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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第40話 アンノウンの思想

 転凱の動きに遅れて反応した界斗の術式展開よりも速く、転凱は界斗の脇腹を殴り吹き飛ばす。


「結界術師は、1番鬱陶しいからなぁ。これで、あと2人」


 界斗は瓦礫の山へ突っ込んだ。


「界斗ォ!」


 叫ぶ真矢のほうを、転凱が向く。


「次は小娘、お前だ」


 真矢を指差し向かおうとした転凱に、糸成が殴り掛かり阻止する。


「真矢! 界斗の回復する時間を稼ごう!」


「そうね!」


 糸成と真矢は、連携して『緋掌』を狙った。急激な移動速度上昇に、界斗は初激の対応が遅れた。しかし、それを上回る『影狼』による高速戦闘を観たことで、糸成達は転凱の動きを捉えていた。そして、少しずつ身体もその速さに付いてくる。糸成と真矢の動きは、決して速くなったわけではない。しかし、極限の高速戦闘が続いたことにより活性化した2人の脳は、転凱の動きを先読みすることで攻撃を当て始めた。だが、攻撃を当てても何かがおかしい。


「糸成、こいつ怪我したそばから再生してるわよ⁈」


「分かってる! 再生出来なくなるまで、当て続けよう!」


 徐々に当たり始めた真矢の矢を、転凱は嫌がった。


「チクチクと鬱陶しい!」


 糸成から転凱が距離を取った。


鎌鼬(かまいたち)!』


 転凱が大きく右腕の鎌を振るうのを見て、咄嗟に回避しようとした真矢の右脚に、見えない刃が当たる。


「真矢!」


 体勢を崩した真矢へ、転凱が間合いを詰めた。転凱が真矢を殴る直前に、糸成が真矢と転凱の間へ投げた苦無へ転移し、転凱の振るう右拳に糸成が渾身の右拳をぶつける。しかし、転凱の圧倒的な威力に力負けした糸成は、瓦礫の山へと吹き飛ばされた。


「糸成ァ!」


 瓦礫に埋もれた糸成を見ながら、転凱が話す。


「残念だったなぁ、小僧。『影狼』は、術式の位置へ望んだ体勢で高速転移出来る便利な術式だ。一見最強の術式だが、世の術式に完璧なんてねぇ。ちゃんと弱点もある。『影狼』は転移前に幾ら加速しようと、身体の“加速度”は転移先ではリセットされる。力は、質量と加速度の掛け算。転移した直後のお前の拳には、“重み”がねぇのさ。・・・・ん? 聖気が消えやがった。・・・・ふん。死んだか。さて、次はお前だ」


 尻もちをついた真矢へ、転凱がゆっくりと近づく。右太ももの骨が見えるまで深かった傷で動けなかった真矢が、尋ねた。


「クッソ。・・・・死ぬ前に、聴いてもいいかしら?」


 転凱は足を止めた。


「同じ国の(よしみ)だ。言ってみろ」


 転凱の鋭い眼差しに真矢は唾を呑み、問う。


「あんた程強い術師が、何故アンノウンなの? 何があなた達を、そこまで突き動かすの?」


 転凱は、己の過去とアンノウンの信念を語り始める。


「昔。俺のいた上級術師の部隊は、魔界の龍門周辺での危険区域任務で特級魔獣に遭遇した。部隊は、俺を伝令役として1人だけ帰還させた。『影狼』で里へ帰った俺は、奇術省へ直談判し増援を率いて魔界へ戻ることとなった。だが、奇術省から派遣されたのは下級術師6人。特級相手にだぞ? 笑っちまうだろ? それでも、行くしかなかった。戦闘現場に着く頃には、上級術師の部隊は全滅していた。俺達は、任務を討伐援護から遺体回収へ変更した。だが、下級術師は危険区域の魔獣から生き残れる程、そして俺もそいつらを守ってやれる程、強くなかった。この顔の傷も、そのとき受けた。」


 転凱は、拳を握り締めた。


「俺は、ノコノコと1人帰って来た。術師の死は一切表に出ない。それは、あいつらも一緒だった。俺の次の任務は、政治家の警護。そこで奴等は言った。“表に出ることのない術師は、便利な使い捨ての駒だ”と。それ以来、俺は戦う理由が分からなくなった。そんなとき、アンノウンの存在を知った。アンノウンは、俺のような奴の集まりだった。術師の仲間を失い続け、非術師に利用され続けた。そんな連中が、死んだ仲間の為に活動する。任務で死を装った俺は、アンノウンで死んだ仲間の怨念を背負う者、“怨狼”と名乗り活動した。仲間の死を無駄にせず、奇術師を世界に認知させ世界の主権を取ることで、死んでいった仲間の存在価値を示す! 仲間の名を後世に! 歴史に! 名を残す! その為なら何でもする! それが俺達の、死んでいった仲間への弔いだ!」


 空を見上げて叫んだ転凱が、目線を下へ落として真矢を指差す。


「お前は、何の為に戦う?」


 転凱が持つ政治家への嫌悪感。社会構造への疑問。どちらも、奇術師である自分にとって他人事ではない。まだ仲間を失ったことがない真矢にとって、味わったことのない絶望と恐怖。それを想像した真矢は、言葉に詰まった。


「私は・・・・自分の為に戦っていたわ。認められる為に、唯ひたすらに。でも、仲間に助けて貰って考えが変わり始めた。任務で仲間が自分を犠牲にして、私達を庇ってくれたとき私も仲間を失う気持ちを、少し知った。その仲間が帰って来て、見捨てた私を赦してくれたときに思ったの。自分のことしか考えてなかった私にも、大切な人が出来た。その仲間の為に、大切な人の為にこの力を奮うと。だから、私は仲間を二度と見捨てないし、仲間が諦めないなら、私も諦めないわ。そうでしょ? 界斗!」


三点結界(さんてんけっかい) 問答鎖牢(もんどうさろう)

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