第20話 空挺降下
24時。Cー130H輸送機、小牧基地離陸。
機内で、界斗は特殊作戦群の隊員に気さくに話しかけていた。人当たりの良い界斗は、直ぐに打ち解けて隊員達からの質問にも答えられる範囲で返す。その左の席には、初めての飛行機で酔った糸成。さらに左には、蒼白な顔で床の一点だけを見つめ続ける真矢。そして、席に寝転びいびきをかいて寝ている雷蔵が並んでいた。
1時50分。機内。
「では、皆さん集合してください。ハーネスの接続を行います」
奇術師の4人は、空挺降下の訓練など受けていない。よって、特殊作戦群隊員とハーネスを接続し、タンデムフライトで降下する。
1時54分。
「目標まで6分!」
エンジン音に負けないように、特殊作戦群隊長の柴原が声を張る。
「いいか! 今回の任務は日本の、ひいては世界の平和を守ることである! 今回、敵を取り逃せば! 奴等は日本へと舞い戻り、再び日本襲撃の準備をするだろう! よって! 今日、此処で我々が食い止めなければならない! 敵の逃走を阻止する為、迅速な制圧が必要とされる! 諸君等の健闘を期待する! いくぞぉ!」
「おう!」
「いくぞぉ!」
「おう!」
糸成、真矢、界斗の3人は隊員達の覇気に圧倒された。しかし、彼等は特殊部隊とはいえ非術師。敵の脱国奇術師達から、護らなければいけない存在。全員無事に返すことができるか分からない。3人は気を引き締め、真矢は兎、界斗は亀の仮面を各々被った。雷蔵も、猿の仮面を被る。一同を乗せた輸送機は、呪嶽島へと迫る。
「降下よーい! 立てぇ! 環かけ!」
総員起立すると、フックを機内のワイヤーに掛ける。
「装具てんけーん!」
「1、2、3、4・・・・送れ!」
「よし!」
後方から隊員達が装具の点検を終えると、前方の隊員の右肩を叩き合図を送る。最前列まで装具点検を終えると、柴原が声を出す。
「よし! 位置に付けぇ!」
輸送機の左右のドアが開かれ、機内に強く冷たい風が流れ込む。呪嶽島が見えると、機内放送が流れた。
「カンヴォイ01、コースよし。コースよし。用意用意用意」
2時。呪嶽島上空、降下開始。
「降下降下降下!」
合図で、隊員は続々と降下を始める。
「降下ぁ!」
全隊員が降下すると。
「反対扉機内よぉし! お世話になりました!」
柴原が声掛けし、最後に降下して行った。
「どうやら、バレてねぇみてぇだなぁ」
先頭で降下した雷蔵が抜刀し、刃先で狙いを定める。
『核撃紫電砲』
雷蔵の刀の切先から、紫色の雷でできたレーザーが真っ直ぐ飛び出し、直撃した港と滑走路は消し飛んだ。地面は抉れ、海水は蒸発し空間に穴ができる。その圧倒的な威力と初めて目にする奇術に特殊作戦群の隊員は茫然とし、弟子の3人は其々の反応を見せる。
「いつ見ても、凄い威力ね。言葉が見つからないわ」
パラシュート降下しながら顔色の悪い真矢は苦笑いし、初めて雷蔵の術式を目にした糸成は興奮していた。
「おじさんカッケェ! 唯のふざけたおっさんじゃなかったんだ! 何で、今まで見せてくれなかったの!」
それに対し、界斗は冷静に戦況を分析する。
「流石先生。発見される前に、港と滑走路を排除出来た。取り敢えず、奇襲は成功だな」
その頃、雷蔵の攻撃を確認した奇術師達は、呪嶽島を包囲したイージス艦4隻の甲板に描いておいた『隠』を起動した。1分も掛からずに、結界が呪嶽島を包み込む。すると。
「3人共〜気ぃ引き締めろ〜。何人か強いの居るぞ〜」
雷蔵が言った途端、拠点のある地上から遠距離術式による攻撃が、パラシュート降下中の糸成達を目掛けて複数飛んでくる。
『断隔』
雷蔵の左籠手が光り、目の前に結界が広がると全ての攻撃を受け止める。その『断隔』は、界斗のものよりも遥かに力強く、大規模だった。全員が浜辺に降下するまで、雷蔵は空中の隊員を守り続けた。降下した隊員たちは、パラシュートを脱ぐと臨戦体勢に入る。全員が降下したタイミングで、雷蔵は全員を集合させた。
「上級でもトップクラスの術師の気配が、2人程確認出来た。よって、俺が先行してそいつらを叩く。それ以外の術師は、糸成と真矢が殺れ。界斗は、特殊作戦群に付いてサポートだ。柴原さんの指揮下に入れ。柴原さん、非術師の制圧は任せます。奇術師と接敵したら、結野を使って下さい。以上。散」
そう言うと、雷蔵は物音も立てずに姿を消した。
「よし、では我々も行こう」
柴原が支持を出すと、隊員達が目標の建物へ侵攻する。
「糸成、先生に続いて脱国奇術師達が自衛隊と接触する前に殺るわよ。界斗、そっちは任せたわね」
3人は頷くと、其々行動を開始する。糸成と真矢は雷蔵に続き、界斗は柴原の側に付いた。糸成と真矢が施設へ向け、森の中を走っていたとき。前方が紫色に閃光したかと思えば、激しい雷鳴と衝撃波が飛んでくる。
「ねぇ、真矢。もしかして、あれ全部おじさん?」
糸成が、前方を指差した。それに、真矢は頷く。
「えぇ。こんな無茶苦茶なの、先生くらいよ」
そのとき、1発の大きな銃声が森に鳴り響く。2人が反応した途端、真矢の眉間に弾丸が当たる。前傾姿勢で走っていた真矢が、左後方へ仰け反った。上半身を起こすと、真矢の仮面が割れ眉間から血が流れる。
「真矢! 大丈夫⁈ 血が」
「大丈夫、かすり傷よ。弾丸は肉体強化のおかげで弾けたわ」
真矢が言うと、再び銃声が聞こえた。2人は瞬時に左右へ跳び、木の影に隠れる。
「唯の銃声だと思って油断したわ。おそらく、対物ライフルによる狙撃ね。じゃなきゃ怪我なんてしないわ。それより・・・・」
「ま、真矢?」
仮面の取れた真矢の目は冷たく、殺伐としていた。
「私を撃ったこと、後悔させてやるわ。顔に傷が残ったら、どうすんのよぉ!」
『刹火の矢 撃!』
弓使いの真矢は、2度の狙撃で敵の狙撃位置を完璧に把握していた。真矢は、東の山肌へ向かって矢を射る。
その頃、真矢を狙撃したアンノウンの非術師戦闘員は、再び真矢を狙っていた。
「チッ。対物ライフルの20ミリ弾で死なねぇなんて、人間じゃねぇだろ。やっぱり、奇術師は餓鬼とはいえ硬ぇなぁ。まぁ、俺の仕事は足止め。もう2、3発当てるか。おっ、顔出した。・・・・え?」
そのとき、男の覗いたスコープには矢が向かって来るのが映った。驚いた男が顔を離すと、真矢の矢がスコープを貫き真後ろの木に突き刺さる。
「おい、マジか・・・・」
矢が爆ぜて一帯の山肌を吹き飛ばし、地形を変えた。
「さっ、行きましょ?」
眉間から血を流し笑顔で先へ進む真矢を見て、糸成は苦笑いし絶対に真矢を怒らせてはいけないと悟る。2人が森を突き進むと、非術師の戦闘員が木の影と塹壕からマシンガンを撃ってきた。真矢が嫌がらせ程度の『刹火の矢』で煙幕を張り、防衛線を強行突破する。更に進み、山道の途中。正面から斜面に沿って、射られた矢程の速度で迫り来る火球を2人は回避する。糸成と真矢の目線の先には、3人の奇術師が立っていた。




