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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第22話 戦う理由

 糸成の聖気1、魔気1の割合で融合された赤核が、アベルを指差した人差し指の先に現れると弾丸程の速さで放たれる。それに反応したアベルは、向かって来た赤核を突いた。すると、紅色の閃光と共に赤核が花火が爆ぜるように大爆発を起こす。アベルの後ろの木々は吹き飛んだ。爆煙から出て来たアベルが呟く。


「なんて非芸術的な・・・・っ!」


 糸成は『紅花火』を連射した。山に幾つもの爆音が鳴り響く。アベルは全ての赤核を弾き直撃は免れたが、『アグダメンテ・クレイバー』を繰り出す溜めを作る時間を、糸成が与えなかった。糸成は『紅花火』を放ちながら、踏ん張れない左足を捨て、全身に流していた聖気を無事な右足へ集中させる。全力で強化した右足で、糸成は跳んだ。踏ん張った地面が、音を立てて割れる。爆炎から出たアベルが糸成の接近に気付く頃には、糸成は目の前にいた。アベルは糸成の急所を狙って突くが、慌てていたせいで狙いが外れレイピアは腹部に刺さる。アベルは後ろへ下がり、体勢を整えようとした。しかし、腹からレイピアが抜けない。糸成の胴を貫通するほど深く刺さったレイピアは、全力で筋肉を硬直させた糸成の身体から抜けなかった。


「捕まえた! お前に、これ以上人は殺させない!」


 糸成は間髪入れずに、アベルの胸に触れた。


『緋掌!』


 右手のひらに空いた穴の中に、赤核が現れる。その後、緋色の閃光が夜の森を照らす。


「しまっ・・・・た・・・・」


 アベルは口から血を流し、後ろへ倒れた。


「な・・・・なんとか勝てた」


 糸成は判っていた。慌てたアベルが急所ではない腹を刺したから、自分は勝つことが出来た。急所を刺されていれば、良くて相打ち。あまりにも大きな賭けをしてしまったことを。自分の弱さを思い知る。


 一方、棒使いを真矢が糸成から引き離した頃。

 真矢は、棒使い相手に苦戦を強いられていた。棒使いの術式は、棒の伸縮。つまり、如意棒であった。伸縮自在の如意棒に、矢が落とされる。


「儂の相手が、小娘1人とは。舐められたものだな。儂の名は、黄猿(おうえん)。小娘、貴様を殺す男の名だ。覚えおくが良い」


 真矢の矢に刻まれた術式は、命中してからでないと発動しない。その為、命中する前に落とされた矢は現象を発現出来なかった。真矢が、跳び回りながら矢を射続ける。戦いの最中、黄猿の強さに真矢が疑問を持つ。


「ねぇあんた! 黄猿だっけ? 何でアンノウンなんかにいるの? それだけの腕がありながら、何故脱国を?」


 真矢の問いを、黄猿は鼻で笑う。


「フッ。簡単な話だ。金さ! 組織は金払いが良い。祖国は、儂等奇術師を唯の兵隊としか見ていない!」


「金の為なら、人が殺せるっていうの⁈」


 話を聞いた真矢の弓を引く手に、力が入る。


「金がなければ、人は生きられん! 儂の祖国は、富裕層のことしか気に掛けない。寒村の飢えた子供のことなど考えぬ! 平和で恵まれたこの国に産まれた貴様に、飢える恐怖は分かるまい! 金だ! 全ては、金が解決する!」


 真矢は、日本という恵まれた国で奇術師の家系に生まれた。一族からは罵倒されても、食事は恵んで貰えた。愛情を向けられない辛さを知っていても、飢えることの辛さは知らない。真矢は、自分の存在価値を証明する為だけに戦うという自身のちっぽけな戦う理由に、それですら恵まれた者の悩みであると気付かされ、何も言い返せなかった。脱国という真矢には理解出来ない行動に、少しだけ納得がいった。戦う理由を考えさせられる真矢は、徐々に間合いを詰められる。


「クソッ、これならどうよ!」


『突羽の矢!』


 音速を超える『突羽の矢』が、黄猿に迫る。しかし、如意棒の伸縮はそれよりも速かった。


天地転壊(てんちてんかい)


 容易に矢を落とした如意棒を、黄猿が力強く地面に叩きつけた。地響きと共に、真矢へ向かって地割れが迫り地面が津波の様に押し寄せる。迫り来る土の波を避ける為、木の枝に跳び乗ろうとした真矢へ如意棒の先が向く。


迅俊突暢(しんしゅんとっちょう)


 目で捉えられない程の速さで伸びた如意棒は、真矢の腹にめり込み、そのまま突き飛ばす。百メートル近く木を薙ぎ倒しながら突き飛ばされた真矢は、嘔吐した。


「ゲホゲホ・・・・跳んだ瞬間を狙われた。それに、全く如意棒が伸びる瞬間が見えなかったわ。恐ろしく速く、重いわね・・・・!」


 膝を着いた真矢に黄猿が飛び寄り、上空から如意棒を振り降ろす。


「死ねぇい!」


 それに対し、真矢が両手で弓を握る。


「弓術にも、近接技はあんのよ!」


射場流弓術いばりゅうきゅうじゅつ 流水(りゅうすい)!』


 振り下ろされる如意棒に真矢の弓の先が触れると、まるで水が流れるように如意棒の軌道を受け流す。


「何ぃ⁈」


 体勢を崩した黄猿の背中に、真矢が握り締めた矢を突き刺す。


閃雷(せんらい)の矢』


「射った矢が当たらないなら、直接刺せば当たるでしょ!」


 刺さった矢は放電し、黄猿の体内を焼いた。黄猿が電撃で焼け、痺れている間に距離を取った真矢は、余裕をもって矢を射る。


「あんた、なかなか強かったわ。私は射場真矢。あんたを殺す、女の名よ」


『刹火の矢』


 痺れて肉体強化が安定していなかった黄猿の身体は、矢が命中すると爆散した。


「痛ててっ・・・・さて、糸成は無事かしら」


 真矢は腹に手を当てる。すると、糸成が戦闘をしている方角から、爆発音が連続して響いてきた。真矢は、音を頼りに糸成のいる方角へと向かう。


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