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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第6話 初任務

 最終試験を終え、糸成と雷蔵が服部邸へ帰ると。


「糸成に、渡すものがある」


 そう言うと、雷蔵は自室から風呂敷包みを持って来た。


「最終試験の合格祝いだ」


 受け取った糸成は、風呂敷を広げる。中には、取手の縄が赤い年期の入った数本の苦無と、木彫りで白の塗装に、目の輪郭に沿って赤い線の入った狼の仮面が入っていた。


「転哉が愛用していた苦無と、秘密任務のときに被っていた面だ。奇術師は、敵に顔が見られる可能性がある任務では面を被る。糸成が被るなら、あいつも喜ぶだろう」


 雷蔵が、優しい目で懐かしむように言う。


「これが・・・・父さんの・・・・。ありがとう」


 糸成は御礼を言うと、苦無を大切に握り締め、仮面を優しく抱きしめる。雷蔵が糸成の頭に手を置き、真面目な雰囲気から一転して、フランクに言った。


「これで糸成も下級術師、国家公認の奇術師の仲間入りだ。おめでとう!」


 雷蔵が満面の笑顔を見せ、自身の頭の上で大袈裟に拍手する。


「ありがとう」


 糸成は笑顔で応える。しかし、直ぐに眉を寄せた。


「ん? 下級術師って何?」


 疑問の表情を浮かべた糸成に、雷蔵が答える。


「あれ? 教えてなかったっけ? 国家公認の奇術師には、主に3つの階級がある。ひよっこの下級術師。一人前の中級術師。そして、ベテランの上級術師。上級術師以上が、奇術師育成の資格を持っているんだ。例外として上級のさらに上、特権術師ってのもあるが、まぁ取り敢えず糸成には中級術師を目指してもらう。今日から糸成は、日本国奇術省所属となる。つまり、機密の国家公務員ってこった。そんな糸成に、初任務だ」


 納得した糸成は背筋を伸ばし、聴き入る。


「非術師のテロリスト集団、集団名“蛇”の壊滅。任務難易度は下級」


「テロリスト集団・・・・」


 糸成は気が引き締まる。


「奴らは近日中、東京で大規模テロを計画している。今回の任務は、蛇の殲滅(せんめつ)をもって、テロの事前阻止だ。何か質問は?」


 糸成が、勢い良く手を挙げた。


「はい! それって、警察の仕事じゃないの?」


 腕を組んだ雷蔵は、糸成の問いに答える。


「警察は、基本的に事件発生後にしか動けない。こういった危険分子の排除は、俺達表社会に出ない奇術師の役目だ」


「分かった!」


 糸成の気合いが入った返事に、雷蔵は安心していた。


「じゃあ、任務の詳細は椿に聞いてくれ。俺も、今から任務に出る」


 そう言うと、雷蔵は自身も足早に任務へ出る。

 テロリスト集団蛇殲滅作戦の任務詳細。蛇は現在、東京都港区コンテナターミナルの倉庫の一画に潜伏しており、総数は約20名。殲滅後の処理は、国がしてくれるとのこと。しかし、目撃者が生まれる可能性がある大規模破壊術式の使用は禁止。その為、テロリストの各個撃破が今回の任務である。


 東京都港区、コンテナターミナルの倉庫、蛇潜伏区画。19時。大狼糸成、望月(もちづき)椿、両名現着。

 糸成は、少し離れた山積みのコンテナの上から、蛇の潜伏先倉庫を見下ろす。糸成の任務着は、伸縮素材のインナーの上に胴体を覆う鎖帷子(くさりかたびら)。その上に黒を基調にした身体のラインに沿った緩みのない現代忍び装束に、狩の際に好んで着ていた迷彩柄の半袖パーカー。


「見張りは表に2人、裏口に1人。屋上にも何人か居るなぁ。皆、銃を持ってる。あとは中か。・・・・それじゃあ椿さん、お願いします」


「かしこまりました」


 今回の下級任務は本来、糸成単独で行う任務である。しかし、糸成が結界術『隠』の術式を使えないことや、初任務で“見届け人”が必要として、雷蔵が望月上級術師の同行を指示した。後者に関しては、単に雷蔵の過保護である。

 椿がコンテナの上で、足元に描いた術式に聖気を流す。すると、術式を起点に、半球状で半透明のカーテンのような結界が倉庫を覆う。


「凄い。これが結界術」


「これで結界内の音や光は、外へは漏れません。御武運を」


 結界術に見惚れていた糸成は、椿の言葉で自分の仕事を思い出す。


「行って来ます」


 椿へ敬礼した糸成は、父の形見の仮面を被り、肉体強化を行い倉庫の屋上へ飛び乗る。屋上には、監視が3人いた。糸成はそれぞれ背後から忍び寄り、左手でテロリストの口を押さえ、右手で持った苦無で首を掻き切って行く。狩で幼い頃から気配を断ち、約1年忍術を学んだ糸成に、テロリスト達は抵抗する間もなく、気付いたときには殺されていた。屋上の見張りを全て殺害すると糸成は立ち止まり、蛇の構成員の骸を見下ろす。殺したのは、人に害をなすテロリスト。最終試験を乗り越えると共に理解はしていても、糸成にはまだ殺人に抵抗があった。それでも、国民の為に、自分のような悲しい思いをする人を減らす為に、誰かが手を汚さなければならない。糸成は、心を鬼にする。肉食獣の狩と同様。殺らなければ殺られる。“狩”をせず、平凡な生活を送る選択肢もあった。だが、奇術師という道を自ら選んだ。糸成の中で1つの甘えた感情が消え、目には覚悟の火が灯る。


「よし、次は出入り口だ」


 屋上の見張りに続き、糸成は手際良く出入り口の見張りも音も無く排除する。残るは、倉庫内にいるだけとなった。糸成は屋上入り口から侵入し、慎重に倉庫内の様子を伺う。目視出来たのは15人。


「銃で撃たれるの、嫌なんだよなぁ」


 小声で呟くと、糸成はブレーカーを探した。


「あった」


 ブレーカーを見つけた糸成は、レバーに手を掛けると目を瞑る。1分程経ったところで、ブレーカーのレバーを引いた。途端に、全ての照明が落ちる。それと同時に、糸成は目を開けた。事前に目を閉じていた糸成には、テロリスト達のことが鮮明に見える。それに対し、テロリスト達は無警戒状態で突然の暗転。対応が遅れるのは当然だった。そんなテロリスト達を、糸成は闇に乗じて1人ずつ確実に殺していく。


「おいっ! ブレーカー見て来い!」


 テロリスト達が対応し始める。7人ほど倒した頃、明かりは付いた。


「げっ! 意外と早かったなぁ」


 テロリスト達は腰を抜かした。視界が回復して最初に見えたのは、仲間の骸とその横に立つ返り血のついた狼の仮面を被り、血の滴る苦無を持つ糸成の姿だった。


「う、撃て! 撃てぇ!」


 生き残っていたテロリスト達が、マシンガンを連射する。倉庫内には複数の連続した銃声が鳴り響いたが、『隠』の効果で倉庫外へは音が漏れなかった。


「お、おい何であいつまだ立っていられるんだ⁈ 銃が効いてないぞ⁈」


 聖気で肉体強化をした奇術師にとって、マシンガン程度では少しチクチクして鬱陶しい豆鉄砲同然だった。糸成は、苦無から背に斜め掛けした刀に冷静に持ち替え、残りのテロリストを斬り伏せる。テロリスト達の悲鳴も、倉庫の外には一切聞こえない。

 殲滅を終え倉庫から出ると、椿が待っていた。


「お疲れ様でした。初任務の完遂、おめでとう御座います」


 仮面を外し、糸成は照れ笑いしながら返事を返す。


「ありがとうございます」


 その後、糸成は教えられたとおりに国の隠蔽部隊に携帯で連絡を取った。


「はい、こちら大和(やまと)ハウスクリーニングです」


「もしもし。ハウスクリーニングを“特急”でお願いします。“クーポン番号”は372です」


「特急クリーニング、番号372畏まりました。清掃員到着まで、今しばらくお待ちください。それでは、失礼致します」


 電話から10分後、“特急ハウスクリーニング”と書かれたトラックが1台やって来た。荷台からはぞろぞろと大荷物を持った男達が降りて来て、死体の回収や血痕の清掃などを手際良く黙々と始める。


「こうやって、奇術師の存在を隠してるんだぁ」


 国の隠蔽工作を目の当たりにして、日本国民が何故平穏に暮らせているのか、糸成は納得する。運転手の職員と引き継ぎをした糸成達は、服部邸へと帰還したのだった。


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