第34話 借りと言い訳
ブレアがリンに埋もれた糸成を発見した後、アメリカチームはリンとチョウを『封禁』で捕獲。日本チームの治療を行い、意識が戻るのを待つ間に、アメリカの回収班とリースがリンとチョウを本国へと連行した。
暫く経って。日本チームは、糸成、真矢、最後に界斗の順で意識を取り戻す。界斗が目を覚ましたとき、そこには界斗の顔を覗き込む糸成と真矢の顔が見えた。
「気がついたのね、界斗」
「界斗! 無事で良かったよ」
2人の笑顔を見て、界斗は安心して声を掛ける。
「お前らも、無事だったみてぇだなぁ」
界斗は、ゆっくりと上半身を起こした。真矢が、ブレアから聴いた日本チームが意識を失った後の報告を、界斗にも話す。
“もう1人”の対象を発見したアメリカチームは、日本チームの発見した対象と距離が近かったことから、大規模の『隠』と出る者を拒み入ることを拒まない結界の複合結界、『隠遁』を張った。しかし、“もう1人”の対象の相手に時間が掛かり、日本チームへの援護が遅くなってしまった。とのことだった。
「とにかく、アメリカチームのお陰で命拾いしたわ。傷は残ったけど、怪我は治っているはずよ」
界斗は、自分の身体に残った傷痕を触る。
「あぁ。そうだな。ブレアさん、助かったよ。ありがとう」
ブレアに頭を下げた界斗だったが、アメリカチームの報告に違和感を覚える。そして、頭を上げた界斗の疑いの目にブレアも気付く。ブレアと目が合った界斗だったが、敢えて何も言わなかった。
14時30分。
ブレアが任務終了を宣言し、一同は飛行機を乗り継ぎ成田空港へ飛んだ。
18時。
成田空港へ着いた一同は、別れの挨拶をする。
「ブレアさん。今回は本当に助かったわ。それにマイケルさんも。私達を治療してくれてありがとうございました」
日本チームは頭を下げた。そこへマイケルが英語で話したのを、ブレアが訳す。
「助けるのが遅くなってしまって、すまなかった。界斗君、傷痕を残してしまって申し訳ない。とのことよ」
頭を上げた界斗が、含みのある言い方で答えた。
「いいえ。“あの任務”で俺らの命があるだけで、有り難いことですよ? マイケルさん」
訳したブレアの言葉に、マイケルとステファンは驚きブレアを見る。動揺する2人へ、ブレアは英語で“大丈夫よ”と言った。そして。
「界斗。あなた達には、“借り”が出来てしまったわね。何か困ったことがあったら、奇術省を通して連絡して? 出来る限り力になるわ。じゃあね」
ブレアがウィンクをすると、マイケルとステファンは頭を下げた。2人は、任務とはいえ一度日本チームを見捨てようとした罪悪感と、それに1人気付いていた界斗へ複雑な表情を見せたが、界斗が笑顔で手を差し出してくれたことで、2人の心は救われた。アメリカチームと日本チームは、それぞれ握手を交わして笑顔で別れる。糸成達は、アメリカチームの乗る飛行機を展望デッキで見送る。夕焼けで赤く染まる空に少しずつ小さくなっていく飛行機を観ながら、界斗が噛み締める様に言った。
「もっと、強くならなきゃいけねぇな。俺達」
「そうね」
「うん」
3人は上級術師の世界を肌で感じ、己の力量を改めて思い知らされた。全員が自分の其々の強くなる目的を胸に、今よりも強くなると心に誓う。
翌日。アメリカ合衆国、バージニア州。アメリカ奇術省ヘキサゴン、大臣室。
扉をノックし、ブレアが入室すると大臣へ敬礼した。ジョンソンは、ブレアに背を向けて椅子に座り、窓の外を眺めながら苛立った声で話し始める。
「ブレア上級術師。私の話を、覚えているかね?」
「勿論であります」
ジョンソンがデスクを強く叩く。
「では! 何故、日本の術師は生きている⁉︎ 私は言ったはずだ! 彼等には、“死んで貰わなければならない”と!」
威圧的なジョンソンに怯むことなく、ブレアは発言した。
「お言葉ですが閣下。彼等は、我が国の中でもトップクラスだったリンとチョウを相手に、善戦するどころか勝利して見せました。私は、閣下から彼等が“殺されるところを見逃せ”との命令を受けましたが、“私達の手で日本の術師を殺せ”とは言われておりません。戦闘を監視していた結果、リンとチョウからもアメリカの機密情報が日本チームへ漏れた事実はありませんでした。よって、合同作戦で“日本チームのみ全滅”という日本から疑惑の目を向けられる可能性を排除する為、対象制圧を終えた日本チームを介抱致しました。詳細は、報告書どおりです」
出来の悪い言い逃れ。そんなことは、お互い解っていた。しかし、ブレアはそう言うしかなかった。だが実際、ブレアの行動で日米関係の悪化が免れたのも事実。ジョンソンは、大きくため息を吐く。
「これまで、君が我が国と国民の為に命を懸け、多くの任務を遂行してきたことは知っている。その働きを、私も高く評価している。だから、今回の任務に君を選抜した。これまでの功績を踏まえ、今回は大目に見る。だが、次からはもう少しマシな言い訳をしたまえ」
そう言うと、ジョンソンはブレアを退出させる。




