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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第5話 最終試験

 聖気操作習得から数日、糸成は様々な術式を学んだ。


「今日は、術式について勉強してもらうぞ?」


 雷蔵が、術式について説明を始める。

 術式とは、あらゆる超常現象を人為的に起こす為、奇学によって超常現象を数式、図形化したものである。聖気は体内へ流すと肉体強化、持ち物に流し(まと)わせることで持ち物の強化を行うことができる。しかし、超常現象を発現する為には、術式を物体に描き聖気を流さなければならない。術式は、物体であればありとあらゆるものに描き込める。しかし、術式の発動には媒体に負荷が掛かり、その媒体によって耐久力は異なる。唯の紙であれば使い捨て。刀などの金属であれば連続使用で破損など、それぞれである。また、術式に対する理解度や術式を描き込む媒体への思い入れ、繋がりに応じて奇術の出力や操作性に差が生まれる。


「じゃあ、これに聖気流してみな。使い捨ての術式紙だ」


 雷蔵が、幾何学模様が描かれた紙を糸成へ渡す。


「これが術式かぁ」


 糸成が、紙に描かれた術式を部屋の電気に透かし眺めた後、手のひらに置いた術式紙へと聖気を流す。すると、紙は燃えて塵となり小さな炎が飛び出した。


「これが奇術!」


 糸成は、手のひらに収まるが力強いその小さな赤い炎に、目を輝かせていた。その後も、様々な術式を使い捨ての紙で試していたとき。


「あれ? 発動しない」


 それは、結界術の中でも最も簡単な『(いん)』、“認識阻害”の術式だった。結界術は、奇術の中でも高度な理解力の必要な術である。しかし、これまでに『隠』の術式が発動出来ない奇術師など存在しなかった。


「そんなわけが・・・・まさか・・・・」


 雷蔵は顎に手を当て呟くと、しばらく考え込む。何回か試したが、結局糸成は結界術式の類いを一切使用することが出来なかった。


 この日から、雷蔵は数日かけた任務に出かけるようになる。糸成が服部邸に来て、初めて雷蔵が任務で家を留守にする日。糸成は、服部邸の門に呼び出された。向かうと、服部邸の四脚門で雷蔵と椿が並んでいる。


「今日から数日、家を空ける。その間の糸成の修行は、椿につけて貰うから」


 そう雷蔵が言うと、椿が一礼した。糸成は、声を出して驚く。


「え⁈ 椿さんも奇術師だったの⁈」


「あぁ。椿は、神隠れの里の由緒ある忍者の家系だからな。前にも言っただろ? 忍者も、世に出た奇術師の1つだって。あれ? 言ってなかったっけ? まぁ、そういうわけだから、後は椿に任せる」


「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


 椿の見送りの言葉で、雷蔵は家を後にした。

 雷蔵がいない間の椿の修行は、とてもシンプルであった。術式の理解を深める座学。それと、ひたすら肉体強化を用いた伊賀流古武術による戦闘訓練。修行前、身体のラインの分かる運動着を着た椿に、糸成は目のやりどころに困った。しかし、修行が始まるとそんな余裕は無く、一切言葉を発さず真顔のまま容赦のない修行をつける椿に対し、糸成は悲鳴を上げながら朝から晩まで扱かれた。


 とある日。


「おじさん、最近忙しそうだね。任務?」


 修行の合間に、糸成が尋ねる。


「あぁ。糸成がある程度奇術を習得するまで、任務を停めて貰ってたからな。その分が溜まってたのさ」


 糸成が申し訳なさそうな顔をすると、雷蔵は糸成の頭に手を置いた。


「そんな顔するなぁ。立派な奇術師にしないと、転哉と結衣に合わせる顔がねぇからな!」


 雷蔵は笑いながら、糸成の頭をワシャワシャと激しく撫でる。糸成は、雷蔵の手から父転哉の手を思い出し、目頭が熱くなった。



 奇術を用いた戦闘訓練、術式の理解度を高める座学を始めて半年が経った頃。


「これから、最終試験を行う」


 普段、あまり見せない真面目な顔で雷蔵は言うと、糸成を隠れ里のとある建物へと連れて行く。里内では珍しい、ガラス張りの大きな建物の地下にある部屋へ入ると、全面白塗りの部屋に目隠しと猿轡(さるぐつわ)、両手足を後ろで拘束された白い着物の男が1人、正座させられていた。その只ならぬ雰囲気に、糸成は緊張する。


「おじさん、これはいったい・・・・」


 状況を全く呑み込めていない糸成へ、雷蔵が試験内容を告げる。


「最終試験は、こいつを殺すことだ」


 真面目な雷蔵の言葉と見たことのない冷たい目に、糸成は動揺し冷や汗が吹き出る。これまで糸成は、幾度となく狩で命を刈り取ってきた。しかし、心の優しい糸成は、自分達が生きる為の狩以外で、生き物を殺したことはない。そして、命を刈り取る対象が“人間”になった途端、人は躊躇する。それは、糸成も同じだった。


「安心しろ。こいつは奇術師の死刑囚だ。4人、罪のない一般人を殺してる。こいつのせいで糸成のような思いをした人が、何人もいるんだ」


 冷静に言うと、雷蔵は日本刀を手渡す。糸成の手は手汗で濡れ、震えていた。糸成は、これまで修行で何万と振るってきた刀が、とてつもなく重く、恐ろしいものに感じる。雷蔵は、震える糸成の肩に手をかけた。


「いいか? 奇術師の敵は、魔獣だけじゃない。国の管理から外れた、転哉と結衣を殺したような奇術師。日本を攻撃してくる敵国の奇術師。非術師のテロリストなど。糸成が踏み入ろうとしてる世界は、そんな奴らで溢れ返ってる。そいつらを全員殺さずに済ませられる程、世界は優しくないし、甘くない。日本の平和は、俺達みたいな汚れ役で成り立ってる。無理強いはしない。だが、お前が奇術師になる目的を忘れるな」


 雷蔵の言葉で、糸成は自身の目的を思い出す。何故、奇術師になりたいのか。親の仇を取る。悲しい思いをする人を減らす。糸成は覚悟を決め、刀を抜く。落とした鞘の地面に転がる音が、静かな部屋に響く。刀を持つ震える右手を、左手で押さえながら男の横に立つ。そこへ、雷蔵が男を足で前のめりにさせる。糸成は上段に構え目を閉じ、時間を掛けて乱れた呼吸を整え終えると目を開き、刀を振り下ろした。切り落とされ、転がったことで目隠しが取れた生首と、目が合う。


「うぇぇ」


 糸成の手に残る不快感と、目が合った生首の像が脳裏から消えない。雷蔵が、四つん這いで泣きながら嘔吐する糸成の背中を摩った。


「よくやった。これで、糸成は一人前だ」


 この日糸成は初めて、人を殺した。


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