表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/42

第33話 遅い援軍

 戦闘開始から20分。界斗が、アメリカチームの合流の遅さに違和感を覚える。周囲の結界に目を向けたときだった。チョウが、界斗へ一気に距離を詰める。


「しまった!」


「戦闘中に考えごとか? 余裕だなぁ!」


『フレイムインパクト!』


 界斗は自身の前へ咄嗟に『断隔』を張ったが、チョウの直撃の一振りに結界は耐えられなかった。チョウの一撃は、『断隔』に触れると刃先が爆発を起こす。斧はガラスが割れるような音を出しながら結界を砕き、界斗の左肩から右下腹部まで深く切り裂いた。チョウが斧を降り下ろしきったとき。


『二重結界 二影!』


 口から血を流し後ろへ倒れながら、界斗が咄嗟に発動する。チョウの目が眩み、動きが止まった瞬間。背中側の右肩に矢が刺さる。


「爆ぜなさい」


『刹火の矢!』


 直撃を受けたチョウは、数十メートル吹き飛ばされた。真矢は、急いで倒れた界斗の元へ走る。


「界斗! だいじょ・・・・」


 界斗の酷い姿に、真矢は言葉を失う。界斗の体は、斬られた側から高熱の炎で焼かれ、傷は塞がっていたが身体の正面が焼け爛れていた。刃は肺まで届き、界斗は呼吸の度に喀血する。真矢が膝を着き、界斗を起こそうと弓を置いたとき。右腕を失い半身が焼けた状態のチョウが、獲物を追うチーターに迫る速さで戻って来る。咄嗟に弓を持ち、矢を射ろうとした真矢だったが、チョウのほうが一足早かった。


「遅ぇよ!」


 真矢の懐へ入ったチョウが、腹を左から右へ切り裂き、焼く。


「クッ・・・・ソ・・・・」


 真矢は倒れた。


 その頃、糸成は手の皮膚を黒くひび割れるまで焼かれ、消耗していた。糸成は、何度かリンに触れることが出来ていたが、やはり痺れた手で『緋掌』を放つことは出来ていなかった。これ以上の戦闘継続は困難だと判断した糸成は、覚悟を決める。焼け焦げた手を合掌すると、そのままリンへ向かって突き進む。


「なんだぁ? 触れるのは諦めたかぁ?」


「だから、英語わかんないって!」


 リンの大振りになった右ストレートを、身体を回転させることで全身で『螺旋白刃流し』を繰り出し寸前で躱した糸成は、懐へ入り込む。そして合掌していた手を少し離すと、両手の間に赤核が現れる。


「一緒に吹き飛ぼうぜ?」


『紅花火』


 糸成が仮面の下でニヤリと笑みを見せた。紅色の閃光が糸成とリンを包み込む。痺れた手では即座に赤核を作れないと判断した糸成は、両手で時間を掛けて聖魔融合を行った。初めて両手で融合し、普段よりも高圧縮された赤核は、大きなクレーターを作る程の大爆発を起こす。


 爆発音と衝撃波が届いたとき。倒れた真矢へ、チョウがよろめきながら近づく。


「やってくれたなぁ小娘ぇ! てめぇから先に、ぶっ殺してやるよォ!」


 倒れた真矢の首へ、斧を振り下ろそうとしたとき。チョウの瞬きの間に、右腕が光の刃に切り落とされた。


「なっ! てめぇは! ・・・・笑う祭司!」


 真矢の前には、右手に上部から光の刃が出た鉄製の十字架を剣の柄のように握り、骸骨の仮面を被ったブレアが立っていた。


「やっぱり、私に仲間を見捨てるのは無理ね。咄嗟に身体が動いちゃったわ。マイケル! 直ぐに2人を治療して! ・・・・おっと。動かないことね、チョウ。私の性格、よ〜く知ってるでしょ?」


 切先をチョウへ向け、優しい声色で忠告する。


 笑う祭司。ブレアに付けられた2つ名である。戦場で笑いながら、舞うように剣を振るう姿からそう名付けられた。戦うことを好み、敵を容赦なく斬り刻む。その狂気に満ちた戦闘は、味方にも恐れられる。

 しかし、今日のブレアは笑っていなかった。本来、彼女は仲間思いな女性である。若かりし頃、元孤児であった彼女には感情表現が少なく、任務をひたすら寡黙にこなす仕事人だった。そんな彼女へ、1人のチームメイトの男が“笑った顔のほうが可愛い”と彼女へ言った。男へ徐々に心を許していった彼女は、感情を取り戻し始める。しかし、その男と結婚の約束をした後の任務で、彼女の目の前で男は戦死した。男の最期の言葉は、“君の笑顔を愛している”。その日から、彼女の中で何かが壊れてしまった。笑顔を絶やさなくなった彼女は、とうとう戦場でも笑い始める。男のことを想い、仲間のことを思い、助けるときも殺すときも笑い続けた。


 そんな彼女だったが、今日の仮面の下は笑うどころか、悲しみの表情を見せていた。“仲間を見捨てよ”という任務に、彼女は心を押し殺し耐えてきた。糸成の手がボロボロになったとき、界斗と真矢が斬られたとき、マイケルやステファンが飛び出そうとするのを何度も止めた。任務の為、国の為、彼等を見捨てなければならない。しかし、傷付き倒れた界斗と真矢を前に、目の前で死んだ婚約者の姿が脳裏に浮かぶ。そして、気が付いたときには真矢を助けていた。任務に忠実な彼女が、初めて私情を優先した。そのことに、彼女自身も驚く。

 チョウがブレアの隙を見て逃走しようとするが、ブレアはチョウの体重移動よりも速く、両足を切り落として動きを封じた。


「ステファン! チョウの拘束、急いで! 私は糸成のほうを見てくるわ」


 界斗と真矢に駆け寄ったマイケルが、ロングネックレスの十字架を握り、目を瞑ると祈る。


『アースヒーリング』


 上級術師であるマイケルの治癒術式によって、界斗は一命を取り留め、界斗ほど深くなかった真矢の傷は完全に癒えた。

 糸成を探しに行ったブレアだったが、その光景に絶句する。木々は根ごと吹き飛び、爆心地の土は高熱によりガラス化していた。灰の中を探していると、爆心地から数十メートル離れたところで正面が黒焦げになったリンを見つける。


「ギリギリだけど、まだ息はあるわね」


 リンの横でしゃがんだブレアはそう言うと、糸成がリンの下に埋もれているのに気付く。リンを退かすと、手だけ焼け焦げた糸成が気を失っていた。糸成は、『紅花火』を繰り出す直前に咄嗟にリンの背後へ回り込み盾とすることで、爆発の直撃を免れていたのだ。しかし、爆発の威力にリンと共に吹き飛ばされ、気を失った。仮面の外れかけた糸成の顔を見て、ブレアは優しく温かい目つきで呟く。


「糸成。あなたは、大物になりそうね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ