第31話 本当の任務
9時50分。
日本チームは、礼文島南部にある知床稲荷神社に到着。界斗が、ブレアへ無線を送る。
「こちら日本チーム。配置に着きました。いつでもオッケーです」
「アメリカチーム了解。無線感度良好。これより、脱国術師包囲作戦を開始するわ」
アメリカチームは、北からステファンが。日本チームは南から界斗が、其々島の中央で半径3キロの聖気探知。見つからなければ、3キロ前進し再び探知。これを繰り返す。肉体強化をすれば、全長約20キロしかない礼文島の探索に1時間も掛からない。しかし、肉体強化をせずに警戒しながら森を抜けるとなると、奇術師といえども非術師と同様にそれなりに時間が掛かる。
12時50分。両チームが其々7キロ程進んだ頃。
「なかなか見つからないね?」
日本チームは、糸成を先頭にして順調に進んでいた。
「このままだと、もうじきアメリカチームの探知範囲と被るわね」
その真矢の言葉をきっかけに、界斗はこまめに探知をかけることにした。すると。
「おい、マジかよ!」
界斗の探知に、2つの聖気反応があった。
「どうしたの界斗? 見つかった?」
周囲を警戒しながら、真矢が声を掛ける。なかなか返事を返さない界斗に、違和感を覚えた真矢は振り返り界斗を見た。そこには、眉間に皺を寄せて冷や汗を滲ませながら、瞑想を続ける界斗が映る。界斗が重い口を開いた。
「これは・・・・中級術師なんてレベルじゃない・・・・。間違いなく上級だ。それも、かなり上の」
界斗のその唯ならぬ雰囲気に、真矢と糸成に緊張が走る。
「界斗。取り敢えず、アメリカチームに連絡が先よ」
「そうだな」
真矢に同意し、界斗は瞑想をやめて右耳に付けた無線のスイッチを入れる。
「こちら結野。術師の聖気を2つ感知。しかし、明らかに上級クラス。目視確認が出来ていない為、対象かどうか分かりません。指示をお願いします」
「こちらブレア。こちらも1つ聖気を感知して、現在接近中よ。そちらも接近して、対象の目視確認をして頂戴。こちらの対象を片付けてから、そちらへ合流するわ。見つからないようにね? 通信終了。・・・・予定どおりね」
隣にいたマイケルが、不満そうに尋ねた。
「ブレアさん。本当にやるんですか? 彼等は、同盟国の術師ですよ?」
ステファンも、不安と申し訳なさの混じった顔をする。
「仕方ないじゃない。これは任務よ。祖国を守る為なら、どんなことでもする。例え同盟国を裏切ることであっても。それが私達、奇術師よ。さぁ、彼等の場所を特定して後を追うわよ」
そう言って歩き始めたブレアは、自身の悔しい表情を2人には見せなかった。
2日前。アメリカ合衆国、バージニア州。アメリカ奇術省ヘキサゴン、大臣室。
「失礼します。お呼びでしょうか、ジョンソン奇術大臣」
入室したブレアは、デスクに座るジョンソンへ敬礼した。すると、渋くダンディな良い声でジョンソンが話始める。
「楽にしたまえ、ブレア上級術師。君を呼んだのは、例のスパイ“2名”が中国へアメリカの機密情報を持ち帰ろうとしている件だ。直ぐに追手を放ったが、捉え損ねた。そこで、対奇術師戦のプロである君の出番というわけだ。幸い、奴らはまだ日本に居る。よって、今回の任務はその両名を“捕獲”し、アメリカへ連れ帰ることだ」
左足を肩幅に開き両腕を後ろに回し、腰のあたりで手を組んでいたブレアが発言する。
「閣下。恐れながら、奴等は上級術師の中でもトップクラスです。私1人では、殺害することは出来ても両名共捕獲は厳しいかと」
ジョンソンはデスク上に肘を着き、顔の前で両手を組み合わせた。
「それは重々承知しているよ。だから、こちらで術師捕獲に長けた術師を2名用意した。そして、日本にも“中級術師”を派遣して貰うことになっている」
ブレアは、顔色を変えずに淡々と質問する。
「中級術師では、日本の術師は無駄死にすることになると愚考致します」
「あぁ。彼等には死んで貰うつもりだ。我が国に入り込んでいたスパイを取り逃がすという失態を、他国に知られてはならないのだよ。それが例え、同盟国であってもだ。幸い、衛星写真とサーモ写真による情報で、対象は島の南部に居ることが確認されている。その為、日本の術師を先に接触させ囮にすることで対象を消耗させ、日本チームが殺されたところで君達が確実に対象を捕獲しアメリカへ連れ帰るのだ。よって、今回の任務は“準特級”となる。」
同盟国を裏切るという任務を、ジョンソンは淡々と説明した。その姿に、ブレアは表に出さなかったが、内心穏やかではなかった。これまで、数百の任務をこなしてきたブレアだったが、他国とはいえ同じ任務を共にする仲間を裏切る任務は初めてであった。奇術界において、仲間を裏切るのはタブー。このことが日本、世界に知られれば国際的大問題となる。決して悟られてはいけない。証拠を残してはいけない任務だ。
「話は以上だ。退出し、任務の準備をしたまえ。“笑う祭司”のブレア君」
「失礼します」
ブレアは敬礼すると、振り返り退出する。大臣室の扉を閉めたブレアは、その場で拳を握りしめ、その強すぎる力で流血した。




