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緋色の奇術師  作者: オクヒロ
アンノウン編

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第21話 殺人とは

 足を止めた糸成は、立ちはだかる敵の奇術師を冷静に見極める。


「真矢、左の棒使いを頼める? 僕は、右の2人を相手にするよ」


「あら、私が2人でもいいわよ? ・・・・気を付けてね」


「うん。そっちもね」


 軽口を叩く真矢だったが、糸成の意図を汲んで引き受ける。糸成が右2人の奇術師へ近接戦を仕掛け、真矢は西へ走りながら棒を持った1番左の奇術師に攻撃した。糸成が気を引いている隙に、敵を分断する。距離を取り、乱戦を防ぐ為である。糸成が引き付けた赤い中華服の男が、服に刻まれた術式を発動し、服がほんのりと光る。


焔壁(えんへき)


「あぶねっ!」


 奇術師2人と糸成の間に、炎の壁が発現する。苦無で攻撃しようとした糸成は、炎に触れるギリギリで攻撃を止めた。中華服の男が、クスクスと笑い余裕を見せながら片言の日本語で話す。


(ウォ)相手に近接とは、残念だったヨ小僧。我の炎の灰となるが良いヨ。アベル、燃やされたくなかったら下がってるヨ」


「油断しないことですよ? (りゅう)


 レイピアを腰に差し、立派なカイゼル髭をたくわえた欧州系の男が後ろへ下がる。1対1の戦闘に持ち込めたと思った糸成は、劉のみに意識を集中する。正面から突っ込んでも、『焔壁』に阻まれ近づけないと判断した糸成は、苦無を劉の左右へ身体から少し逸らして2本投げた。


「小僧、投げるの下手くそヨ。どこ狙ってるヨ?」


 劉の横を、苦無が通り過ぎた瞬間。


『影狼』


 糸成は、右へ投げた苦無へ転移する。苦無を掴むと、そのまま劉へ触れようと手を伸ばす。しかし、即座に反応した劉が『焔壁』を発動する。糸成は、伸ばした腕に下から燃え上がる炎が当たる直前に、左へ投げておいた苦無へ『影狼』で回避した。劉は少し驚きつつも、余裕を見せる。


「びっくりしたヨ。それは転移術かヨ? こんな速いの、見たことないヨ」


 糸成が、今度は劉目掛けて苦無を投げる。


「無駄ヨ」


 苦無は『焔壁』に防がれ、地面に落ちた。すると、劉の背面に1本の苦無が落ちてくる。その苦無へ転移した糸成は、劉の背中に手を触れた。


「僕の勝ちだね?」


『緋掌』


 緋色の閃光と共に、劉の背中から胸にかけて穴が開く。


「な・・・・にぃ⁈」


 糸成は、影狼で劉へ接近し『炎壁』で防がれたとき、劉の真上へ苦無を投げていた。それを、劉は自分で至近距離に出した『炎壁』で見えていなかった。

 劉が倒れる寸前、倒したと油断した糸成に最後の力で術を繰り出す。


焔灯篭(えんとうろう)!』


「これで死ぬがいい・・・・ヨ・・・・」


 糸成を中心に、六角形に囲む炎の柱が6本立つ。その柱は徐々に中心へと集まり、1つの大きな柱となった。すると、ガサガサと物音を立てて森の中から糸成が出て来る。


「危なかったなぁ。保険で、苦無を森に置いておいて良かった。さて、次はあんたの番だ」


 糸成は、握った苦無の切先をアベルへ向ける。アベルは劉の骸の横まで来ると、片言な日本語で話し始めた。


「だからあれほど、対近接戦の訓練をしろと言いましたのに。情けない奴ですねぇ」


 アベルがレイピアを抜き、構える。


「お前、アベルと言ったか? お前達、アンノウンの目的はなんだ! 何故、何の罪のない人を殺す!」


 初めての対奇術師戦を制し、自分の『影狼』と『緋掌』のコンボが対奇術師にも通用すると思った糸成には余裕が生まれ、アンノウンの目的を問いただす。しかし、アベルから返ってきた答えは、糸成の最も嫌悪するものだった。


「何故? そんなの・・・・楽しいからに決まっているでしょっ!」


 目にも留まらぬ速さで繰り出されるアベルの連撃を、苦無で何とか往なす。赤鬼との戦闘を機に、自分の戦闘スタイルを刀から『緋掌』をメインに変えた糸成は、今回の作戦で刀を装備していなかった。そのことが、裏目に出る。アベルの不規則な連続した突きに、そのリーチ差から触れるどころか近づくことすら敵わない。隙を見て触れようとしても、アベルの軽快な身のこなしで難なく躱された。膠着状態が続く。そんな中、糸成が強い口調で反論した。


「殺しが楽しい⁈ お前、頭おかしいんじゃないのか? あれが楽しいだと⁈ あんなの、唯々苦しいだけじゃないか!」


 罵声を浴びせる糸成に、アベルは疑問の表情を浮かべる。


「では、貴方にとって殺人とは何ですか? さっきも、劉を躊躇なく殺したでしょう。何故殺すのです?」


 自分にとって殺人とは何か。自分は、何の為に人を殺すのか。今まで殺してきた敵の顔が、糸成の脳に浮かぶ。


「僕が人を殺すのは、人を守り生かす為だ! お前達のような人間が、何も知らず、何の罪もない人の人生を狂わせる! 僕はそれが、許せない!」


 糸成の激情を、アベルは笑う。


「それはそれは、大層な正論ですねぇ。私にとって、他人の死は快感! 殺人とは芸術! あなたも、私の作品の1つにして差し上げましょう」


 不気味な笑みを見せると、アベルが後方へ跳んだ。レイピアを構え、溜めを作ると鋭い踏み込みでその場で突く。


『アグダメンテ・クレイバー』


 アベルの突きは、音を置き去りにした。放たれた飛ぶ突きは、糸成が反応する間もなく糸成の苦無を握っていた右手のひらに、丸い直径5センチ程の丸い穴を空けた。


「熱っ!」


 糸成には、アベルがその場で恐ろしく速く突いたことしか見えていない。その為、明らかにリーチの足りていない突きで、何故自分の右手に穴が空いているのか理解出来なかった。


「身体の先から心臓へ、少しずつ突いて差し上げます」


 アベルはニヤリと不気味な笑みを見せると再び構え、『アグダメンテ・クレイバー』を2回連続で放つ。糸成は咄嗟に右へ避けようとしたが、動くよりも速く左足の甲と左肩に穴が開く。


「ぐあぁぁ!」


 糸成は左膝を地面に着き、右手で左肩を押さえた。穴の空いた箇所から、ドクドクと出血する。再び構えるアベルに、左腕が上がらなかった糸成は穴の空いた右手の人差し指と親指を立て、アベルに拳銃を向けるように照準を合わせる。


紅花火(べにはなび)


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