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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第38話 ONE TEAM

「真矢! 界斗! こいつは、僕に殺らせてくれ!」


 糸成は、連携を無視して突進した。唯ひたすらに、親の仇を討つ為だけに動く。憎しみで、それ以外何も見えなくなっていた。怒りと憎しみで先ほどより単調になった糸成の攻撃を往なすのは、簡単だった。大振りになった糸成の拳を躱した転凱は、糸成の顎に高速の左フックを当てる。脳を揺らされた糸成はふらつき、その場で膝から崩れ落ちた。


「糸成!」


 心配し掛け寄ろうとした真矢へ、転凱が迫る。真矢は前へ踏み出した足を即座に軸足に変え、右へ回り込み矢を射った。すると、転凱が“両腕”を下から上へ大きく振るう。


()()り』


 振るわれた其々の腕から風の刃が放たれ、其々真矢と界斗へ向かって飛んだ。界斗は真矢の前に『断隔』を張り、自身への攻撃は回避しようと左へ跳ぶ。しかし、想定よりも速かった刃は界斗の右前腕に切り込み、肉が裂けた。真矢のほうへ飛んだ風の刃は、矢を叩き落すと界斗の張った結界に阻まれる。しかし、射線を変えた転凱が再び『醒む刈り』を放っていた。咄嗟に真矢は左腕でガードしたが、風の刃は左腕と胴を浅く切り裂く。2人が血を流すのを、糸成は脳が揺れ歪んだ視界の中で、ただ見ていることしかできなかった。その光景に、脳内で両親の最期が重なる。自分の軽率な行動で再び大切な人を危険に晒し、自分はそれを見ていることしか出来ない。力を得てもなお、自分の無力さを思い知る。


『刹火の矢!』


 真矢の攻撃で、転凱に3人から距離を取らせた。


「糸成のバカ! 先生に単独戦はするなって言われてるでしょ⁉︎ それに、私達はチームよ!」


 真矢と界斗が、ふらつきながら立ち上がる糸成を挟み横へ並ぶ。


「そうだぜ? 糸成。例え、相手がお前の親の仇だろうと、俺達は手を出す。お前だけを戦わせるなんてことは、もう二度としねぇ。俺達は3人で1つだろ?」


 戦闘中に笑顔を見せた真矢と界斗が、糸成の背中を其々血の滴る腕で同時に軽く叩く。仇を前にして頭に血が上っていた糸成を、2人の手が冷静にさせてくれた。


「2人共、ごめん。・・・・ありがとう。2人がチームメイトで良かったよ」


 私欲に走り、連携を乱したことで仲間を傷つけさせた自分を、見捨てないと言ってくれた。その言葉が、糸成は猛烈に嬉しかった。自分の情けなさと、2人の優しさで溢れる涙を腕で拭う。そして、雷蔵の言葉を思い出す。“この力は私利私欲の為に使ってはならない”。何の為に、自分は戦うのか。自分と同じ思いを、人にさせない。悲しみ、絶望、恐怖、理不尽から人を護る。その為に得た力。糸成の、殺伐としていた目の色が変わる。そんな糸成を、界斗が気遣う。


「安心しろ。トドメは刺させてやるさ」


「話は終わったかっ⁉︎」


 転凱が、柄の赤い苦無を3人の顔目掛けて其々1本ずつ投げる。3人が苦無を半身になって避けると、転凱が視界から消えた。


『影狼』


 真矢の回避した苦無へ、転凱が転移する。


『醒む刈り』


 転凱が振るった右腕から、風の斬撃が真矢目掛けて飛び出す。しかし、真矢にはしっかりと攻撃が見えていた。真矢は寸前で空中へ飛ぶと、身体を捻り一回転させ回避する。真矢に避けられた斬撃は、そのまま飛んで行き巨大な瓦礫を両断した。


「今のは危なかったわ。普段の戦闘訓練から、糸成の『影狼』を見ていなかったら殺られてたわね・・・・⁈ ていうか! さっきもだけど、“右腕”いつ生えたの⁈」


 3人が転凱を再び視界に捉えると、糸成に消されたはずの右腕が生えている。しかし、治癒術式を発動した気配は無かった。


「どういうトリックか知らねぇが、奴は高度な治癒術式を糸成の『影狼』みたく高速展開出来るようだ。糸成、引き続き奴と近接戦をしろ。俺と真矢で援護して隙を作る。そこへ『緋掌』をぶち込め! 行くぞ!」


「了解!」


 糸成はそのまま転凱へ突っ込み、背後へ真矢が回り込む。


『醒む刈り』


 糸成へ風の刃が迫る。だが。


「そのまま行け!」


『断隔』


 糸成に当たる寸前で、『醒む刈り』の刃は結界に阻まれる。転凱の懐にまで入り込んだ糸成は、そのまま体術戦へと入る。その背後から真矢が矢を射った。転凱は、迫り来る拳と矢を往なし続ける。格闘しながら、糸成が問う。


「何故、父さんと母さんを殺した! 実の弟を! 何故!」


 転凱は笑いながら答えた。


「俺の、夢の為さ!」


 その不気味な笑みと答えに怒りを覚えた糸成は、動きに力みが生まれ再び攻撃が単調となった。その隙に、転凱のボディブローがもろに入り、糸成は吹き飛ばされる。


『刹火の矢!』


 糸成の体勢を整えさせる為に、真矢が派手な『刹火の矢』、界斗が『断隔』と言葉で転凱の気を引く。


「夢の為? その為なら、実の弟であっても殺せるってか?」


 転凱は矢を回避し、背後で瓦礫に当たった矢が爆ぜる。


「あぁ、大いなる夢だ。俺達のお陰で、世界は奇術師を知った。術師が世界の主権を取り、敬われる日が来るのは目の前だ!」


 吹き飛ばされ、瓦礫に埋もれていた糸成が出て来た。


「そんなものの為に、父さんと母さんを殺したのか!」


 その言葉に、笑って話していた転凱が激怒する。


「そんなものだと⁈ 貴様らは感じないのか⁈ 守られる側である非術師が、安全な場所で胡座をかきながら命懸けの術師をこき使い、使い捨てるこの世界の矛盾を! 何故、我々だけが魔獣に立ち向かわなければならない? 何故、我々の犠牲は認知されず、人知れず死んで行かなければならない? 俺達奇術師の屍で成り立つこの世界を壊し、術師優位の世界を創る!」


 転凱が糸成に仕掛けた。糸成と両手を掴み合い、押し相撲の力比べとなる。


「どんな理由があろうと、お前達がしたように僕の両親や、プティ国民みたいに多くの人が死ぬ! 何の罪もない悲しむ人が生まれる! そんなこと、もうさせない! ・・・・真矢!」


「分かってるわよ!」


『閃雷の矢』


 糸成が捕まえている間に、転凱の背に向かって矢を射る。避けようとする転凱を糸成が引き止め、界斗が糸成の背後へ回る。


『二重結界 二影』


 界斗の術式で目が眩んだ転凱へ、矢が迫る。しかし、転凱は『影狼』で回避した。慌てた糸成が、矢が腹に当たる寸前で殴り飛ばされた際に置いておいた苦無へと転移する。


「危ねぇ。冷や汗が出たぜ」


「それはこっちのセリフよ界斗。危うく、糸成に当たるところだったわ」


 そこからは、『影狼』による高速戦闘となった。転凱と糸成は互いに苦無を投げ合い、一瞬の瞬きが致命傷に成りかねない程の高速転移戦闘を続ける。そんな硬直状態に、界斗が動いた。


「離脱!」


 界斗の掛け声で、糸成と真矢は転凱から離れた。界斗が、地面に刻印した術式へ聖気を流す。


四点結界(してんけっかい) 修羅天守(しゅらてんしゅ)


 界斗が戦闘中に動き回り、四方に描いておいた術式が起動する。術式文字の描かれた半透明の光りの壁が現れ、各辺30メートル程の城の形をした結界により転凱は閉じ込められた。転凱の戦闘をよく観察していた界斗は、転凱の苦無が全て内側になるように結界を張った。


「転移で攻撃が避けられるなら、転移先にも攻撃を当てれば良いよなぁ?」


『風雷陣!』


 界斗の左中指の指輪が光り、結界の天井に術式が浮かび上がる。そして、落雷と竜巻が結界内を襲った。


「界斗。トドメは、糸成に残しておくんじゃなかったの?」


 真矢のじとっとした視線に、界斗は顔を背けた。

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