
糸成がそう言うと、食い気味に真矢が大声で拒絶した。
「ふざけないで! ただでさえ要らないのに、チームに2人も弓使いは要らないのよ!」
「ご、ごめん」
糸成は萎縮した。当たりが強い真矢のことが、糸成は少し苦手だった。
その晩、糸成はソファで寛ぎながら漫画を読んでいる雷蔵へ話し掛ける。
「僕さぁ、皆みたいに奇術師っぽい技とか、得意な術式無いんだよねぇ。もっと漫画みたいな技出来ると思ってたのにさぁ〜」
そう嘆くと、雷蔵がフォローした。
「言っとくけどなぁ、糸成は奇術師として充分なものを持ってるぞ?」
「え~?」
疑いの目を向ける糸成に、雷蔵は続けた。
「糸成の聖気量と出力量は、そこら辺の中級術師の比じゃない。その聖気出力で強化した武器なら、鬼の討伐も容易いだろうよ」
「そうかなぁ」
納得しない糸成に、見かねた雷蔵が起き上がる。
「しゃあねぇなぁ。ちょっと外出てみろ」
雷蔵と糸成は刀を持つと木の生い茂る裏山へと入り、暫く山道を進むと岩場に出た。
「良いか糸成。今から、俺の技を1つ教えてやる。よ〜く見とけ」
雷蔵は大岩に対し、居合の構えをとる。
『金剛一閃』
雷蔵は目にも留まらぬ速さで刀を抜き、そのまま水平に大岩を両断して見せる。その神技に、糸成は目を輝かせた。
「うぉー! カッケェ!」
「これは、鞘の中で刀に聖気を可能な限り圧縮し、膨大な聖気を刀に留めたまま切る技だ。今の糸成の聖気量、放出量をこれなら活かせる。まぁ、物は試しだ。やってみな」
糸成が別の大岩の前に立ち、意識を刀へ集中する。手のひらから柄、刀身へ順に聖気を流していく。しかし、中々聖気を圧縮出来ない。
「もっと刀芯を感じろ!」
その助言に、糸成は深く息を吐き呼吸を止め、力み唸り始めた。しかし、聖気は刀に纏ったまま変化がない。
「ん〜! ぷはぁ」
息が苦しくなった糸成は、脱力した。
「これ、めっちゃ難しい」
「まぁ、初日はこんなもんか。練習すれば、いつかは出来るようになるさ。頑張れ」
雷蔵は、手を振りながら家へと戻って行く。糸成はその日から、真矢と界斗の訓練の後、毎晩裏山で修行を続けた。




