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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第39話 神の力

 糸成達が転凱と戦闘をしている頃。要塞南の林から要塞内へ一番乗りしていたアメリカチームは、ブレアを先頭にして順調にアンノウンの奇術師を倒していた。その戦場では戦闘音と怒号の中に、少女が楽しく遊ぶ様な笑い声が聴こえる。


「アハハハッ! もっと! もっとよ! もっと私に! 血を見せなさい! アハハハッ!」


 笑う司祭の二つ名どおり、狂った様に笑いながら敵の血を求め、小柄な身体で舞う様に剣を振い、奇術師も非術師も関係無く敵を斬り刻む。そんなブレアの姿に、要塞南部にいたアンノウン構成員達はおろか、他国の連合奇術師も恐怖した。


 一方で。HALO降下で要塞中央に降り立った雷蔵とエペルは、敵首領と思われる右手に錫杖(しゃくじょう)を持ちスキンヘッドで僧侶の服装をした50代の男と、水色を基調とした中華風の衣装を着た20代後半の女。2人の特権クラス奇術師と対峙していた。


「ゴミにしては、研ぎ澄まされた聖気ですね?」


「油断するなよ? エペル」


 雷蔵とエペルが戦闘態勢を取ると、女の奇術師が雷蔵達の足元に爆発を起こした。すると、アンノウンの特権術師は揃って南東へ向かって走り始める。雷蔵とエペルは、それを追いかける。暫く逃げたアンノウンの特権術師は、林を抜けて開けた岩場と大きな湖の隣接する場所で足を止めた。


「上手いこと誘導されちまったなぁ? それにしても、気付いてるか? エペル。あの要塞の規模。あれは、テロリストごときが建設出来るレベルじゃねぇ。裏で、どっかの国が援助してるぜ?」


 笑いながら言う雷蔵に、エペルは淡々と答える。


「解っていますよ、Mr.服部。それを含めて、どちらかは捕虜にして尋問しなければいけませんね。お任せしても宜しいですか? 私の術式は、“掃除”は得意でも生け取りにするのは少々難しいので。それに、この規模の戦闘です。私のほうはさっさと掃除して、連合奇術師達の回復役に回ります」


 すると、僧侶の奇術師が口を開く。


水華(シュイファ)、拙者が終わりの閃光の相手をする。貴殿では、相性が悪かろう」


 水華は、生意気そうに返す。


「坊主はお優しいですネ〜岩真(イェンジェン)? それにしても、まさか国連がここまで動くとはネェ〜。私達の任務も潮時ネ」


 岩真が、錫杖で2回地面を突く。すると、瞬時に錫杖からエペルと雷蔵の間にかけて地面から幅1メートル、高さ30メートル程の圧縮され硬化した土の壁が500メートル程の長さで立ち上がり、雷蔵とエペルを分断した。岩真は、すかさず錫杖で1回地面を強く突く。


岩盤土葬(がんばんどそう)


 途端に、雷蔵の立っている場所を中心に、各辺5メートルの正方形状にものが落ちるのよりも速く地鳴りを響かせ地面が下へと落ちた。落ちたそばから、雷蔵の頭上は硬化した土で塞がれ、生き埋めにされる。

 岩真の分断後、水華は湖へ向かって歩き始め水上も歩いて湖の中央に立った。


水操(すいそう)系術師ですか。歩いても水面が波立たないとは、あなたなかなかやりますね?」


 水華は鼻で笑った。


「思ってもないことを言うもんじゃないネ? でもまさか、白い悪魔が来るとは思ってなかったネ」


水牢鉢(すいろうばち)


 水華の水色の服に刻まれた術式がほのかに光り、湖から大量の水がエペルへ襲い掛かる。乱れた幾つもの水流が、エペルを球状に包み込み閉じ込めた。

 奇術は、聖気を消費して無の状態から物体を創り出すことが出来る。しかし、その場に既にある物体へ聖気を流して操るほうが、物体を創り出す分の聖気を術式の威力増強に使える為、繰り出される術式は高威力になる。岩真と水華はその地の利を得る為、雷蔵とエペルを誘導した。


「指先すら動かせない水の牢獄ネ。このまま溺死すると良いネ」


 激流渦巻く水牢の中、エペルは余裕な笑みを見せた。左手に持った聖書から放たれた光が、水の牢獄の中を満たす。すると、エペルを閉じ込めていた水は音を立てて蒸発した。水から出て来ると、エペルは服に付いていた水滴を手で払う。エペルの身体は、濡れるどころか水を弾いていた。


「まったく。水が綺麗だったから我慢出来ましたが、汚かったら今頃殺していましたよ? まぁ、どっちにしろ殺すんですがね?」


 水華の苦笑いを見届けて、エペルは聖書を開く。

 その頃、地中に生き埋めにされた雷蔵は、雷鳴と共に地中に穴を開けて出て来た。


雷操(らいそう)系術式の俺相手に、土操(どそう)系とは。相性はお前のほうが良いかも知れねぇが、俺の雷は一味違うぜ?」


 場所は移り、界斗の張った結界内に放たれた『雷風陣』の攻撃が終わった頃。


「本当に殺っちゃったんじゃないかしら?」


 真矢が言うと、結界にヒビが入りガラスの割れるような音を立てて破れた。竜巻で出来た砂煙の中から、先程までの転凱の声にもう一人の別の声が混じった様な濁った笑い声が聞こえる。


「これを使うのは久しぶりだなぁ。おい、亀の仮面の小僧。普通の術師なら、アレで死んでるぜ?」


 砂煙の中から出て来た転凱の姿は、豹変していた。上半身に茶色の獣毛を纏い、手首から肘に掛けて鎌のような刃が飛び出し、鋭い歯に瞳孔は縦に割れ目が黄色の半獣だった。


「何よ、あれ・・・・」


 初めて見るその禍々しい姿への真矢の問いに、界斗が冷や汗を流し答える。


「あれは、恐らく“獣神化(じゅうしんか)”だ」


 獣神化。それは、聖界に存在する亜神(あじん)と契約した人間が、亜神と一時的に身体を1つにする術。聖界にいる生物は、例外無く全て生命力である聖気を宿している。そして、動物も人間の聖巫女や聖女と同じく、先天的に聖気を大量に宿して産まれる個体がいる。その動物達は、同種の者よりも何倍も長い時間を掛けて成長する。そして、厳しい生態系の中で成体となれた個体は、奇術師と同じく聖気を操り奇術を扱うようになる。人間とは異なり、聖気を大量に宿した動物は成体の状態で老いることなく生き続け、長い年月を掛け人間以上の知識と聖気操作の技量を身に付ける。そうして数百年以上生き、人語を操る迄に生物としての高みへ至った個体を、人は“亜神”と呼んだ。亜神は、稀に気に入った人間と契約を交わす。契約をした人間は、亜神の膨大な聖気を借りたり、獣神化することで一時的に強大な力を得ることが出来る。


「来るよ!」


 糸成が注意を促した途端、転凱は瞬時に界斗の背後へ回り込んだ。

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