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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第37話 親の仇

 立食パーティーから日付が変わり、3時50分。奇術師連合包囲部隊は、アンノウンの要塞を360度から取り囲んだ。


 ロシア領内上空約9000メートル、Ⅱ—76輸送機機内。無線が入る。


「地上包囲部隊、配置完了。HALO降下部隊の合図を待つ」


「HALO降下部隊了解。降下まであと5分。合図を待て」


 搭乗員が、機内の奇術師へ声を掛ける。


「降下まであと5分! ハーネス、酸素マスク装着!」


 悠々とした顔で立ち上がる雷蔵に対し、エペルは深刻な顔で胸に十字を切り立ち上がった。

 今回の作戦では、呪嶽島制圧作戦と同様に特権術師の2名はタンデムフライトで降下する。異なるのは、共に飛ぶのがHALO降下を習得したアメリカの上級術師だということ。今回の作戦において、要塞へ攻め入るのは奇術師だけである。

輸送機の後方ハッチが開き、乗員が声を張る。


「スタンバイ!」


 奇術師達がハッチまで進むと、エペルは再び十字を切った。


「GO!」


 3時58分。降下開始。

 合図と共に飛び降りた4人の奇術師は、星の輝く夜空を滑空し分厚い雲の中へと入る。雲を掻き分け、進んだ先で要塞の頭上を取った。2人の特権術師が聖気を全開放し、大規模術式を放つ溜めを作る。その凄まじい量の聖気は、雲と地上を照らす白い流星のように降下した。


『ホーリー・プリズム』


紫電終雷(しでんしゅうらい)


 エペルの聖書が光ると、聖書を中心に広範囲の術式が展開され、要塞の中心へ向かって3角柱の光の柱が下される。『護封結界』を破壊し、地面まで到達した光の柱は触れたものすべてを蒸発させた。雷蔵が刀を振り下ろすと、通り過ぎた黒い雲から紫色の落雷が雷鳴と共に降り注ぎ、要塞を襲う。それを地上から見ていた包囲部隊の感想は、1つだった。彼等特権術師は、“動く天災”だと。


 4時。進行開始。

 HALO降下部隊の攻撃を合図に、地上包囲部隊は一斉に肉体強化を行い、要塞へと進軍する。糸成達は、北の山岳部から要塞へと向かった。


「警戒網の関係で、俺達要塞北側包囲部隊は要塞から6キロ迄のところしか進めなかった。だから、戦場に着くのは俺達が最後になる。先に戦闘しているチームの援護に回るぞ!」


 界斗の指示に、糸成と真矢は声を揃える。


「了解!」


 山岳地帯の警戒網を銃弾が飛び交う中、肉体強化で一気に駆け抜け戦場へと向かう。遅れて到着した要塞では、あらゆる術式が使用された戦闘により要塞は崩れ落ち、そこら中に死体が転がり周囲には血と人の焼ける臭いが充満していた。


「たった数分でこれとは、凄まじいわね。この白いバンダナ、連合の術師だわ」


 真矢が、転がる奇術師の遺体の側でしゃがむ。今回の作戦で、連合部隊の奇術師は右腕に白いバンダナを巻き付けている。それにより、敵味方の識別を行う。糸成と界斗も、その光景に足が止まる。3人は、若くとも多くの任務をこなし魔獣や奇術師達と戦ってきた。しかし第二次世界大戦以降、表社会の平和の為に奇術師同士の戦闘やテロリストの排除は小規模だった。この世界で、まだ誰も経験したことのなかった奇術師1000人規模の奇術師同士の戦闘。それはまさしく、この世の終わりのような光景だった。足の止まった3人を、響き渡る戦闘音が足を動かせる。


「行こう」


 覚悟を決めた界斗の声掛けで、3人は1番近い戦闘音の元へと向かった。爆音と怒号の中、3人は瓦礫の中を走る。


「この先。上級トップレベルの術師が1人居るぞ!」


 界斗の言葉に、真矢と糸成は更に気を引き締めた。すると、瓦礫の開けた場所に出る。そこには、9人の連合奇術師が切り裂かれ血を流して倒れていた。そして、年期の入った紺色の忍び装束を纏い、崩れ倒れた石柱の上に座ったアンノウン奇術師の背中が見える。


「次の獲物が来たか」


 3人に気付いた奇術師は、凄まじい殺気を放ちながら振り返る。その奇術師が付けている仮面に、糸成が驚く。


「僕と、同じ仮面⁉︎」


 すると、敵奇術師も日本語で話した。


「小僧。何故、転哉の仮面を被っている?」


「っ⁉︎ お前。父さんを知ってるのか⁈」


 敵奇術師は、転哉と色違いの同じ模様が付いた狼の仮面を外しながら答える。


「知ってるも何も、転哉は俺の弟だからなぁ?」


 仮面を外した奇術師の顔を見て、糸成の聖気が乱れ大量に放出されたことにより糸成の周囲の視界は歪み、冷たく鋭い殺気を漏らす。そのただならない殺気と普段の明るい糸成との乖離に、界斗と真矢は不安を覚える。男の顔には、3本の切り傷があった。傷の男が言う。


「おい。まだ、俺の質問に答えてないぞ?」


 糸成も仮面を外す。


「この顔を、忘れたとは言わせないぞ」


 威圧感のある低い声で言い放ち、糸成の顔は親の仇を前に殺気立ち瞳孔が開く。


「お前のその右目、あのときいた転哉のガキか? それで、親の仮面を継いだってわけか。・・・・喜べ、ガキ。転凱(てんがい)叔父さんが相手してやる」


 転凱が、掛かって来いとハンドサインで挑発する。


「ぶっ殺してやる」


「待て!」


 ドスの効いた声で言った糸成は界斗の制止を振り切り、転凱へ向かって踏み込んだ足場が割れる程強く走った。距離を詰めた糸成は、直人の元で完成させた格闘の中で敵に触れ『緋掌』を狙う拳法、“緋掌拳”を繰り出す。あらゆる軌道で繰り出される拳とフェイントの中に、『緋掌』を混ぜる。僅か数秒の間に百に達する拳のやり取りの末、転凱の右前腕に糸成の右手が触れる。


『緋掌!』


 緋色の閃光と共に、転凱の右前腕が吹き飛んだ。その瞬間、転凱が後ろへ下がる。


「まさかガキ、お前が緋色の狼(スカーレットウルフ)だったとはなぁ? 良い術式だ」


 右腕を無くしても、転凱は痛がるどころか笑っていた。その異常な姿に真矢と界斗は戦慄したが、糸成は違った。上級トップレベルの奇術師相手に緋掌拳が通用すると確信し、さらに気合が入る。そのとき、距離を取った転凱へ真矢が矢を射った。


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