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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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30/42

第30話 二つ名

 渋谷事件から1週間後。糸成達は、飛行機で北海道礼文島へと向かっていた。

 渋谷事件と緋色の奇術師が注目されている頃。アメリカ奇術省からの情報提供により、礼文島にアメリカから脱国した中級術師が3名潜伏していると判明した。3名の奇術師は、アメリカの放った追手の奇術師から戦闘で受けた傷を癒した後、中国へ亡命を試みていると言う。よって、アメリカの派遣する奇術師と共に、脱国奇術師の捜索を行う。


 礼文島へ向かう奇術省専用機、機内。真矢と界斗は、左右から指で3列シートの中央に座る糸成を突く。


「ねぇ糸成ぁ〜。有名人になるのってどんな気持ち〜? ねぇねぇ〜」


「そうだぞ〜糸成ぁ。“緋色の奇術師”だって〜? プププッ。一丁前に二つ名持ちかぁ? なぁおい糸成ぁ、どんな気持ちなんだ〜? プププッ」


 2人に挟まれた糸成は、膝を閉じ両手で赤面した顔を隠した。


「2人共勘弁してよぉ〜。あんなところ撮られてるなんて思わないじゃん?  超恥ずかしいよぉ」


 9時。礼文島着陸。

 真矢は、空挺降下の経験を経て飛行機での移動を克服していた。心に余裕の生まれた真矢と、おふざけモードに入った界斗から着陸まで恥ずかしめられ続け、専用機から降りて来た糸成の顔はやつれて疲労困憊状態となっていた。一方で。


「ふぅ〜。スッキリしたわね~」


「あぁ。超楽しかったなぁ」


 降りて来た真矢と界斗は、爽快感から2人共とてもにこやかであった。3人が空港のロータリーまで出ると、1台の車の前に4人のアメリカ人が並んでいる。1人は黒のスーツ。もう3人は、背中に白の十字架のある黒のローブに白の革ベルト。首には、十字架の付いたロングネックレス。キリスト教の司祭のような戦闘服だった。1人は30代後半くらい、赤毛の刈り上げで高身長細身の白人男性。もう1人は、20代半ばくらいでドレッドヘアの黒人女性。そして最後、中学生くらいの低身長に童顔金髪の白人美少女が、一歩前へ出て握手を求める。


「初めまして。私はブレア。アメリカ所属の奇術師で、今回の任務のリーダーを務めさせて貰うわ。よろしくね?」


 ブレアは、右目でウィンクをした。糸成達は、ブレアの自分達よりも幼く見える容姿と、流暢な日本語に目を丸くした。この日の為に、夜更かしして必死に英語での挨拶を練習してきた界斗が固まる。それに見かねて、今回の任務に同伴する黒子の有働が、リーダーの界斗に変わって先に挨拶と握手をした。慌てて、界斗が名乗り挨拶をして握手する。


「今回、日本チームのリーダーを務める結野界斗です。よろしくお願いします」


 糸成と真矢が名乗った後、真矢が尋ねる。


「随分と日本語が上手なのね。まだ幼いのに」


 すると、ブレアの顳顬と額に血管が浮き出て、笑顔で聞き返した。


「今、最後になんて?」


 それに対して、真矢は聞き取れなかったと思い言い直そうとする。


「おさ・・・・」


 真矢が言い切る前に、アメリカチームのスーツを着た女性が血相を変え、真矢の口に手を被せて止めた。その女性は、日本チーム全員を腕で引き寄せるとコソコソ話を始める。


「緊急事態でしたので失礼しました。私は、アメリカ奇術省職員のリースと申します。ブレアさんに、“チビ”や“幼い”、“小さい”などの容姿と年齢のことは話さないで下さい。彼女はああ見えて、42歳のベテランです」


「42ぃ⁉︎」


 大声を出し掛けた真矢の口をリースは再び止め、人差し指を自身の口の前に立てる。


「しーっ! 過去、年齢と容姿を馬鹿にした捕虜を、半殺しにしてしまったこともあります。くれぐれも、ブレアさんの年齢と容姿の話しだけは控えて下さい。命の危険があります」


 ブレアの凄まじい殺気の籠った聖気を、背後から感じた日本チームにリースを加えた5人は、冷や汗をかき日本チーム全員が大きく素早く頷いた。そこへ、笑顔のままドスの効いた声でブレアが再び真矢へ尋ねる。


「おさ・・・・何ですって?」


 振り返った真矢は、大量の冷や汗をかきながら言い直す。


「いや〜“お酒”の似合う良い大人だと思いまして〜あははは」


 ブレアの殺気が消えた。


「あら、あなた解ってるじゃないの。フフフッ。さっきの質問だけど、奇術省職員のリースはともかく、今回の共同任務の為に日本語を習得していた私がリーダーに選抜されたのよ。他の2人は日本語が喋れないから、私が紹介するわね。彼がマイケル。彼女はステファンよ」


 紹介された2人が、片言の日本語で挨拶だけした。


「よろしくネ」


 顔合わせが済んだところで、有働が任務の詳細を説明し、リースがマイケルとステファンへ通訳する。

 今回の任務は、アメリカチームと共にアメリカから脱国した奇術師の中国への亡命阻止である。よって、早急に礼文島を聖気探知で島の北と南から其々ローラー作戦で脱国奇術師を捜索。敵の聖気探知から逃れる為、こちらは聖気を抑え隠密行動を取り、発見でき次第包囲。『隠』発動と共に、奇襲を仕掛ける。最終的には拘束、又は殺害である。任務難易度は中級。


 任務説明が終わり、3人が車へ乗り込もうとしたとき。糸成の腰に付けていた狼の仮面を目にしたブレアが、糸成を呼び止める。


「待って、糸成」


 糸成は振り返った。


「何です?」


「その仮面。あなたが“緋色の狼(スカーレットウルフ)”だったのね。まさか、下級術師だったとは思わなかったわ」


 糸成は、ぽかんとした顔をする。すると、聞き耳を立てていた真矢と界斗が慌てて車から飛び出し、車の横で突っ立っていた糸成へ飛び付いた。そして2人共糸成を指差し、声を揃える。


「糸成が“緋色の狼(スカーレットウルフ)”ぅ⁉︎」


 ブレアを見る2人の目は、驚きで飛び出しそうだった。その顔に笑いながら、ブレアは答える。


「えぇ。“あの動画”を観たのは、民間人だけじゃないのよ。上級魔獣の、それもかなり大きい大土蜘蛛を、未知の術式を使い一撃で討伐。その威力に加え、大狼家秘伝の高速転移術式の後継者。大狼家の高速転移術式を使えるだけでも、二つ名が付けられる。だから、そもそも付いて当然なのよ」


「嘘でしょ・・・・まさか、本当に付くなんて」


 真矢が低く怯えた声で呟くと、全くピンときていなかった糸成が、真矢と界斗の顔をキョロキョロと見ながら口を開く。


「ねぇ。さっきから、二つ名がどうとか。付いたら何かまずいの? 恥ずかしいからあんまり言わないで欲しいんだけど・・・」


 糸成の肩に乗せた界斗の手に力が入り、深刻そうな声色で説明を始める。


「各国は、常に他国の術師に目を光らせてる。そして、自国にとって単独で脅威となり得ると判断した他国の術師に、二つ名を付けて“警戒術師リスト”、通称“レッドリスト”に載せるんだ。二つ名を付けた術師の戦闘スタイルは国家レベルで研究し対策を練られ、それを国内で共有する。つまり、二つ名を付けられた術師は対奇術師戦での術式不明というアドバンテージを失うんだ。だから、二つ名を付けられた術師の多くが・・・・」


「多くが? 何?」


 手を振るわせ、下を向いて言葉が出ない界斗に代わり、真矢が答える。


「1年以内に、倒されるのよ」


 深刻な雰囲気で話す日本チームへ、腰に手を当て仁王立ちするブレアが言った。


「だから、1年以上生き延びた二つ名持ちは、“本物”と言われるわ」


「大国、しかも同盟国のアメリカにまでマークされたってことは、全世界にリストへ入れられたのと同義だ。接敵すれば、チームを組んでいても戦闘スタイルの割れてる二つ名持ちを警戒され、真っ先に狙われる」


 界斗の話を聞き、少し黙った後糸成が口を開く。


「2人共ありがとう。僕のこと、心配してくれたんでしょ? 大丈夫。僕は勝つよ」


 笑顔を見せながらも力強い眼をする糸成に、真矢と界斗は少し安心する。緋色の狼と分かった糸成にやや警戒していたブレアだったが、糸成の本心から出た言葉と雰囲気に、危険性は低いと判断した。そして、少し悲しそうな目を見せる。

 話を終えると、日本チームは車で島の南端へと向かった。



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