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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第35話 世界招集

 シエル壊滅から4ヶ月。

 雷蔵が先頭に立ったEU奇術師連合部隊の西側戦線が、レーゼル大聖堂跡地の龍門へと辿り着き、門を閉じる。残すは、西以外へ散った大量の魔獣のみとなった。聖界へ侵攻してきた特級魔獣を狩り尽くした雷蔵は、一足先に日本へと帰還する。


 糸成は、直人の元で新しい戦い方を習得し服部邸へと戻っていた。そして、また真矢と界斗と共に3人で訓練に励む。


「今日、先生が帰って来るそうよ〜」


「シエルの龍門が、やっと閉門されたらしいからなぁ。やっぱり特権の先生はレベルが違ぇな! なぁ糸成?」


「確かにね〜。呪嶽島で初めておじさんの術式見たけど、威力凄かったもんね」


 里の外れに在る演習場で、3人が戦闘訓練をしていたとき。里のほうから、演習場へ向かって来る人影が見える。


「お〜お前ら〜。帰ったぞ〜」


 雷蔵が紙袋を手にぶら下げながら、椿と共にやって来た。糸成達は、戦闘訓練を止めて出迎える。


「噂をすれば、帰って来たわね。お帰りなさい、先生」


「お帰り、先生。後でシエルの話、聞かせてくれよ?」


「おじさんお帰り。あっ! お土産だ! 今回は、やっぱりプティ共和国の?」


 “お土産”と言う糸成の言葉に耳が反応し、真矢と界斗も雷蔵の紙袋に目を輝かせた。しかし。


「おっと、そりゃぁ残念でした〜。今回のお土産は・・・・“東京ばな奈”だ!」


 演習場の木々が、風で(なび)く。海外のお土産を期待していた3人のテンションはガタ落ち、膝から崩れ落ちた。


「なんで海外行ったのに、お土産が日本のものなのよ!」


「そーだ! そーだ!」


 真矢の抗議に同調し、糸成と界斗は声を揃えて訴える。


「なんだお前ら! 東京ばな奈、超うめぇじゃねぇか! いいもんね〜そこまで言うなら、全部俺が食うもんね〜」


「いや! そこまでは言ってないから!」


 3人の声が、演習場の森にこだました。4人は、演習場で椿の入れたお茶を飲みながらお土産を食べる。雷蔵は、プティ共和国で観た地獄の光景を糸成達へ話した。焼けた魔獣の臭い、地平線まで続く街の瓦礫と魔獣の骸。見る影もなくなった、首都シエル。そして、お茶を飲み終える頃。


「世界の奇術師達は、アンノウンに負けた。これまで、俺達が何十年と世代を超えて護り隠してきた秘密を、世界は知った。知られちまった。アンノウンの企みの1つ、“奇術師という存在の世界的認知”は達成された。俺達は、アンノウンを唯のテロリストだと認識していたが、その認識は甘かったんだ。奴等は、世界に戦争を仕掛けていた。魔獣を使い非術師の不安を煽り、それに対抗できる術師による世界の統治。その序章が、プティ共和国だ。これ以上、奴等を好き勝手にさせるわけにはいかねぇ」


 糸成、真矢、界斗の3人は力強く頷く。その眼には覚悟と使命感の火が力強く、且つ研ぎ澄まされて灯っていた。3人の眼を、雷蔵は其々見ると。


「お前らの眼を見て、安心したぜ。3日後、世界は協力してアンノウン相手に反撃し、その息の根を断つ。そこへ、お前らも連れて行く。今回も“社会見学”じゃなく、戦力として連れて行く。覚悟は良いな?」


 雷蔵の問いに、真矢が立ち上がり答えた。


「愚問よ」


 界斗と糸成も、続いて立ち上がる。


「とーぜんだぜ!」


「うん。この日の為に、僕は修行してきたんだ」


 解散した一同は、其々3日後に向けてコンディションを整える。



 雷蔵の帰還から2日後。

 雷蔵、糸成、真矢、界斗の4人はロシア連邦サハ共和国首都、ヤクーツクにいた。


 サハ共和国奇術省、ヤクーツク大会議場。

 国連加盟国以外の国からも奇術師が派遣され、アンノウン掃討作戦に参加する奇術師の総数は1063名。その内訳は、特権術師2名、上級術師465名、中級術師595名、下級術師1名。


 会議場で、世界から集まった奇術師がごった返していたとき。4人で集まっていた糸成達に、話し掛けて来る奇術師がいた。


「やぁ、皆。久しぶりね?」


「! ブレアさん! それに、マイケルさんとステファンさんも!」


 糸成が振り返ると、マイケルとステファンが笑顔で小さく手を振った。


「ブレアさん達も参加するのね。心強いわ」


 真矢とブレアが握手すると、ブレアが雷蔵の横顔を見上げる。


「今回参加する特権術師の1人が、まさか終わりの閃光。あなただったとは驚きね」


 振り返った雷蔵が答える。


「その声は、ブレアか。久しいねぇ、何年振り?」


 笑顔のブレアの額に、血管が浮き上がる。


「あら? 私に歳の話? 相変わらずのデリカシーの無さね?」


 雷蔵は眉を上げると、右手で口にチャックをするジェスチャーをした。雷蔵へ呆れた目を向けた後、にこやかに界斗を見る。


「界斗、身体の調子はどう?」


「お陰様で絶好調です。って言うか、ブレアさん二つ名持ちだったんですね。もっと早く教えて下さいよぉ」


 界斗が、媚びる後輩の様に言った。


「二つ名なんて、自分で語るものじゃないのよ。3人とも元気そうで安心したわ。じゃあ、あなた達も気を付けてね? 戦場でまた会いましょ」


 ブレアを先頭にしたアメリカチームは、席へと向かって行った。すると、今度は白を基調にしたローブに、裏地の赤い胸の高さのケープ。背中に金色の線で描かれた十字架を背負い、左手に聖書を持った立ち姿に品のある糸目の男が、雷蔵へ話し掛ける。


「お久しぶりですね? Mr.服部。その無精髭は相変わらずですね」


 雷蔵が、おちょくるように言い返す。


「エペル。お前の顔も、相変わらず何考えてるか分かんねぇなぁ? ・・・・まさか、お前が出張って来るとはねぇ。バチカンのお偉いさん方も、今回は相当お怒りのようだな?」


「私は、私の務めを全うするだけですよ。ゴミはゴミ箱へ捨てるだけ。今回も教皇様の命に従い、世界のゴミを掃除するだけです」


 糸成、真矢、界斗の3人はエペルの見せた不敵な笑みと、冷たく研ぎ澄まされた殺気に背筋が凍る。


「あんま、俺の弟子達を怖がらせないでくれねぇか? 殺気が漏れてるぞ?」


 雷蔵の言葉で、エペルは漏れ出た殺気を直ぐに引っ込めた。


「おっと、私としたことが。これは失礼しました御三方。それではまた明日、戦場で。では」


 浅く一礼をして立ち去って行くエペルを見送って、真矢が両腕を摩りながら緊張させていた口を開いた。


「先生。あれが、エペルなのね? 鳥肌が立ったわ」


 冷や汗を右袖で拭うと、糸成も雷蔵へ尋ねる。


「もの凄い殺気だったけど、一体何者なの?」


 立ち去って行くエペルを見ながら、雷蔵は答える。


「あいつは、バチカン唯一の特権術師、エペル・ブクリエ枢機卿。ローマ教皇の守護者にして、最強の剣だ」


「あれが、“白い悪魔(ホワイトデビル)”。ヨーロッパ最強の奇術師・・・・」


 雷蔵が呟いた界斗の肩に手を置き、離れて行くエペルの背中を見ながら警告した。


「界斗。長生きしてぇなら、その名はあいつの前で言うなよ?」


 普段あまり見せない真面目な雷蔵の顔に、界斗は唾を呑む。


「わ、わかった」


 今まで感じたことのない程の、冷たい殺気。それが、自分に向くかもしれないと言われた界斗の声は、震えていた。


「さて、俺達も席に着こう。そろそろブリーフィングの時間だ」

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