第19話 作戦会議
糸成生還から2週間後。
3人へ、新たな任務が与えられた。服部邸に集合した3人は、雷蔵が出て来るのを待った。
「ねぇ界斗。今回の任務について、何か聴いてる?」
「いや、“完全装備で来い”ってこと以外、まだ何も聴いてねぇよ。」
糸成と界斗が話していると、籠手や鎖帷子に紺色基調の現代忍び装束の完全武装の上に、フードにファーの付いた茶色で年期の入った半袖レザージャケットを着た雷蔵が、家から出て来た。普段、雷蔵は緩い服装を好んで着ている。任務へ出るときも、ワイシャツなどの私服であまり武装はしない。見慣れない雷蔵の完全武装に、3人は違和感を持つ。
「よ〜し、揃ってるな? 5分前行動、大変結構っ! んじゃっ、行こっか〜」
その物々しい装備とは裏腹に、いつもどおり気の抜けた雰囲気の雷蔵が、服部邸の正面に着けた奇術省の車へと向かう。車に乗り込み出発するタイミングで、真矢が尋ねる。
「ねぇ先生。今回の任務は何なの? それに、その装備も」
「ん? 着けば分かるさ」
雷蔵は移動中、任務のことに関して一切話さなかった。口に出したのは、里内の回覧板の話や近所の口煩いおばさんへの愚痴など、どれもどうでもいい世間話だった。
数時間移動すると、ある施設に車が入って行く。
「おいマジか! 小牧基地に入ってくぞ!」
憧れを見る子供の様に目を輝かせながら驚く界斗に、糸成が聞いた。
「小牧基地って? 奇術省に基地とかあるの?」
ミリタリーオタクの界斗は、ウキウキで説明する。
「小牧基地。愛知にある、中部地方で1番大規模な航空自衛隊の基地だ。奇術師でも、なかなか入れるもんじゃないぜ?」
「自衛隊の基地の中に、門があるのかしら? こんなの初めてよ」
物珍しさに車の窓へ張り付く3人を、雷蔵は微笑ましそうに見つめた。
車を降りた4人は、基地本部の会議室へ案内される。そこには、制服姿の自衛官30名とその上官、数人の黒子がいた。1人の黒子が、糸成へ向かって歩いて来る。
「大狼君。君の無事の帰還に、私も嬉しく思うよ」
派遣されていた有働が、糸成に声を掛けた。
「有働さん! ありがとうございます。これからも頑張ります!」
笑顔の糸成に有働は優しい笑みを見せると、穏やかな声で話す。
「あのときもそうだけど、私達は術師の任務サポートしか出来ない。だから、君が行方不明の間、皆心配していたんだよ。あまり、無茶はしないようにね?」
有働の話で、改めて自分は多くの人に支えて貰っていると自覚した糸成は、大きく頷いた。
雷蔵達4人が用意された椅子に着席すると、明かりが消され正面にスクリーンが下ろされた。すると、有働が話し始める。
「私は、奇術省職員の有働と申します。これより今回の任務、“呪嶽島制圧作戦”について説明致します」
呪嶽島。鹿児島県南方にある無人島である。周辺住民はその名前と、周辺海域で起きる漁師失踪事件などから、“呪われた島”と呼び近寄らない。そんな島に、各国から脱国したテロリスト奇術師集団、“アンノウン”の拠点があることが判明した。アンノウンは、奇術師の社会的地位向上と、その存在を人類世界に周知させることを目的とし、世界各地で門の襲撃やテロ活動を行っている。その構成員は脱国奇術師と、諜報と工作を手助けする非術師である。
鹿児島県からの情報では、この島に人は住んでおらず無人島であるとのこと。しかし、国は衛星写真で島の東部に届出の無い小規模の港と滑走路を確認。島の中央山岳部には、中規模の建物も視認している。衛星写真、サーモ写真の情報から奇術師、非術師の工作員含め約50名が潜伏していると考えられる。正面から奇術師が肉体強化状態で侵入しようとすれば、聖気の反応で気付かれる可能性がある。その為、今回は防衛省自衛隊全面協力の下、隠密奇襲作戦により施設の制圧を目標とする。
まず、C—130H輸送機で小牧基地を出発。奇術師は聖気運用を控えて搭乗し、気配を断つ。輸送機は島を横断し、呪嶽島上空で空挺降下。その際、上空から遠距離術式による攻撃により港と滑走路を破壊し、アンノウンの逃走手段を断つ。その攻撃を合図に、呪嶽島の四方に配置されたイージス艦4隻を起点とし、大規模な『隠』を起動。島南部の浜辺へ降下後、奇術師は脱国奇術師を、陸上自衛隊特殊作戦群が非術師構成員の制圧を行う。制圧完了後、イージス艦が奇術省調査部隊を派遣、作戦部隊と捕虜を回収。
「以上が、今回の任務の詳細となります。自衛隊の皆さん、今回の作戦は“奇術機密作戦”です。任務終了後も一切の口外が禁止となりますので、よろしくお願い致します」
奇術機密作戦。奇術省所属以外の人間が、奇術に関わる任務へ参加する作戦のこと。奇術と奇術省の存在は、政府関係者であっても各省大臣とその側近数名以外には知らされていない。よって今回のように、奇術省が国の各省へ協力要請した場合、必要に応じて限られた人間にのみ奇術の存在が開示される。
会議終了後、作戦へ参加する要員は一時解散となった。糸成達4人が基地内の自販機で飲み物を買っていると、深刻そうな顔をした真矢が雷蔵の服を引っ張る。
「空挺降下って、マジ?」
「ん? お〜マジマジ。・・・・うぉ~このジュースうめぇ〜。真矢もどう?」
「要らないわよ」
怒りながら断った真矢の顔は血の気が引き、引き攣っていた。そんな真矢を心配して、糸成が声を掛けようとしたところを界斗が止める。
「真矢な、高いところと飛行機がダメなんだ。飛行機の中で、絶対話しかけるなよ? マジギレするから」
界斗が、糸成にコソコソと小声で忠告する。しかし、飛行機が初めてだった糸成は、真矢のことが他人事ではなかった。このとき、雷蔵から今回の任務について話があった。
今回の作戦は本来、上級術師複数名で行われる予定だった。しかし、特権術師の雷蔵が志願した為、単独で充分と奇術省は判断する。そこで、雷蔵は弟子のチームを“上級術師になる為の教育”として、任務に同行させる許可をごり押しで通した。つまり、今回の糸成、真矢、界斗の3人の名目上の任務は、“社会見学”である。名目上は。雷蔵の考えは違った。彼等にレベルの高い対奇術師戦を経験させることで、より一層のレベルアップを図る。その話の最中、糸成が1つ引っ掛かる。
「上級術師になる為? まだ、僕達下級なのに?」
「何だ? 真矢と界斗、言ってなかったのか? この2人は糸成が行方不明の間に、中級術師に昇格してる。“もっと強くなって、自分達で糸成を探すのよ〜”ってな」
真矢のモノマネをする雷蔵に、機嫌が悪かった真矢がキレた。
「そこまで言わなくていいのよ!」
真矢が、雷蔵の脇腹を鈍い音を立てて殴る。
「ぐはぁっ! ・・・・マジ殴りぃ・・・・」
「糸成が生きていると信じて、私達なりに頑張ったのよ」
照れて耳を赤くして目を合わせない真矢に、糸成は嬉しくて笑顔で返した。
「そっか、ありがとう。僕も追いつけるように、頑張るよ」
そこへ、雷蔵が言い忘れていたことを思い出し、糸成へ伝える。
「あ〜それと糸成。これは極秘情報だが、今のお前には知る権利がある。“傷の男”はアンノウンの可能性が高い。この意味分かるな? ・・・・痛ぇ」
雷蔵が脇腹を摩りながら言った。家族の仇が、もしかしたら今回いるかも知れない。そう思うだけで、糸成の目は殺気立つ。
その後、4人は解散し、精神統一する者、自衛隊基地を見て周る者、漫画を読む者、そして飛行機に乗る覚悟を決めようとする者に別れた。




