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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第41話 信念

 界斗が地面に刻印した3つの術式を起点に、地中を通って転凱の足元から光の鎖が飛び出し、転凱の身体に巻き付き拘束する。


「良くやった真矢」


 界斗は殴り飛ばされ瓦礫に埋まったとき、咄嗟に聖気を抑えて死んだフリをした。人間では到底到達出来ない速さに、転凱が獣神化で人間を超越した領域へ至ったと、界斗は考えた。そんな転凱へはとても有効打は当てられないと判断し、高速で動く敵に攻撃を当てるのではなく、動きを封じて確実に仕留める作戦へと変更する。よって、拘束する為の結界術式を隠れながら刻印して回っていた。真矢はそれに気付き、会話で術式構築のための時間稼ぎをしていたのだ。


「今だ! 糸成!」


 界斗と同じく、聖気を抑えて近づいて来ていた糸成が、転凱を拘束したのを見て肉体強化で一気に距離を詰め、右手で背中に触れた。


『緋掌!』


 緋色の閃光が夜空を一瞬照らし、転凱の胸に風穴を開ける。転凱は、喀血した。しかし。


「貴様ら、死んでいなかったのか・・・・鬱陶しいハエどもがぁ‼︎」


 転凱は雄叫びと共に、獣神化で強化された怪力で光の鎖を引き千切る。その膨大な聖気放出量に、糸成達は鳥肌を立て冷や汗を流し、戦慄する。糸成が動けない真矢を即座に抱え、転凱から距離を取った。


『鎌鼬 乱舞(らんぶ)!』


 転凱の身体から、見えない刃が乱れ撃ちされた。見えない殺気を放つ何かが確実に迫ってくるのを、糸成達は研ぎ澄まされた感覚で感じる。しかし、指向性の無い攻撃を躱すのは先程までの戦闘経験で容易だった。だが、そんな攻撃でも糸成達に距離を取らせるには充分であった。糸成達が、刃を避ける為に逸らした目を転凱へ戻す。


「マジか、糸成が心臓ごと身体に穴を空けたってのに、少しずつ再生してやがるぜ?」


「獣神化って死なないの⁈ 無茶苦茶すぎよ!」


 転凱の胸に空いた穴は、穴の縁から少しずつボコボコと再生し、身体を元に戻そうとしていた。しかし、これまでの四肢や身体の欠損の再生速度より、明らかに遅い。真矢を優しく地面に置いた糸成は、再び『緋掌』を放とうと接近した。それを転凱は嫌がり、『鎌鼬』で接近を阻む。界斗はその行動と、先程までの転凱の獣神化をして以降の戦闘を見ていて、あることに気が付いた。


「真矢! 糸成! 転凱が『緋掌』を受けてから、明らかに戦闘スタイルが近距離から遠距離に変わった! 急所の再生は遅く、恐らく動けない! そして、獣神化中は何故だか知らねぇが、『影狼』は使えねぇ! 弱ってる今、トドメを刺す!」


 界斗の見立ては当たっていた。大狼家秘伝術式の『影狼』は、“自身のみ”しか転移させることが出来ない。今の転凱は、獣神化により亜神と身体を1つにしている。よって、獣神化中に『影狼』を発動すれば、亜神を置き去りにして転凱のみが転移してしまい、獣神化が解けてしまう。


「真矢。陽動を頼むよ? 僕が突っ込む!」


 真矢は糸成の背中を見て、頷いた。


「えぇ。やるわよ!」


『氷華の矢』


 真矢は様々な方向へ矢を射った。放たれた幾つのも矢は、其々空中で軌道を変え転凱へと向かう。転凱は『鎌鼬』で矢を叩き落したが、落とし損ねた2本の矢が左腕と右太ももに命中する。体内から咲く氷の花に転凱の左腕は裂けて落ち、右脚は踏ん張れなくなった。しかし、転凱が力を振り絞る。


「どいつもこいつも! 俺達の、夢の邪魔をするなぁ‼︎」


 『鎌鼬』が、転凱へ迫る糸成に向かって放たれる。


「糸成ァ! そのまま行けぇ!」


『断隔!』


 糸成の前に結界が張られた。しかし、転凱の渾身の一撃は結界を破り、糸成の腹部を切り裂く。糸成は親の仇を目の前に痛みを忘れ、臓物を撒き散らしながら進み続ける。


「転凱! 僕達が今日ここで! お前達にトドメを刺す‼︎」


双天(そうてん)緋掌!』


 糸成は、まだ再生途中で胴に空いた穴の両端に其々触れる。緋色の閃光の後、転凱の胴は上下に別れた。別れた胴が、其々音を立て地面に倒れる。倒れた転凱の胸から下の無い上半身の断面は、ボコボコとうねりながら再生しようとしていた。肩で息をしながら、糸成は倒れた転凱を見下ろす。そこへ、界斗が真矢に肩を貸しながら近寄る。糸成が、息を切らしながら聞く。


「最後に、言い残すことはあるか?」


 口角から血を流しながら、転凱は言った。


「何故だ? 何故、俺達の邪魔をする? ・・・・何故お前達は、のうのうと生きる非術師の為に命を捨てられる?」


 転凱の問いに、糸成が自身の信念を語る。


「僕は、米も野菜も作れない。家畜を育てることも、携帯を作ることも、家庭に電気を届けることも、国を運営することも出来ない。僕は、沢山の人の助けで生きていられる。人は、自分に出来ないことを他人にしてもらって生きられる。皆で支え助け合うから、人は人でいられるんだ。1人1人が大切な社会の歯車で、そこに奇術師も非術師もないんだよ。助けてくれる皆への恩返しの仕方が、偶々奇術師として生きることだった。だから、僕は命を懸ける。僕に出来るやり方で必死に生きて、社会の輪に入る。」


 糸成の強くも温かい穢れのない目を見て、転凱は鼻で笑う。


「フンッ。大層な綺麗事だな。お前はまだ、地獄を知らない。それに、俺達を殺しても意味はない。国が術師の功績を隠し続ける限り、アンノウンは生まれ続ける。お前達にも、国に憤慨し今の世界の体制に疑問を抱くときが訪れるだろう。そのとき、お前達はどんな選択を取るかな?」


 仲間を想う気持ちが強すぎた者の成れの果て。糸成は、死んだ仲間を想い奇術師の道を外れた転凱へ、憐れみの目を向ける。


「僕達は、お前達のようにはならない。誰かが道を逸れても、皆で連れ戻す。僕の両親が非術師を守ってきた様に、そして僕を守ってくれたように。僕達は人知れず非術師を護り、次の世代へとそれを継なぐ。それが僕達、奇術師だ」


 転凱は笑った。


「お前がアンノウンになるのを、あの世で観ててやるよ」


 糸成は膝を着き、転凱の顔を覆う様に触れ『緋掌』を放つ。頭部を失った転凱の身体は、とうとう再生が止まった。両膝を着き、昇り始めた朝日へ向かって糸成は呟く。


「父さん、母さん・・・・終わったよ」

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